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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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畏敬

「おはようございます。あの、母と娘を連れてきているのですが、少しだけお時間いただいてもよろしいでしょうか?」

「ん、なに? かまわないけど、どうしたの? 」

「お礼を言いたいそうです」

「お礼?」


ユリは少し考えて、昨日の持ち帰ったおやつが美味しかったとかだろうと、心当たりをつけた。


お店に呼んでもらい 顔を出すと、メリッサの母親らしき女性がいきなり土下座して、娘らしい子供が、満面の笑みでお礼を言っていた。


「ゆりじょうおうたま!おいちいたべもの、ありだとざいまつた!また、たべたいでつ!」

「はい。また、メリッサさんに持って帰ってもらいますので、楽しみにしていてくださいね」

「わーい!やったー!」


微笑ましく会話が終わった。子供とは。


「・・・えーと、メリッサさんのお母様かしら?」

「は、はいぃ!」

「出来れば起きて、椅子に座っていただきたいんですけど」

「た、大変申し訳ございません」


メリッサの母親らしき女性は、その場に正座した。下を向いたままだ。

ユリは悟った。これは自分で言っても無駄だと。


「メリッサさーん、お母様に、椅子に座るように説得してくださーい」

「はい、ただいま参りますー!」


厨房から飛んできたメリッサが、母親に説明していた。


「ちょっと母さん、ユリ様に失礼だから、言うことを聞いて?」

「そ、そうなのかい? 偉い人の顔を見たら(ばち)が当たらないかい?」

「ユリ様が、座るようにおっしゃっているのに、座らない方が、よほど失礼よ」

「そ、そうなのかい?」


恐る恐るといった感じに、やっと椅子に腰かけた。


「えーと、私が、白衣を着てこの店にいるときは、この店の店主なので、敬わなくて結構です。女王の服を着て冠をつけている時だけ、女王だと思ってください」


やっとユリの方を見た。


「本当に、本当に、」


今度は泣き出した。


「母さん、今度は何? ユリ様は忙しいんだから、話したいことがあるなら、早く言って?」


ユリは、困ったなぁと思いながらも静かに待っていた。


「め、メリッサを、」


詰まったまま言葉が続かない。

メリッサを、の続きはなにかしら ?


「メリッサを雇ってくださり、本当にありがとうございます」


普通の挨拶だったわ!


「メリッサさんは優秀なので、私も助かっています」

「このご恩は一生忘れません。本当に、本当に、ありがとうございます」


割りと会話が噛み合っていない気がする。

ユリは、初期のマーレイや、城で初めてシッスルに会った時を思い出していた。

努力の結果ではないところで偉くなって敬われるのは、苦手だわぁ。


「メリッサさん、今日のお昼はグラタンだから、皆さんも一緒に食べていくと良いわ」


ユリは仕事もあるので先に退席した。

少しして、厨房へ来たメリッサが説明してくれたところによると、孫の失礼な態度の責任をとるつもりで、あのような行動に出たらしい。


なんだろう? この国の貴族には、幼児に腹を立てる人が居るのだろうか?

ユリには理解できなかったが、そういう者も居る。


このあとすぐにマーレイが来て、11時頃にはイリスも来て、お昼前にソウも帰ってきた。


「ユリ、ただいま、キウイ買ってきたよ」

「ソウ、おかえりなさい。キウイありがとう」

「そういえば、ちょっと面白い物貰ってきたよ。あれ?お店、誰かいるの?」

「メリッサさんのご家族がね。ご挨拶に見えたのよ」

「へえ。丁寧だね」

「そうね」


少し疲れた感じのユリを不思議に思ったのか、ソウはユメにそっと尋ねていた。


「リラちゃん、お昼休み開けたら、フルーツオムレットを組みます」

「はい。キウイフルーツ以外、準備終わっています」


ユリはミルクレープを冷蔵庫から出してきて、半分に切り、もう一回、36度の角度になるように放射状の切り目をいれた。


「リラちゃん、全部で10等分になるように残りを切ってくれる?」

「はい」


ユメがリラを覗きにいっていた。


「ユリ様!凄いです!これ、何で同じ大きさになるんですか?」


残りを切ったリラが、興奮ぎみにうったえていた。


「10等分するときは、ケーキの大きさに関係なく同じ角度だからね。その角度だけ覚えてしまえば良いのよ。販売するケーキを切る数で難しいのは10等分くらいだからね」

「大きさに関係ない、成る程そうなのか!」


リラはユリが言った意味がわかったらしい。


「慣れれば、そのうちできるようになるわよ。最初は36度の厚紙でも作って当てて切ったら、そのうち角度を覚えるわ」


みんなに好きなグラタンを選んでもらい、焼いている間にキウイフルーツを剥いてカットした。


「あら?そちらは温めないんですか?」

「これは冷たいまま飲むスープなのよ」

「冷たいスープ!?」


ユリの手元を覗き込んできたメリッサが、驚いていた。

ガラス製のカップに注ぎ、10個用意した。


「メリッサさん、そういえばお子さんって、同じもの食べられそう?」


グラタンを幼児は食べられるのか、今さら気になったのだ。


「問題ございません。いただいた揚げ物も、一番多く食べていました」

「そう?無理そうなら言ってね。他にも食べるものはあるからね」


鞄の中に、色々ストックがある。


「他ですか?」

「初めて来た日に食べた鶏丼とか、常にストックがあるのよ」

「そうなのですか!?」

「魔力を増やして1万になったら、あなたも取り出せるようになるわよ。うふふ」


グラタンが焼け、店のテーブルに持っていった。

今日は、リラ、マーレイ、イリスが、カウンターに座っている。メリッサの家族に4人がけテーブルを譲ったようだ。


「さあ、いただきましょう」

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