苺好
「おはようございます!」
10時少し前に、メリッサが出勤してきた。
「クレープを焼くのと、肉と野菜を切ってカレーを作るのと、どっちが良い?」
「カレー作ってみたいです!」
知らないものより、わかりそうなものが良かったらしい。
ユリはスポンジをスライスしていた手を止め、野菜の切る大きさを説明した。
「ユリ、果物切れたよ」
「ありがとう」
ソウが切ったフルーツは、全て違うボールやトレーに分けてあった。
「他には?」
「いちごのヘタ取りを頼んで良い?」
「何個?」
「Mサイズ324粒お願い」
「了解」
すぐあとにマーレイが来て、クレープを頼んだ。
ユメが教えてくれるらしい。
ユリは、マーレイが持ってきた野菜などを確認したあと、生クリームを機械で泡立て、今、マーレイが焼いたばかりの黄色い生地のクレープを使い、フルーツオムレットを8個仕上げた。
「手が空いた人から、おやつをどうぞ。ユメちゃんとマリーゴールドちゃんは一旦手を止めて食べてね。マーレイさん、私が少し代わるわ」
ユリは、マーレイと交代し、黄色いクレープを焼いていった。ユメとマリーゴールドがいない間、全てのフライパンを同時に使い、フルスピードで焼いていった。
少ししてイリスが出勤してくると、来るなりおやつで、喜んでいた。
「おやつー、おやつー」
キボウが歌いながら現れた。誰か呼んでくれたらしい。
食べ終わったマーレイが戻ってきたので、フライパンを返し、ユリはキボウと一緒に、おやつのフルーツオムレットを食べることにした。
「ユリー、なにー?」
「それは、キウイフルーツね」
「ユリー、なにー?」
「それは、缶詰の黄桃ね」
中身が変わる度に聞かれた。
「いちごー!」
苺は昨日食べたから、すぐに判ったらしい。
「そういえば、キボウ君、苺好きだったわね。パックごといる?」
ユリが1パック差し出すと、大喜びで受け取っていた。
「いっちごー! いっちごー!」
こんなに喜ぶなら、早く渡せば良かった。と、ユリは思った。その瞬間、キボウが消えた。
恐らく、世界樹の森に転移したのだろう。
「帰ってきたばかりなのに、また行ったのにゃ?」
「苺を、振る舞いと言うか、納めにと言うか、持って行きたかったんでしょうね」
割りとすぐに帰ってきたキボウは、苺を持っていなかったので、ユリがもう1パック渡した。
「これは、キボウ君が食べたら良いわ」
「ユリ!ありがとー!!」
キボウは、苺をパックごと高く掲げ、踊るように喜んでいた。
ユリは、米を研いで炊飯器のスイッチを入れ、コーンの缶詰を開け、網にあけた。
ほとんど焼き終わっている、ユメが焼いている普通のクレープを使って、バナナオムレットを組んでいった。
約束通り、キボウが手伝うというので、バナナをのせてもらった。
イチゴのヘタ取りが終わったソウの他、カレーを煮込み始めて手が空いたメリッサも、手伝いに来た。イリスは出来上がったオムレットに、ユリが教えた通りに、スリーブを巻いていた。イリスは味付けさえしなければ、器用で優秀なのだ。ユリが巻くよりもビシッと揃っている。
「終わったにゃ! 次は何手伝うにゃ?」
ユメが、クレープを焼き終わったらしい。
「作り方は同じなので、赤いクレープを、台に、重ならないように並べてください」
「わかったにゃ!」
バナナオムレットが全て作り終わると、イチゴオムレットを作り始めた。まだ焼き終わってはいないが、ある程度は作っておかないと売り始められないため、クレープがあるだけ先に作ることにした。
「苺3個を並べるように入れてね」
バナナオムレットを作ったので、勝手がわかるらしく、イチゴオムレットは、特に説明をしなくても、みんなが作業を進めてくれた。
イチゴオムレットを予定の半分以上は組んだので、今、クレープがあるだけ、フルーツオムレットを組むことにした。
「生クリームの上に、半割り苺、キウイフルーツ、桃をのせて、他のと同じように折って仕上げます」
メリッサが張り切って作るつもりらしい。
「これ、先程いただいたものですね」
「その通りです。イチゴオムレットは、お昼ご飯のあとに食べたい人は食べても良いですが、バナナは、足りなさそうなのよね。ソウとユメちゃんとキボウ君は昨日食べたから要らないわね。2人で1つを分けるのでも良いかしら?」
「ありがとうとうございます!一口でも味がわかればありがたいです!」
「はい。私も一口あれば、説明がしやすいです」
メリッサとイリスが同意したので、マリーゴールドとマーレイもそのまま受け入れてくれた。今、一つ食べたので、そんなにたくさん食べきれないというのもあるらしい。
ユリは、半分に切ったバナナオムレットをマリーゴールドとメリッサに渡し、1つのままの物をマーレイに渡した。
マーレイはイリスに渡す分を、少し大きく切っているようだった。
ユリは仕上げを説明すると、空いたコンロでクレープを手伝い始めた。クレープ生地は赤が少しと黄色が残り1/3位有るようなので、ユリが全て引き取り、マリーゴールドとマーレイにも、仕上げをしてもらうように指示した。
「マリーゴールドちゃん、広げたクレープに、10gくらいのカスタードクリームを塗ってから、スライスしたスポンジをおいて、その上に生クリームを絞ってください」
「かしこまりました」
「誰にどれを手伝ってもらっても良いです」
ユリは先に黄色い生地を全て焼いてしまい、焼いたものは、大理石の台に置いたトレーの上で冷まし、続いて赤い生地も焼き、手早く全てのクレープ生地を焼き終わった。
オムレットの仕上げの方は皆に任せ、ユリはコールスローとカレーを仕上げることにした。
キャベツを切り、ニンジンを切り、塩をもみ込み水分を出した。マヨネーズ、酢、砂糖、塩、胡椒でドレッシングを調味し、もう一度野菜を水切りし、網で水切りしておいたコーンと混ぜた。
カレー用に煮た鍋にルーを加え、よく混ぜたあと、固さを調整した。少し強火で煮すぎたようだ。
サラダ用の野菜を再度水切りし、コールスロードレッシングと和え、お昼ご飯が出来上がった。
オムレットも、ほとんど出来上がり、残りは器用なイリスとマーレイがスリーブをキリッと巻いていた。
ユメとソウはお茶やカトラリーを用意し、マリーゴールドとメリッサが洗い物をしていた。
スリーブを巻くのが終わったのを見越し、ユリが声をかけた。
「さあ、お昼ご飯を食べましょう」




