記念
今日は、ユメと出会って、丁度一年になる。
世間的には5年経っているが、体感的には丁度一年だ。
一年前の今日、ソウが、可愛らしい黒猫を連れて帰ってきた。その黒猫はソウによると、轢かれていたのを助けたら懐いたので、連れてきたらしい。
ユリが名前をつけると、なんと、可愛らしい猫耳幼女になって挨拶してくれたのだ。
懐かしいなぁ。と、ユリは出会った頃を思い出していた。
「おはようにゃ」
「あら、ユメちゃん早いわね。おはよう」
「手伝うのにゃ!」
「ありがとう。今日は記念日だから、疲れない程度にお願いするわね」
ユリが記念日と言うと、ユメは何か考えているようだった。
「何の記念日にゃ? お店の開店記念日にゃ?」
「ユメちゃんと出会った記念日よ!」
「にゃ!今日が、ユリと初めて会った日なのにゃ?」
「そうよ。ユメちゃんに初めて会って、名前をつけた日よ。アルストロメリアの開店記念日は、今週末で、イベントは週明けの予定よ」
ユリは材料を揃えながらユメと話していた。
「私は、どうやってここに来たのにゃ?」
「ソウが、連れてきたわ。ユメちゃん、馬車にぶつかって怪我をしていたらしくてね。私が名前をつけたら、ちっちゃいユメちゃんになって、可愛くてビックリしたわ」
「ちっちゃいにゃ?」
ユメはユリの言葉がピンと来ないようで、首をかしげていた。
「私は小さかったのにゃ?」
「そうね。ここに来たときは、黒猫だったけど、ご挨拶をしてくれたときは、今のキボウ君と同じくらいの身長かしら」
ユメの記憶の、自身が小さかった頃は、もう欠けてしまったらしい。
ユリは慌てた様子を見せないように、ユメの質問に答えていた。
「小さかった私は、ユリに迷惑をかけなかったにゃ?」
「え? 迷惑なんて一度もないわよ。むしろ、何度もユメちゃんに助けてもらったわ」
実際にユリのピンチに、ユメは当時の少ない魔力を使って、ソウを呼んでくれている。
「それなら良かったにゃ」
ユメが笑顔になった。ユメは、迷惑をかけていないかどうかばかり気にしている。
「ユメちゃん、ユメちゃんが思い出せないことがあっても、私はユメちゃんが大好きだし、迷惑なんて一度もかけられたことはないわ。だから、焦ったり、無理したりしないでね」
「ユメー、だいじー、だいじー」
「キボウ君、おはよう」
「おはよー、おはよー」
キボウが来たので、話を中断した。すると、ソウも帰ってきた。
「ただいまー。キウイ買ってきたよ」
フルーツオムレットに使うため、ソウに、キウイフルーツ等の買い物を頼んだのだ。
「ユリ、他に足りないものはない?」
「大丈夫よ。ありがとう」
みんな来たので、仕事を振り分けることにした。
「ユメちゃん、クレープ焼いてみる?」
「良いのにゃ!?」
「普通の、赤っぽいの、黄色っぽいのどれが良い? 」
「何が違うのにゃ?」
「中身を分かりやすくするためだから、違いは色だけのつもりよ」
ユリは、うっすら色がつくようにクレープ生地を作った。
黄身の色が濃くなるような餌を与えていない鶏のため、こちらの卵で作ると、卵料理は割りとなんでも黄色が薄く白っぽく出来上がる。赤系統の色を足しやすいが「黄色が濃いと美味しそう」と刷り込まれた元の国の人には、安っぽく見えるのだ。こちらでは、黄色味が強いと味が濃そうと言う概念がないため、食べてからしか判断しない。
卵の黄身の色は、鶏が食べた餌に左右される。
「普通の作るにゃ!」
「焼き方教えるわね」
ユリは、すでに混ぜて寝かせてあるクレープ生地を持ってきた。クレープは、生地を混ぜてから一度寝かせた方が上手く焼ける。
「クレープ用の小さいフライパンをしっかり温めて、少量のバターを溶かし、生地をこのレードル1杯分入れて、回りが乾いて浮いてくるまで焼きます。焼けたら、竹串か、素手か、小さめのヘラを使って剥がして、ひっくり返し、表面を少し焼いたら、こっちのトレーに少しずつずらして重ねていきます」
「火は消さないのにゃ?」
「火加減をそのままにしておけば、失敗せず、綺麗に焼けるわよ」
「成る程にゃー」
「わからなかったらまた聞いてね」
「わかったにゃ」
ユメは楽しそうに、クレープを焼き始めた。
今度はソウが聞きに来た。
「ユリ、俺も何かすることある?」
「手伝ってくれるの? クレープを焼くのと、果物を切るのと、どっちが良い?」
「果物切るよ」
「各種約100個作る予定です。バナナ50本は半分切り、苺Lサイズ54個半分切り、キウイフルーツ7個を16等分、缶詰の黄桃は約8等分で、108カット以上お願いします」
「了解した」
ユリはカスタードクリームの仕込みを始めた。
「おはようございまーす。って、もう始めているんですか?」
リラとシィスルが来て、ユメやソウが手伝っているのを見て驚いていた。
「今日は記念日なのよ。うふふ」
「何か予告ありましたっけ?」
「予告は出していないわ。ユメちゃんが、うちに来た記念日なのよ」
リラとシィスルは、マヨネーズを作ったあと、ユメのところに行き、クレープを焼いていた。
マリーゴールドが出勤してきた。いつもより少し遅めだ。
「おはようございます。あら、リラさん、まだこちらにいらして大丈夫なのでございますか?」
「え?やだ、もうマリーゴールドが来る時間!?」
リラとシィスルは、慌ててベルフルールに戻っていった。
「マリーゴールドちゃん、おはよう」「おはようにゃ」「おはよう」
「皆さまおはようございます。ユリ様、今日の予定を教えてくださいませ」
「一覧渡すわね。9時半からで大丈夫よ」
ユリは、走り書きをマリーゴールドに渡した。
◇ーーーーー◇
クレープ生地仕込み 3種類
スポンジ焼成 4号80台
カスターC(牛4L、黄40、グラ900、粉120、ス120)
━━━━━━━━━━━━━━ここまで終了
バナナ半分切り50本 100個分
各種フルーツカット 黄桃、苺、キウイ 108個分
普通のクレープ110枚
━━━━━━━━━━━━━━作業中
ビーツ入りクレープ125枚
くちなし入りクレープ125枚
スポンジ、1cmスライス320枚
苺ヘタ取り324粒、3個セット108組
生クリーム泡立て
お昼ご飯、カレーの予定
肉、ニンジン、玉ねぎ、じゃがいも、皮剥きとカット
コールスロー用キャベツ、ニンジン、カット。コーン水切
カレー煮込み、炊飯
カレー仕上げ、サラダ仕上げ
◇ーーーーー◇
予定表を見たマリーゴールドが、質問してきた。
「ユリ様、カスタードクリームの横に書いてございます、牛乳、卵黄、グラニュー糖、薄力粉、の後の『ス』は、なんでございますか?」
「あら、よく他のは判ったわね。最後のは『スターチ』で、コーンスターチよ」
作ったことがあるので、判ったらしい。
「全て薄力粉ではないのですね」
「固さと口当たりが少し違うのよ。全部薄力粉でも良いのよ」
マリーゴールドは、予定表を頭に叩き込んだあと、冷蔵庫を開けて色々確認し、「赤いクレープ作ります」と言って準備していた。




