重量
舞台から全て下ろされたのを確認し、ユリとソウは再び日本の舞台のそばに転移してきた。
ソーラーパネルを舞台に載せている最中で、ユリが箱を目で数えると、200枚くらいありそうだった。
「何か凄いわね。あれって、どのくらいあるの?」
「パネルの数は180、蓄電池が9、重量は、2t超え。一応、軽量タイプで用意したけど、それでも1枚が10kgほどあるよ」
パネルの数はともかく、蓄電池が9と言った。里帰りは10 人だったはずなのだ。
「9人分?」
「あー、カナデは要らないから」
カナデ・サエキは、ユリとソウの家のように、すでに電気が使えているらしい。良く考えれば、サエキはソウと同じ役人側だった。
「あれ?イトウさんは、今回設置なの?」
サエキと一緒に行動したり、ソウの事に詳しかったり、どう考えても、役人側な気がする。
「あいつ、役人を辞めて、一般枠から応募した変わり者だから」
「あー! 職種を変更しても応募したお医者さんの話って、イトウさんだったのね!」(第3話「相談」より)
「良く覚えてたな。そんな話」
「ってことは、イトウさんって医者じゃなく、本業は科学者?」
「正解」
そういえばソウは、リツ・イトウを紹介したとき、マッドサイエンティストと説明していた。マッドはともかく、サイエンティストだ。
内部選抜でメンバー落ちしたら、さっさと退職して外部から応募してきたそうだ。優秀ゆえに、外に出したくなかったために、対処を誤ったら、完全に手綱が外れてしまったらしい。
今回の帰国は、国に帰っても、無理矢理引き留められる恐れがなくなったため、実家に顔を出しに行ってきたはずとソウが説明していた。
「ハナノさん、全部載せました。よろしくお願いします」
「はーい」
ソウビから声をかけられ、ユリはソウと一緒に舞台に上がった。
「ではまたー!」
ソウビに挨拶をすると、ユリは呪文を唱えず、転移した。
「えーー!ユリ、呪文を唱えなくても転移できるの!?」
「え? だって、普段移動するときは唱えないじゃない」
「じゃあ、何で、ここではいつも唱えていたの?」
「魔法使いっぽい演出?」
「マジか!」
覚えてしまえば最初以外、声に出して唱える必要はないのだ。ユリとしては、初めてこちらに来た時の、ソウが行った演出に合わせて、わざと大袈裟にしていただけなのである。なので、わざわざ派手な衣装を着てくるのだ。
「まあ、俺も、呪文を唱えたりしないで移動しているけど、」
「ほらほら、イトウさんと、サエキさんが来たわよ」
ソウは、呪文自体を知らなかったのだから、唱えようがない。結局、この舞台の転移陣は、王家の血族的な使用制限があるらしく、生まれ変わりであるユリやソウが使えるのは、生まれ変わったとしても、その魂に刻まれた何かがあるのかもしれない。
現時点で、転移陣を使えるのは、国内ならユリ、ソウ、ユメ、キボウ、花梨花、松竹梅だけで、外に出る転移陣を使えるのは、ユリとソウだけだ。
国にかなり強い結界を張ってしまったので、転移陣だけ使えても、海外には出られないのである。同じく、外からも入っては来られない。
ユリは、ここでは衣装のままウロウロするわけにはいかないので、おとなしく座って、ソーラーパネルが舞台から下ろされるのを待っていた。
ユリが手伝えば早いのだが、そこまでしなくて良いとソウに言われた。
そういえば、誰か迎えは来ているのかな?と、見渡すと、城で会ったことがある貴族が来ていた。確か、国王の側にいつもいる人で、大臣の誰かだったかしら? と、ユリは相手が分からず、目を合わせないようにしていた。
対応が子供である。
ちなみに、迎えに来ていたのは宰相である。パープル侯爵は、王都組のために、特定転移装置を準備するのに忙しいのであった。
特定転移装置は、王宮と貴族家の行き来にしか使用できず、貴族家側は、受け入れ準備をしないと、使うことができない。貴族家から貴族家へ行きたい場合も、王宮に一度行かなければならないうえに、使用許可をとらないといけないので、手続きが面倒である。手続きなどは、手紙転移装置でやり取りをする。
特定転移装置の使用は、1人につき、5万☆かかり、50kgまで。超える重量については、1kgにつき、1000☆。
もしくは、現金5000☆と、魔力500pと、+1kgにつき10p
真面目に魔力を増やしていれば、ソーラーパネルが蓄電池とセットで200kg超えでも、魔力2500~3000pを軽く支払えるはずである。
むしろ、そこから移動させる手間の方を悩むようである。
王宮にある特定転移装置は4つ。
貴族用の、送り出す専用と、迎え入れる専用。
商人などが誰でも使える、送り出す専用と、迎え入れる専用。
貴族家にある特定転移装置は、2つ。
貴族用と、誰でも使える商売用だ。
誰でも使える方は、荷物だけの移動も可能だ。手数料を添えて申し込むと仕分けしてもらえる。
ユリが休んでいるうちに、馬車への荷物の積込が終わったらしい。
ソウは、出席していた貴族を送るらしく、そのまま王宮に行くと言っていた。
「次回予定は8月です。皆様それまで健康に過ごされますように」
締めの挨拶をして、解散になった。




