返礼
「ソウ、お待たせ」
「ユリ!? 又、何という、クラシックな装いで・・・」
見たまま「ド派手」と言えば良いのに。と思いながら、ユリは笑って答えた。
「ラベンダーさんのセンスよ」
「あー。俺の略礼装といっしょか」
ソウは、デザインの謎を察したらしい。ユリは、予測が当たり、楽しかった。
「やっぱりそうなの?」
「当時7~8歳くらいだったラベンダーが、絶対クラシックタイプが良いと言って、すすめてくれたんだよ。相手が子供なんで、むしろ断れなかった。パープル侯爵の顔をたててそのまま決めたら、出来上がった服は想像以上に無駄に派手だった。ははは」
メイプルの婚姻の時に、王宮で作ってくれた正装、礼装の他に、簡単な式の時に着る略礼装を、パープル領内に住まいを建てているため、侯爵邸で採寸をしていたら、デザインを決めるときに子供のラベンダーから、絶対にこれが素敵だとすすめられ、当時20歳のソウは断れなかったらしい。
「当時はわからなかったけど、ユメの、初代様教の女性の好みって、クラシックタイプらしくてさ、たぶんルレーブの時代のセンスなんだと思うよ」
「なるほどねぇ。そういえば、お城のユメちゃんの絵も、ヒラヒラなドレス着ていたわね」
「ユリは、聖女の正装だから、なおさらヒラヒラ」
「私が考える聖女って、むしろシックな装いのイメージだけど?」
「物理的に、飛び回っていたらしいよ。昔の聖女」
「そうなの!? もしかして、モモンガなの?」
モモンガのキグルミを着て飛び回るユリを想像したらしいソウは、笑い転げてしまい、話が続かなくなった。
「うわー。ホシミさん、どうしたんすか?」
一足先に来たらしい、ダイゴ・サカキバラだった。
「ソウは笑っているだけだから、大丈夫よ」
「ハナノさんは、何か凄い衣装っすね」
今度はススム・タケシタだ。タケシタも、サカキバラといっしょに来たらしい。
ピザ・ジェラートのダイゴ・サカキバラと、お好み焼き・焼そばのススム・タケシタである。
「侍女のラベンダーさんが見立ててくれたのよ」
「あっちのセンスって、少し独特っすよね」
笑うのをやめて、仕事をするらしいソウが復活した。
「サカキバラ君、タケシタ君、ソウビさんに送ってもらわなかったの?」
「荷物だけ頼みました。人が乗りきれないらしくて、別の人が送ってくれました」
どうやら、カナデ・サエキの知り合いが運転してきたらしい。サエキは、車に乗って帰る人と話をしていたようだ。
「カナデが送ってくれたのか」
「リツも、送迎手伝ってるよ」
ソウの問いに、来たばかりのカナデ・サエキが答えていた。リツ・イトウも、送迎側で手伝っているようだ。
なんと、ソーラーパネルが場所を取って、いつもの送迎車では運びきれなかったらしい。
「ここって、オートドライブだと来られないから、運転が出来ないとたどり着かないんだよね」
ソウの言う通り、ユリでは運転しては来られない。行き先だけ告げればたどり着くオートドライブと、自ら操作して車を走らせる方法がある。ソウはできるが、ユリはできない。
転移陣のあるここまでオートドライブで一般人が来られるようになったら、迷惑はあっても利点がないのだ。分かりやすく道を繋げる意味がない。
「あ、ハナノさん、今回荷物が多いんですが、転移2回とかでも大丈夫ですか?」
「構いませんよ。先に向こうに行って仕切るのは誰になりますか?」
「僕とリツが先に行って、まとめておきます」
「そういえば、お昼ご飯は、どうしますか?」
「今回は、全員早めに済ませてきています」
サエキが、流れを説明してくれた。そして、今回はお店でご飯を出さなくても良いらしい。
少しすると、荷物と残りのメンバーを運んできた、ソウの元上司のソウビがやって来た。
「ハナノさん、申し訳ないが、舞台に載りきらないので1回では無理かと思う」
「はい。サエキさんから聞いています。2度転移する予定です」
ソウビが、ほっとした顔をした。
「あと、パウンドケーキに救われたという人から、お礼をしたいと言われて、海外にいる人だからと言葉を濁したら、ならばと、今朝訪ねてきて国産苺を山ほど渡されたんだが、持ち帰れるか?」
日本産苺は、他のどの国の苺よりも美味しい。
その差は、圧倒的だ。
「え!日本産苺? いくらでも大歓迎です。むしろ、ソウに買いに行ってもらおうと考えていたくらいです!」
その人は、臨時でパウンドケーキを売っている里帰りメンバーの噂を聞き、女王が今日来ると知ったらしい。
4パックが入った一箱を5つ重ねた1ケース。それが10ケースあった。パックにして200パックだ。
「クリスマスのケーキ屋さんよりは少ないですよ。うふふ」
「あー、昔バイトしていたそうだね」
「はい」
苺は、受けとるなり、指輪を杖に変え収納した。
見ていたソウビが、少し驚いていた。
「その収納は、どのくらい入るのか、聞いても良いかね?」
「45t、体重の1000倍です。使用者制限があるので、私とユメちゃんしか使えません」
収納を使えるのがユリとユメであって、取り出しは二人のどちらかが許可すれば、魔力の器が1万p以上あれば、取り出せる。
食器を譲ってもらった時も見たはずなのに、何を驚いているのかと思ったら、運ぶのに、上下が割りと関係ない食器と、横にしただけて潰れそうな苺は違うと言われた。
「この収納、コップの水を入れて走っても、こぼれないんです」
「そうなのか!? それは凄いな」
「では、今回のパウンドケーキを」
ユリはパウンドケーキを取り出し、ソウビに渡した。
「苺のお礼って、できますか?」
「その苺がすでにお礼だから、堂々巡りになる。喜んでいたと伝えておくから、返礼は気にしなくて良いと思われる」
「わかりました。物凄く喜んでいたとお伝えください」
先に人を送り、舞台を使わずにユリが戻ってきて、再度転移で荷物を運ぶことに決まった。
そうすれば、人を送ったあとすぐに、舞台に荷物を載せられるかららしい。
全員いることを確認し、まずは人と、載るだけ荷物を載せてもらった。見たところ、家電製品が多い。
全て箱入りなので大きく見えても、持ってすぐに下ろせる程度しか重量はないのだろう。
「全員のりましたね」
「大丈夫だ」
ソウが確認してくれた。
「イタアシアヘク・イルバヰアッケキ・オデイナクヌュス」
ユリが呪文を唱え、転移した。
すぐに、サエキとイトウが、馬車などで待機していた人たちに、荷物を運ぶように指示していた。
「サエキさん、イトウさん、あとを頼みます」
「はい。2度目、よろしくお願いします」




