着替
今日は、転移組が里帰りから戻ってくる日。
「ユリ、向こうに12時迄に、よろしくな」
「はーい」
「ユメ、キボウ、今日はどうするんだ?」
「城に行って、カンパニュラと折り紙するにゃ」
「いっしょ、いっしょー」
ソウが、先に出掛けるため、みんなの予定を聞いていた。
ユリは前回の事があり、すでにラベンダーから、「是非、御召し替えに御越しください」と手紙を貰っていた。
今回はギリギリにならないように早めに行こう。
「ユメちゃん、本当におやつだけで良いの?」
「ご飯はいっぱい入ってるにゃ。新しいおやつだけで良いにゃ。だから、おやつはいっぱい欲しいのにゃ」
前回、アイスクリームを分けるのに足りなかったらしく、ユメからおやつの数を増やして欲しいと、昨日から頼まれていた。
目新しい物の場合、10個くらいではシッスルの口に入らないそうだ。前回はキボウの指名でシッスルに渡したけれど、結局シッスルは、皆に分けていたらしい。
「いっそ、売るほど持っていったら良いわ」
「何を作ったのにゃ?」
「オムレットよ」
「オムレットにゃ?」
ユリは魔道具の鞄から黄色っぽい何かを取り出した。
「クレープの皮、カスタードクリーム、薄切りのスポンジ、生クリーム、バナナを挟んで、二つに折るようにして仕上げるのよ。見た目がオムレツみたいでしょ」
現物を見せた。
「本当にゃ!」
「ユリー、ごはん?」
キボウには、オムレツそのものに見えたらしい。
「ちゃんとデザートよ。そのまま噛りついても、お皿に盛って、カトラリーで食べてもOKよ」
「ユリ、ありがとにゃ!」
ユメに、50個ほどオムレットを渡した。ユメはキボウの用事にもついていくらしいので、今日はキボウにお弁当を渡していない。
「明日売り出す予定だから、初出よ」
「明日作るときに手伝うにゃ!」
「うふふ、よろしくお願いするわね」
「キボーも、キボーも!」
「はい。キボウ君もお願いします」
「わかったー」
キボウがユメをつれて、さっさと転移してしまったので、結局ユリが最後になった。
さあ、レッド公爵邸に転移しなくては。
ユリは荷物を確認すると、レッド公爵邸のユリの部屋に転移した。
ハンドベルを鳴らすと、すぐにメイドが来て、間もなくラベンダーも来た。
「ユリ様、お待ちしておりました」
「どうもありがとう。冬箱ある?」
「はい。どのくらいのものをご用意いたしましょう?」
「これが、50個入るくらい」
ユリは、スリーブに包んであるオムレットを見せた。
「そのままお預かりいたしまして、厨房の冬箱に保存いたします」
「それで良いわ。これはお菓子よ。皆さんで食べてね」
「どうもありがとうございます」
メイドが急いで、直接オードブルなどをのせるような、金属製のトレータイプの大皿を数枚持ってきた。
ユリはその上にオムレットを分けて50個のせ、数枚の大皿を返した。
バスルームに移動し、湯浴みからのフルコースだった。
予定外のリンパマッサージは痛い。
ユリがあまりにも悲鳴をあげているので、ラベンダーが心配して聞きに来た。
「なぜ朝からこんなに腕や背中がこっているのですか?」
「早朝から、さっき渡したオムレットを作っていたのよ」
「え!ユリ様、魔法のお鞄があるのですから、お時間のあるときに作られるのではないのですか!?」
ラベンダーの意見は、もっともである。
「んー。昨日ユメちゃんから、明日城に遊びに行くときに持っていく新しいお菓子を増やして欲しいって言われたのよね」
「ユメ様のリクエストなら頑張ってしまいますね」
「そうなのよねー。ユメちゃんに頼まれたら、頑張っちゃうのよ」
リンパマッサージが終わり、下着に着替えて基礎化粧と下地と髪結いに入った。
「先程のお菓子は、どのようなものなのですか?」
「クレープの皮にカスタードクリームを塗って、上に薄切りのスポンジをのせて、そこに生クリームとバナナを 挟んで、二つに折るようにして仕上げたお菓子よ。名前は、オムレット。見た目がオムレツみたいだからね」
「とても美味しそうでございますね 」
「中の果物を苺に変えても良いのよ」
回りで聞いているメイドたちが、少しざわめいた。
「あら、苺の方がよかった?」
「あ、おそらく、ユリ様のお持ちになる苺は特別に甘いので、そのせいかと」
「そうなの? 以前、ミルフィーユを作ったとき、苺甘かったわよ?」
アルストロメリア会で作った覚えがある。サンドに使った苺の切れはしを食べたのだ。
「あのときの苺でしたら、ホシミ様に御用意していただきました」
「え?そうなの?」
ユリは、てっきりこの国の苺だと思っていた。
「そうだったのね。今度、苺を持ってくるわ。そういえば前回は、向こう(パープル邸)だったけど、施術者はあちらのメンバーよね?」
「数人、こちらからつれていっておりますが、ほとんど母の担当のメイドでした」
「あとで、あちらにも顔を出しておくわ」
「お気遣いくださいまして、誠にありがとうございます」
なぜか、釣り下がる見たことの無い衣装が登場した。それも、かなりたくさん。
「ユリ様、こちらの御衣装、如何でしょうか?」
「どうしたの、これ?」
「誠に僭越ながら、こちらで御用意させていただきました」
「あ!」
ハイドランジアが、おそらくラベンダーも衣装の数着は用意しているはずだと予告していたのを思い出した。
「どうもありがとう。おすすめはどれなの?」
「よろしいのですか!?」
「せっかく作ってくれたのだから、格式に合っているのでしょうから着るわよ?」
ユリに渋られるかもしれないと思っていたラベンダーは、あれこれと考えていた言い訳を1つも使うことなく、一番のおすすめをユリに着せることに成功したのだった。
薄いピンク色の、現実感がないというか、儚げなデザインで、演劇か映画に出てくる、妖精か女神の役の人みたいだなぁと、ユリは思っていた。
仕上げの化粧をし、姿見に写る自分が、演劇の中の人にしか見えないのを、何かに似てるなと考え、初めてこの国に来たときに見た ソウだ!と気づき、ユリは少し笑ってしまった。
「どうもありがとう。とても素敵になりました」
ユリは挨拶とお礼をして、直接、会場まで転移した。




