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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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新人

「おはようございまーす!!」

「おは、え? メリッサさん? あなた配膳だから、早くても11時くらいで良いのよ?」


週明けの月曜日(つきのひ)、ユリが朝ご飯のあと厨房で準備をしていると、メリッサが来た。まだ、リラやシィスルすら来ていない時間だ。

約束では今日から来る予定ではあるが、てっきりイリスと一緒に来ると、ユリは思っていた。


「はい!イリスさんから、早く行けば行ったなりに仕事があると聞いています!」

「まあ、そうだけど、初日から張り切りすぎると、疲れちゃうわよ?」

「王宮で下働きの時は、朝5時前から、夜の20時くらいまで働いていましたので、全く問題ありません!」


全く引く気がないことだけは良くわかった。


「あ、うん。何が出来るの?」

「基本的な家事はできます。こう言っては失礼ではありますが、イリスさんよりは、料理もできます」

「あはは。私は実際には食べたことはないけれど、話には聞いているわ」


その比較は参考にならない。


「あの、リラに聞いたのですが、ナイフを使わず安全に、野菜の皮を剥く、魔法の道具があるとか」


魔法の道具? 何の事かしら?


「あ!ピーラー?」


ユリは、ピーラーを持ってきて、メリッサに見せた。


「これの事かしら? ちょっと使って見せるわね」


ユリは、アスパラガスの下側半分の皮をピーラーで薄く剥いた。


「うわー!凄い!!」

「やってみる? 下半分の固いところだけ薄く剥いてね」

「はい!」


ユリからピーラーを受け取り、楽しそうにアスパラガスの皮を剥いていた。


「面白ーい、かんたーん!楽しー!」


リラちゃんの所はどうしているのかしら?

ユリは確かめたことがなかったことを、初めて疑問に思った。


予定より少しだけ早く、シィスルが来た。


「おはようございまーす!」

「おはよう」「おはようございます」

「あ、えーと、メリッサさんでしたか、今日からなんですね」

「えーと、リラのお弟子さんの、」


リラが同時に紹介していたため、メリッサには、シィスルとマリーゴールドが、どちらかわからないらしい。


「あ、シィスルです。一番弟子のシィスルです。もう一人の上品な方が、マリーゴールドです」


上品な方って、エライ紹介のしかただなぁとユリは思った。それに、シィスルの特徴を説明していない。


「明るいのがシィスルちゃんで、おとなしい感じがマリーゴールドちゃんよ」

「よくわかりました!シィスルさん、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


和やかに挨拶をして、シィスルは早速ユリの今日の予定を確認に来た。


「何からしますか?」


いつも、Mの日(つきのひ)Tの日(じゅもくのひ)は、様子見をかねて、リラはマヨネーズを作りに来る。Wの日(みずのひ)の分は、Fの日(かえんのひ)に作って帰ったりしている。それに、その日こちらに出勤のシィスルやマリーゴールドよりも早く来て、作って帰るのだ。なのに、今日はまだ来ていない。


「今日はリラちゃんたちは、マヨネーズ作りに来ないの?」

「何か先に仕込む物があるみたいです。後で来ると思います」

「そうなのね。今日は、不足分のパウンドケーキをお願いします。昨日50本ほど作ったけど、今日も作ります」


シィスルは早速、パウンドケーキの用意を始めた。


「メリッサさんは、厨房を手伝うんですか?」


ユリのそばまで来て小声で確認してきた。


「お店が始まったら配膳よ。今、あなたの助手につけても大丈夫?」

「え、何の、」

「パウンドケーキの型紙とか」

「はい。お願いします」


アスパラガスを剥き終わったメリッサは、ユリとシィスルの話が終わるのを待っていたようで、ユリが振り返ると、次の仕事を聞いてきた。


「ユリ様、次は何をいたしましょう?」

「シィスルちゃんに習って、パウンドケーキの型紙を型に敷いてください」

「はい。シィスルさん、教えてください」


その間ユリは、剥いてもらったアスパラガスを回収し、8本に、豚バラの薄切りを巻き付けた。この豚バラ肉の薄切りは、向こうで買ってきたものだ。こちらには、電動のスライサーは無い。残り14本は、そのまま茹でて3等分した。

お昼に使うので、双方とも冷蔵庫に入れた。


「そういえば、メリッサさん、朝ご飯は食べてきたの?」

「はい」

「昼ご飯はうちで出すけど、夕ご飯はどうするの?遅くなった場合、うちで出して良いの?」


家族が家にいる人に夕飯を出すのは、ためらわれるのだ。


「夕飯は自宅で食べます。できれば、19時までに帰りたいですが、繁忙期は働きます」

「了解。基本的には18:30には仕事は終わるけど、(まれ)に終らないときも、帰って大丈夫よ。今年は、残業になることもないと思うわ」

「はい。ありがとうございます」


パウンドケーキの仕込みを始めた頃、リラたちが来た。

挨拶をしたあと、何で遅いのか聞いて、ユリは驚くのだった。


「アスパラガスの板摺(いたずり)が大変で、時間がかかりました」

(板摺(いたずり)=まな板の上で塩をふって、野菜をゴロゴロさせ、色良く仕上げる)


「色良くするためなら、湯に塩をいれれば良いでしょ?」

「それだと、固いままではありませんか?」


リラの返事を聞いて、ユリはやっぱりと思ったのだ。


「リラちゃん、ピーラーって、やっぱり無いわよね?」

「ピーラー、ありますよ。領主様のお屋敷の厨房にもあります。当時、作っていただきました」


ユリの厨房にあるピーラーは、オール金属なので、腕の良い金属加工を出来る者なら、真似て作れないこともないのだろう。

ユリは、こちらの技術で再現できるものは、伝えても良いと、当時リラに言ってあった。


「有るの!? なら、アスパラガスは、下半分をピーラーで皮を剥けば、柔らかく美味しく食べられるわよ?」

「そうなんですか!?」


ユリは、先程茹でた アスパラガスを持ってきて食べさせた。


「これが上で、これが真ん中で、これが下側ね」


リラとマリーゴールドは、ユリの渡したアスパラガスを食べてみた。


「うわー!全部柔らかい!?」

「柔らかく、美味しゅうございます」


二人に食べさせたついでに、シィスルとメリッサにも渡した。


「昨日のうちに教えなくてごめんなさい」

「いえいえ、私が、何か方法がないかと聞くべきでした」


硬い下部分は、板摺して繊維をたち切るか、細かく刻むかして使っていたらしい。


「100本も大変だったわね」

「何もせずそのまま茹でた場合、固いところは歯でしごいて食べるものだと思ってました」

「あー、昔、おばあちゃんがそんなことを言っていた気がするわ」


ユリがまだ小学生の頃、料理が苦手なユリの母親が、アスパラガスをそのまま茹でて出し、食べ難い野菜だなと当時思ったことを思い出した。その時に料理人の父親が「とある国では、この穂先の柔らかいところしか食べないらしいぞ」と言いながら、ピーラーで硬いところを薄く剥けば全部美味しく食べられると、実践して教えてくれたのだ。そのときなぜか食卓に一緒にいたおばあちゃんが「せっかく作ったんだから、歯でしごいて食べれば良いのよ」と、母を慰めていた、不思議な思い出を思い出した。

一緒に住んでいたわけではないのに、なぜその時おばあちゃんがいたのか、考えても思い出せなかった。


リラとマリーゴールドは、マヨネーズを作り、ベルフルールに戻っていった。

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