藁稭
ユリがそのまま外に行こうとすると、ソウに止められた。
「ユリ、デニムは、この国ではまだ無理だ」
「あー。スカートに変えるわ」
見た目が、デニムパンツに見える、スキニータイプのぴったりしたものだった。
ユリが部屋に戻り、スキニーパンツをスカートに履き替え廊下に出ると、キボウが待っていた。
「ユメー、こうかーん。キボー、えらいー!」
「え?」
ユメちゃん、交換って、どういうこと?
ユリは焦った。ユメと、何かを交換したのかと思ったのだ。
「ユメちゃんはどこにいるの?」
「そとー!」
「ユメちゃんは1人で外にいるの?」
「リラー」
「ユメちゃんとリラちゃんが一緒に外にいるの?」
「あたりー!」
ユリは急いで、外までユメを探しにいった。
ユメとリラは、椅子つきテーブルを広げ、店の前でのんびりとお茶を飲んでいた。ユリはそれを見て、やっと落ち着いた。
「二人とも何してるの?」
「ユリ、お帰りにゃ!」「ユリ様、お帰りなさい!」
「あ、ただいま。キボウ君が、ユメちゃんが交換で、キボウ君が偉いって言いに来たんだけど、なんだかわかる?」
二人は、少し笑いながら説明してくれた。
ユリが出掛けたあと、ユメとリラとキボウで、こごみを採りに行って、キボウは安全のために、リラに紐で繋いで連れて行ったらしい。
その時にキボウが、草蘇鉄を植木鉢用に、いつもの掛け声の魔法で掘り出してくれたそうだ。
その後、お天気が良いからと、店の前にテーブルを広げ、花を見ながらお弁当を食べていたら、通りすがりの人に羨ましがられたので、お弁当を分けた。すると物々交換で、アスパラガスを貰ったらしい。それを立てた方が良いとキボウが言ったことや、バタフライピーの花がたくさん咲くとキボウが言うのを誉めたんだそうで、その事だろうと長い説明をされた。
「何か、色々あったのねぇ」
ユメちゃんが無事でよかった。と、ユリはホっとした。
「ユリ様、アスパラガス、お店で使えないようでしたら、私が買い取ります」
え、アスパラガスって、売るほどあるの?
リラからの申し出に、ユリは困惑した。
「お金で買わなくて良いけど、どのくらいあるの?そんなに多いの?」
「目で数えたら、120本くらいあったにゃ」
「え!? お弁当いくつと交換したの?」
「冷たい鶏丼3つにゃ!」
120本が、1800☆!?
ココナツの器に入った鶏丼は、半鶏丼で、容器代込みで1つ600☆だ。店で売っていた頃よりも少し大きめの器に入っているとは言え、せいぜい1つ750☆くらいだ。
「だいぶお得価格の交換ね」
ユリは「交換」の真相を知り、気が抜けて笑ってしまった。
「そうなのにゃ? リラが、お弁当は1200☆くらいだから、35~40本くらいが適正って言ったにゃ」
商売っ気の多い、リラの助言らしい。
どうやらリラは、店売りの鶏丼1000☆と、持ち帰りの半鶏丼600☆と値段の記憶がごっちゃになっているようだ。
話していると、キボウが話題のアスパラガスを持って現れた。
「これー!」
予想よりも、ずいぶんと立派なアスパラガスだった。
これはあれだ、わらしべ長者だ。ユリはそう感じた。
ユリが作ったお弁当なので、ユリ本人がわらしべ扱いは良いのだが、ユリの作ったお弁当は、ランチ営業をしていない今、欲しかった人からは、幻扱いをされるくらい貴重な品なのだ。
「キボウ君、ありがとう。キボウ君が偉かった話を今聞いたわ。ユメちゃんに、草蘇鉄の植木をありがとう」
キボウはユリにも認められ、ニコニコして満足そうだった。
「そういえばキボウが、オストーリッチファーンって呼んでたにゃ」
「駝鳥羊歯?」
「ソウ、お帰りにゃ」「ホシミ様、お帰りなさいませ」
「ただいま」
ソウは、寿司を持って現れた。片手に4つずつの8人前だ。
「草蘇鉄の英名だったか学名だったかが、オーストリッチファーンよ。日本語でも駝鳥羊歯でも通じることもあるわよ」
「成る程にゃ。でも駝鳥より、孔雀って感じにゃ!」
「うふふ、そうね」
「あ、リラ、ユリから寿司だ。そちらの分で8人前だから、食べる直前まで預かっておくよ」
「握り寿司ですか!? 凄ーい! ありがとうございます!!」
「握り寿司だ。マーレイにも、食べるときに取りに来るよう連絡しておいてくれ」
「はーい!ありがとうございます!」
リラは、何人かに以心伝心を送っているようだった。
ソウは握り寿司をユリに渡し、ユリは鞄にしまった。
「俺は、パープル侯爵に、片付けのお礼をしに行ってくる」
「あ! 今回は全員帰っちゃったから、あとを引き受けたのがパープル侯爵なのね!」
「そういうこと」
そうすると、パープル侯爵は、スタッフとしてあの場に居たことになり、国代表として、国王夫妻が来ていたのだろうと、ユリにも理解できた。
「ユリ、次はいつにゃ?」
「3日後の13日水曜日よ」
「ソウ、何をお礼するにゃ?」
「侯爵が気に入ってるシャンパンを買ってきた」
「クリスマスのときのにゃ?」
「飲まないのに、良く覚えてたな」
ユメの記憶に驚いたあと、ソウは転移していった。
「あ、リラちゃん、お願いがあるんだけど、」
「はい。なんですか?」
「昨日、お城に行ったときに、謎アイスクリームが出されてね、材料当てをしたのね。私は楽しかったんだけど、私を試したってことで、問題になったみたいで、料理人が気に病んでいるみたいなのね。それでリラちゃんから、大丈夫だと説明してもらいたいのよ」
「わかりました。今行きますか?」
リラは今、時間が大丈夫らしい。ユリはキョロキョロと、キボウの姿を探した。
「キボウ君ー。リラちゃんをお城の厨房に連れて行ってもらえる?」
「いーよー」
「私も行くにゃ!」
「キボウ君、ユメちゃんと、リラちゃんをお願いします」
「わかったー」
キボウは、ユメとリラと手を繋ぎ、転移していった。
みんなが出掛けてしまったので、ユリは予想以上に減ってしまったパウンドケーキを作ることにした。
オーブンをセットし、コックコートに着替えに行った。
上下白衣を着て、計量し、型を準備していると、リラとユメとキボウが帰ってきた。
「あー!ユリ様、なにやってるんですか?」
「パウンドケーキ、予定外に売れちゃって、足りないのよ」
「いくつ売れたんですか?」
「売ったのは100本だけど、使ったのは、120本でね。残りが30本しかないのよ」
「勿論手伝います!」
「あはは。ありがとう。アスパラガス、100本くらい持って行ってね」
「ありがとうございます!」
ユメもキボウも手伝ってくれたので、2回分仕込み、50本できた。
藁稭=わらしべ




