師匠
ソウの家なので、ソウが作ってくれると言った。
ユリは最初に着ていたワンピースに着替えたあと、化粧をおとし、鞄の中の在庫を確認していると、ソウに、ご飯ができたと呼ばれた。
「ユリ、予定は?」
食べながら聞かれた。
「寿さんに、写真を持っていきたいのと、えーと、お義父様、お義母様方に、写真は持っていったの?」
「集合写真を持って行ったよ。あとカエンにも」
「そうなのね。ありがとう」
昨日ソウが、カナデ・サエキから、写真を預かってきたのだ。姿絵と言えば、デジタルコンテンツばかりを見慣れてきたので、紙に焼き付ける写真を作るのは、かなり珍しく、大変だったらしい。
この国では、画家が描いた絵が出回るので、写真を販売しても良いか、いまだに悩んでいるそうだ。
ご飯を食べ終わったあと、すぐ移動した。
ソウビから聞いてきてくれたらしく、寿夫妻の現在いる場所まで、ソウが転移で連れて来てくれた。
「今は、ここに居るらしいよ」
前回来た施設とは違う施設らしい。前回は、重度の障害や病気がある人向けの施設で、今居るのは、健康に大きな問題がない高齢者向けの施設らしい。
受付を済ませ、面会を許可された。
指定された部屋に行くと、前回と違い、健康的な見た目になった寿夫妻が待っていた。
「ユリちゃん!」
「寿さん!キッカさん!」(妻の名前は、寿菊花)
キッカに笑顔で抱き締められ、ユリは嬉しかった。
すっかり元気になっていて、この施設のおやつをたまに作ったりしていると話していた。
寿は元プロなので、施設の調理の専門職の人よりも、作った物に人気があるらしい。
ユリは、目的だった写真を取りだし、二人に渡した。
「写真とは、また、ずいぶんと懐かしい物を作ったなー!」
「まぁー!ユリちゃん、可愛とは思っていたけど、花嫁姿は、ものすごく美人ね!」
「あ、ありがとうございます」
ユリがキラキラと実際に輝いている写真だ。ユリとソウだけが写っている。
喜んで受け取ってくれた。
「あと、寿さんに差し上げるのには、ちょっと自信がないんですけど、私が作ったパウンドケーキです」
「おー。ユリちゃんは、今でも洋菓子を作っているのか!」
「はい。お菓子と軽食のお店を営んでいます」
「将来は、そういうのやりたいって言っていたわね」
二人はニコニコとしながら受け取り、ユリを誉めてくれた。
懐かしい話をしていると、施設の人が時間を伝えに来た。大きな病を治したとはいえ、老いと寿命はユリにもどうにもできないのだ。いくら楽しくても興奮させ過ぎると疲れてしまうため、面会は1時間以内と決まっているらしい。
「又来ますねー」
「楽しみに待ってるよー」
「ユリちゃん、無理しちゃダメよー」
「はーい」
ユリが部屋を出ると、ソウが少しだけ部屋に戻り、何か話してきた。
すぐに出てきたソウは、何事もなかったように、ユリを促しソウの家に転移した。
「ユリ、他に用事は?」
「ないわ」
「なら、帰る?」
「うーん、あ!お土産に、握り寿司を買って帰りたいわ」
「何人前?」
「そうね、12人前くらいかしら?」
ユリの家の4人と、リラの関係者の8人前を想定した。
「まずは注文しておくよ」
「ありがとう。お願いします」
ソウが注文している間に、ユリはラフな服装に着替えた。
「あれ、ユリ、着替えたの?」
「ワンピース、シワになっちゃうからね。もう1着くらい持っていた方が良いかしら?」
「1着と言わず、作れば良いのに」
「あちらで作ると、無駄に豪華になるから、おいそれと服は作れないのよ」
「あー、確かに」
ハイドランジアが、普段着用にと作ってくれた服は、ユリ的にはかなり豪華なワンピースだった。ユリの感想は、これを着ていくのは、何の発表会!?といった感じだ。
「お寿司注文できた?」
「立て込んでるようで、1時間くらいかかるみたいだよ」
「なら、服でも買いに行きましょうか」
「良いねぇ!」
ユリは、ソウが懇意にしている服屋に連れていかれた。
値札が、ユリの想定より、0がひとつ多かった。
「良い服だと思うけど、良いお値段・・・」
「ユリ、無駄におしゃれしろとは言わないけど、滅多に買わないし、物持ちが良いんだから、良いものを買った方が良いだろ?」
「あ、うん」
ユリは、ソウがすすめるままに、服を何着も買うことになった。さらっとソウが支払い、ユリが慌てた。
「ユリ、そんなに気になるなら、ユリはユメの分でも見立てて買えば?」
店員を呼び、子供服売り場を案内してもらい、大人っぽいデザインの、ユメに似合いそうな子供服と、可愛らしい感じの、キボウに似合いそうな子供服を選んで購入した。
「ソウの服は、買わなくて良いの?」
ソウの服を選ぼうと思ってユリは聞いたのだ。
「俺は、服たくさん持ってるし、ユリがくれたカーデガンとかの方が嬉しい」
「あ、ありがとう」
ユリのセンスを断られたわけではなく、ユリの手作りが良いと言ったソウに、ユリは照れてしまった。
「さ、寿司取りに行って、帰るか」
ソウが寿司を受け取り、二人で転移して家に戻ってきた。
『ただいまー』
ユメに以心伝心を送った。




