山菜
転移組里帰りの日の午前中。
「ユリ、川に格好良い草があるにゃ」
「格好良い草?」
「孔雀の羽みたいにゃ」
ユメが指差した方向には、羊歯植物らしき群生があった。
ユメとキボウは、畑の植物に水やりをしていて、その時に見つけたらしい。二人を呼びに来たユリに、教えてくれたのだ。
「んー、あれ?あれって、草蘇鉄?」
「あたりー!」
キボウのお墨付きが出た。
川の南側、つまり、法面で少し木の影になる場所と橋の下に、まだ開ききっていない葉が丸まった羊歯があり、良く日の当たる場所に、わさっとした逆三角形に見える羊歯が群生しているのだ。
「ユメちゃん、あれ、山菜だわ」
「食べられるのにゃ?」
「山菜名は、こごみとか、こごめとか呼ばれる、食べやすい美味しい山菜よ。あく抜きも必要ないし、茹でて胡麻和えとか、天ぷらが最高よ」
「食べてみたいにゃ」
「たべるー、たべるー」
「ちょっと下りて採ってきましょう」
ユリが長靴とナイフと籠を取りに行って戻ってくると、リラが居た。
「ユリ様、おはようございます。お出掛けは何時ごろですか?・・・えっと、その水用の履き物は?」
リラは、ユリが手にしている長靴が気になったらしい。
「リラちゃんおはよう。川原に山菜があるから取りに行こうと思って、」
「少々お待ちください。私も履き物を取ってきます!」
山菜という言葉を聞くや否や、リラは濡らしても良い履き物を急いで取りに戻っていった。
「私のご飯を心配して、ユリが何時に出掛けるか聞きに来たのにゃ」
「あら、本当に偶然なのね」
「呼んではいないのにゃ」
勘の良さが凄いわね。とユリが考えていると、意外な告白があった。
「キボー、よんだー!」
「えー」「呼んだのにゃ?」
どうやら、キボウが呼んだらしい。リラが来るまでキボウに話を聞くと、ユリが出掛ける前に教えてほしいと頼まれていたようだ。
戻ってきたリラは、シィスルとマリーゴールドを引き連れていた。
キボウが川に下りないように、見ていてもらおうと考えたらしい。確かにキボウは軽いので、何かあったら流されてしまいそうなので、ユリもキボウには川に下りてほしくないと思っていた。
「キボー、まってるー。ユリ、リラ、くさそてつ、とるー。ユメ、いっしょいくー」
「私も見に行って良いのにゃ?」
「いーよー」
一緒に待っていてくれるシィスルとマリーゴールドがいるので、キボウは川に行かなくて良いらしい。
「お店の開始にかかったら迷惑よね。急いで採りにいきましょう」
「大丈夫ですが、楽しそうなので急いでいきましょう!」
「私も見に行くのにゃ!」
3人は川にかかる橋を渡ってから、橋の脇に有る梯子を下りた。
ユリもユメもキボウも、転移すれば楽に河原まで行けるのだが、そういう使い方は思い付かないらしい。
「近くで見ても、格好良いのにゃ」
「え!これ、食べられるんですか!?」
「食べられるのは、これの若芽ね。全ては刈り取らないでね。育ってしまったものは、固くて無理だと思うわ」
まずは橋の下の、くるんと丸まった葉先のある、生えたばかりのこごみを収穫した。リラもユリに習い、同じような状態のこごみを、少し残すようにして収穫した。
「へぇ。これが食べられるんですか。羊歯はみんな食べられないと思っていました」
「羊歯というなら、薇と蕨も食べられるわよ。ここにはなさそうだけど」
「え!そうなんですか?」
「ここに有ったとしても、残念ながら私には、蕨は見分けがつかないのよね。薇はわかるけど、大きくなった葉っぱを見ないと無理ね」
ユリとリラがこごみを収穫している間、ユメは日向に育った草蘇鉄を眺めていた。草蘇鉄は見た目も良いので、観賞用に庭に植える人もいる。
「ユメちゃん、それ持って帰る?植木鉢になら植えても良いわよ」
「畑はダメなのにゃ?」
「地下茎で増えるから、草蘇鉄だらけになってしまうわ」
とりあえず今は、収穫したこごみの下ごしらえをするので、帰ることにした。
後で大きいスコップを持って、堀りに来るつもりらしい。
橋の脇の梯子を登り、店の前に戻ってきた。
籠を覗き込んだキボウが、リラの籠から数本を弾いていた。
「ちがうー!」
「ふぇ、違うの入ってました!?」
「あら、私も見ていなくてごめんなさいね」
シィスルとマリーゴールドも覗き混み、少しうろたえていた。
「こ、これ、食べられるんですか?」
まあ、知らなければ、食べ物には見えない見た目かもしれない。
「軽く茹でて、マヨネーズとかでも美味しいわよ」
話ながら、ユリの店の厨房にみんなで来た。
ユリは鍋に湯を沸かし、ボールに水を張ったものをみんなに配った。
「まずは、洗います。この丸まったところに、ごみが入っている場合があるので、優しく洗ってください」
ユメとキボウも参加して、6人全員で、こごみを洗った。
「採ってから時間が経ったものは、切り口が黒ずむので、その場合は、少し切り落としてください。今日はしなくて良いです」
沸いた湯に塩を加え、下処理したこごみをざっといれた。
「湯がく時間は、せいぜい1~2分です。太くて固そうな場合でも、3分以上茹でると茹ですぎかもしれません」
すぐにザルで掬い、冷水に移した。
「冷水に入れて、冷ますと同時に、わずかなアクを抜きます。水分を良く切って、出来上がりです」
「本当に手間要らずなんですね」
「そうね。とりあえず、マヨネーズでもつけて食べてみると良いわ」
冷蔵庫からマヨネーズをだしてきて、全員が食べてみた。
「美味しいにゃ!」
「おいしー!おいしー!」
「うわー。食べやすくて美味しい!」
シィスルとマリーゴールドも、おっかなびっくり食べてみた。
「あれ?食べやすい。美味しい!」
「アクもなく、美味しゅうございます!」
「ゴマ和えが美味しいわよ。天ぷらは、洗ったあと、茹でずに少し小麦粉をつけてから、衣をつけて揚げてみてね」
「ごまドレッシングでも良いですか?」
「あー、それなら店でも出せるかもしれないわね」
時計を確認すると、10時を過ぎていた。
「私はそろそろ出掛けるから、あとお願いね」
「あー、私たちも、店に戻ります!」
「ごちそうさまでございます」
シィスルとマリーゴールドも、仕事に戻っていった。
「戸締まりなど、しておきます!」
「よろしくお願いするわね」
リラにあとを任せ、ユリは階段を上がった。




