塩漬
ベルフルールの仕込みが始まってしまうと、見ることができないと言われていたので、早朝からベーコン講座が始まった。現在朝6時である。
ユリの店の厨房に集まり、それは開始された。
「1kgほどの豚バラ塊肉を用意します。500gが2つでも良いです」
ユリは、2つと口頭で説明しながら、3つの塊を洗っていた。
「肉をきれいに水洗いします。血や汚れなどをきれいに取り除きます」
リラたちは各自2つずつ500gの塊をボールの水を変えながら洗っていた。
「ペーパータオルや、きれいな布巾などで、しっかり水分を拭き取ります。水分が残ると雑菌が繁殖し失敗します」
ペーパータオルがこちらにはないので、きれいな布巾と説明したが、今日はペーパータオルを持参し、まるごと配ってある。
「ミートルーズナーや、ミートテンダーや、ミートテンダライザー等と呼ばれる穴を開ける器具か、フォークやアイスピックなどで、肉に、均一にたくさん穴を開けます。この作業で、肉に塩が均一に行き渡ります」
ミートテンダーを持ち込み、3人にも配った。そのまま差し上げると言うと、喜んでいた。
「肉に塩をすりこみます。重量の2%が基本です。増やしても良いけど、減らさないでください」
全て、約500gなので、塩は10gだ。
ユリは、2つは10gをすりこんだが、1つだけ25gの塩と、ハーブをすりこんだ。
「大量に仕込むときは、そのまま桶などに入れますが、燻製室があるわけではないので、ラップフィルムに包み、ジッパーパックにいれ、空気を抜きます」
ラップフィルムを渡し、全員が肉を包んだ。ジッパーパックも渡し、中に入れ空気を抜いた。
「冷蔵庫に入れて、時々上下を返し、1週間ほど置きます」
ユリの店の冷蔵庫の端に、各自名前を書いてしまいこんだ。
ひっくり返すのは、各自に任せた。
「今日の作業はこれだけです。次は1週間後の土曜日です。自分で作るときは、冬箱の維持を頑張ってください」
「ユリ様、何か、もう1つお作りになられていたのは何でございますか?」
作業していた場所が、ユリに一番近かったマリーゴールドが、帰る間際に質問してきた。
「あれね。あれはパンチェッタという生ベーコンを作る予定で、私も初めてなので、成功したら説明します」
シィスルとマリーゴールドは、開店の準備をしにベルフルールに戻っていった。
「リラちゃん、アルストロメリア会の再開のお知らせに行くけど、一緒に来る?」
「え、どことどこを回るんですか?」
「そりゃ、パープル侯爵邸、レッド公爵邸、王宮よ」
リラは悩んでいるようだった。
「ラベンダー様にはお会いしたいですが、今回は遠慮しておきます」
「あら、そう? じゃあ、私もソウも、明日は朝から居ないからよろしくね」
居ない理由は、リラにだけ説明してある。明日は転移組買い物ツアーなのだ。リラは転移組の複数人に会ったことがある。
イクラを食べて、マヨネーズを作ったときに、ハヤシとコバヤシに。餅搗をしたときに、イトウとサエキとモリとハナダに。
「ユメちゃんとキボウ君のご飯、こちらで用意しますか?」
「鞄には色々入っているから、ユメちゃんに任せるわ」
「直接声かけてみますね」
「ありがとう」
リラと別れたユリは、家に戻り、朝ご飯の用意を始めた。
「ユリ、おはようにゃ。何で白衣にゃ? 今日は何かあるのにゃ?」
「ユメちゃん、おはよう。今日は、ローズマリーさんと、ラベンダーさんと、カンパニュラちゃんに会う予定よ。明日は向こうへ行ってくるわ。鞄にもご飯は入っているけど、リラちゃんが、声かけるって言っていたわよ 」
「リラは休みなのにゃ?」
「そうみたいね。白衣なのは早朝からベーコンの仕込みをしたからよ」
ご飯が出来上がると、部屋に居なかったキボウがやって来た。
「ユリー、ごはんー?」
「ご飯できたわよ」
キボウはソウと一緒に来た。最近仲良しみたいで微笑ましい。
「ユリ、ベーコン用の肉、塩漬けしたの?」
「したわ。来週よろしくね」
「了解。燻煙器持ってくるよ」
ソウにベーコンの燻煙器を頼み、ユリはひと安心した。
「なにー?」
キボウが興味を持ったらしい。
「んー。ユメちゃんが作るピザトーストに入っていたお肉あるでしょ? それを作る相談よ」
「べーこん?」
「あたりよ。うふふ」
何か少し考えていたらしいキボウが、部屋の隅に有る木の舟から何か持ってきた。
「ユリー、これー」
渡されたのはいつもの木の実で、何か頼みたいらしい。
「キボー、べーこん、ほしー!」
「ベーコンが欲しいの? 世界樹様に持っていくの?」
「あたりー!」
「キボウ君、私にできることは、何かと引き換えなくても、頼まれるわよ? ベーコンが出来上がるのは一週間先だから、そのときで良いかしら?」
「わかったー」
「これ(木の実)いただいて良いの?」
「いーよー」
「どうもありがとう」




