夏箱
食べ始めたとたん、キボウが騒いだ。
「ユメ、きたー!」
キボウの言葉通り、ソウとユメが帰ってきた。
「遅くなってごめん」「ごめんにゃ」
「出掛けていたの?」
「ちょっとな」
ユリが鞄から食事を出している間に、リラとイリスがお茶やカトラリーを用意してくれた。
「食べたい人は、茶碗蒸しもありますよー」
「キボー、くりー」「食べるにゃ!」
全員食べるというので、ユリが各人の好みの茶碗蒸しを提供した。
「ユリ様、これ、夏箱を持参していただければ良いのではないですか?」
「あーそうね。夏箱って、みんな持っているのかしら?」
「あれば便利と、すすめたら良いんじゃないか?」
「回った貴族家には、必ずありました。魔力があるなら使って良いわと、小型のものを貸してくださるお家が多かったです」
「へぇ。何に使うの?」
「濡れタオルを入れて、冬とか便利でした」
他に、時間的に食べられなさそうなときに、食事を一時的に保存するのに使っていたらしい。
「温かい物をそのまま持ち帰るなら夏箱で、冷たいのを持ち帰るなら冬箱ね」
「持ち帰ってから夏箱に入れたら、温まりますか?」
「そうね。30分くらい入れたら良いかしら?」
ユリが考えていると、ソウが助言してくれた。
「衛生的には、1時間以内に食べられるなら夏箱で、もう少しかかる人は冬箱で持ち帰るのが良いかもな。それで、6時間以内にお召し上がりくださいって、食べ方の説明をつけたら良いと思うよ」
「あら、なら、冷やすために一旦出すわね」
ユリは、持ち帰り茶碗蒸しの半数以上を取り出した。
「ユリ、冷たい茶碗蒸しは美味しいのにゃ?」
「私基準だと美味しいわよ。夏なんか、冷たいまま食べていたもの」
ユメがキボウと何か相談していた。
「ユリ、荒熱がとれたあと、何時間冷やしたら良いにゃ?」
「んー。荒熱がとれるのに30分。冷蔵庫に入れて30~60分くらいかしら?」
「キボウ、頼んだにゃ!」
「わかったー」
キボウは持ち帰り用茶碗蒸しを数個、「いちじかーん」と唱えた後、ユメに渡していた。受け取ったユメは、冬箱に充填し、もう一度キボウに頼んでいた。
「いちじかーん」
「キボウ、ありがとにゃ!」
キボウは冬箱ごと時送りをし、ユメに返していた。
「食べてみるのにゃ!」
ユメは、茶碗蒸しをリラとソウに1つずつ渡していた。
「キボウ、半分食べるにゃ?」
「たべるー」
リラはイリスとマーレイに分けながら食べているようだった。
「ユリ、俺一口で良いから貰って良い?」
「え?ユメちゃんは、ソウに渡したんじゃないの?」
「ユメも分けて食べているだろ?俺とユリで分けるって意味だと思うぞ?」
「そうなの?」
ソウは一口だけ食べると、残りを全部渡してくれた。
ユリは、食べたければ、いくらでもあるんだけどと思いながらも、ちゃんと自分の分の想定があったことに嬉しく思いながら、残りをいただいた。
「ユリ様、冷たいのはこれはこれで美味しいですね!」
「美味しいわよね。茶碗蒸しは、どんな状態でも美味しいわよね。うふふ」
ユリが笑っていると、リラがいきなり申し出た。
「あ!ユリ様、買い取りで、材料使っても良いですか?」
「構わないわよ」
リラは、百合根と蒲鉾と戻した竹の子を少し持ち出し、休憩に行った。
「13時までには戻ってくるにゃ!」
ユメもなぜか、外に出ていった。
今日はみんな忙しいのかしら?
ユリは休憩のために部屋に戻り、少し仮眠することにした。




