映像
ユメの誕生日の日の夜。
「ユメちゃん、今日は一緒にお昼食べられなくてごめんね」
「今一緒だから良いにゃ」
「もう一回ケーキの蝋燭吹き消すか?」
「良いのにゃ!?」
ユリは、さっとショートケーキを作り持ってきた。
苺は昼間も使った、向こうで用意してきたものだ。
「スポンジあったの?」
「シートスポンジは、常にあるのよ。何かあったときに使えるからね」
「蝋燭はある?」
「あるわよ」
ソウは、ユリが用意できなければ、買ってくるつもりだったらしい。
ユリとソウがお誕生日の歌を歌い、ユメが蝋燭を吹き消した。
「おめでとう」「おめでとう」「おめでとー」
「みんな、ありがとにゃ」
ユリがケーキを切り分けていると、ユメとソウが、キボウに誕生日を聞いていた。
「キボウ、キボウの誕生日はいつなのにゃ?」
「たんじょーび? わかんない」
「世界樹様に聞いてくると良いぞ」
「わかったー」
ユリがケーキの皿を取りに行き、戻ってきた。
「さあ、みんなでケーキを食べましょう」
「誕生日、祝ってもらって嬉しかったにゃ」
「昔って、誕生日は祝わなかったの?」
「そういう習慣がなかったと思うにゃ」
「聞いたことあるけど、この国で個人の誕生日を祝うようになったのは、割りと最近みたいだよ」
「そうなのね」
「そういえば、キボウから貰った葉っぱは、なんの映像だったんだ?」
「私が小さい頃の映像だったにゃ」
「え!ユメちゃんの小さい頃?」
「見ても良いにゃ」
ユメは、葉っぱをユリに渡してくれた。
「ソウ、魔鉱石無い?」
「この家にはないな。使わないし」
「ユリ、立体画像にするのにゃ?」
「今でも可愛いユメちゃんの小さい頃だなんて、絶対に可愛いに決まってるもの、立体画像で見たいじゃない!」
ユリが早口で捲し立てた。
「あ、うん」「にゃー!?」「かわいー、かわいー」
照れたらしいユメが、申し出た。
「にゃー。1000pの魔鉱石ならあるにゃ」
リラに預けていた、女王の結界の起動用魔鉱石だ。
ユメが部屋から持ってきて、ユリに渡し、ユリが充填して、部屋の広い場所に葉っぱと一緒においてきた。
映像が再生され、みんなが驚いた。
リスの映像を見たとき、現実よりも小さめで、透けたような、かすれたような立体画像だった。そんな感じをイメージしていたら、現実と同じサイズの、色のはっきりした、透けていない、まるでその場にそれがあるかのような立体映像だったのだ。
豪華な部屋が写り、天蓋のあるベッドが写し出された。人々が慌ただしく動き回り、緑が写ったあと、城が写り、一旦映像が終わった。
「うわー!凄い!」
「触れそうなクオリティーだな」
「魔力の大きさの差にゃ?」
「ユメちゃんは全部見たの?」
「まだ見てないにゃ」
生まれたばかりらしい赤ん坊が、おくるみにくるまれて登場した。寝ている赤ん坊をリスらしき女性が抱き上げたのが写り、画面が切り替わった。
小さいルレーブが、壁伝いにニコニコしながら立って歩いている。壁から手を離し、画面のこちらに歩いてきて、画面が切り替わった。
子供用のドレスを着て、おもちゃの中に座り、遊んでいる姿だった。近付いてくる男性がチラッと写ったところで画面が切り替わった。
少し大きくなったルレーブが、城の庭らしき場所で平和に遊んでいる姿だった。
「触ったときに、この辺の画像を見たにゃ」
「それで、中身が分かったのか」
ルレーブは、メイドのような女性からお菓子を渡され受け取っていた。
それを最後に、立体映像は終了した。
映像が終了し、ユメは何も思い出せないらしく、悩んでいるようだった。
「全く覚えてないにゃ」
「見たところ、生まれたとき、1歳、2歳、3歳といった感じね。覚えていなくても仕方がない年齢だわ」
「そうなのにゃ?」
「私の記憶にある、自分が一番小さかった思い出は、3歳半くらいの頃に、両親と三人でソファーに座っている記憶よ」
「俺は、5歳くらいからしか記憶にないな」
ソウがユリに初めて会ったのは、5歳の頃だ。当時ユリは3歳で、ユリにしてみれば、初めて会ったという記憶はなく、会えばいつも遊んでくれるお兄ちゃんだった。
ルレーブが3歳になる前に、リスは毒殺されている。母親の面影を何となくでも覚えているルレーブは、むしろ凄い記憶力だったのだ。
「やっぱり、最高に可愛かったわね」
「かわいー、かわいー」
「チラッと写ったのは、リスと、先王か?」
「わからないにゃ」
「おかあさまー。ルレーブー。うそつきー」
「あ、うん。先王なんだな」
キボウ独自の呼び方に、ソウが聞き流していた。
「そういえばユメちゃん、貰った種、そろそろ植えられるわよ」
「植えたいにゃ!どれが大丈夫にゃ?」
「ここは、向こうより少し暖かいみたいだから、風船葛も、バタフライピーも、ローゼルも、どれも大丈夫だと思うわ。でも、栃の実は畑には植えないでね」
「木は植えないにゃ。にゃはは」
「ユリが去年育てていたバタフライピーは、種無いの?」
「花のうちに収穫しちゃうから、種にならないのよねー。うふふ。今年は少し種にしましょうかね」
ユリは種を出してきた。
「にゃ? ローゼルは無いのにゃ?」
「この小さいのがローゼルよ」
「見たのは、小さい割れたドングリみたいだったにゃ」
「それの中に、この種が入っているのよ」
「なら、明日にでもみんなで植えよう」
「そうするにゃ」
「うえるー、うえるー」
明日の予定が決まり、もう寝る時間だ。
「今日は、おやすみなさい」




