応募
大分準備も終わり、そろそろお昼ご飯も出来上がる頃、ユメとキボウが戻ってきたようだ。
ユメはキボウに付き合って、カンパニュラの所に行っているとソウが話していた。キボウには今日のお菓子を持たせたので、振る舞ってきたのだと思う。
「ユリ、これ預かってきたにゃ」
ユメから手紙を渡された。裏の署名がハイドランジアだった。
早速、中を開けて読んでみると、カンパニュラにお菓子を教えてほしいという依頼だった。ローズマリーに話を通してあり、会場はパープル邸になるらしい。メンバーについては、王宮の侍女などを集めるか、ユリの指定する人を呼ぶかは任せると書かれていた。
カンパニュラちゃんがのびのびできるように、安心できる人を何人かは呼びたいわね。
ユリの考えるメンバーは、ローズマリー、ラベンダー、マーガレットと、ハイドランジア、カンパニュラ、シッスル(仮)だった。
「そろそろお昼ご飯にしましょう」
「ユリ様、のこり、仕上げても良いでしょうか?」
「切りの良いところまで仕上げて構わないわよ」
「ありがとうございます」
シィスルが途中の仕事を続けているので、食事の用意はユメとイリスとマーレイが手伝った。
ソウとキボウが何か話しながら来た。とても珍しい光景にユリがじっと見ていると、ソウが笑いながらキボウの肩を叩いていた。
「そんなに気にすんなって」
少しキボウが落ち込んで見える。
「なあに、どうしたの?」
「なんか午前中、焦がしたらしいよ」
焦がすような物とか、事件とか、事故とか、何かあったかしら? とユリは考えたが、思い当たらず、ユメに聞くことにした。
「ユメちゃん、午前中、何か焦げたの?」
「マシュマロを溶かしすぎて焦がしたにゃ」
「あら、焼きマシュマロ作ってみたの?」
「カンパニュラが楽しそうだったにゃ!」
「そうなのね。ユメちゃん、キボウ君、カンパニュラちゃんと遊んでくれて、どうもありがとう」
ユリがお礼を言うと、やっとキボウが笑顔になった。
「キボー、やくだつー! キボー、やくだつー!」
「とっても助かってるわ。さあ、みんな、ご飯を食べましょう」
お昼ご飯を食べていると、訪問者があった。入り口の扉に近かったシィスルが、手紙を受け取ってくれた。
「ユリ様、領主様からみたいです」
「ありがとう」
ユリは手紙を受け取り、中を読んでみた。
至急相談したいことがあるから、訪問しても良いかというお伺いの手紙だった。
「ソウ、なんだと思う?」
「とりあえず、俺が行って話を聞いてくるよ。で、無理そうなら連れてくる」
「わかったわ。お願いします」
既に食べ終わっていたソウは、パープル邸に転移して行った。
いずれ、ソウだけ帰ってくるだろうとユリは考えていたが、意外にもソウは、パープル侯爵を連れて早々に戻ってきた。
ソウは笑っていて、パープル侯爵は大分困っている様子だ。
「何か相談があると手紙にありましたが、どうかされましたか?」
「ハナノ様、エルムに人を募集する話をされましたか?」
エルムとは、領主補佐で、お店の会報誌を出している責任者だ。
「はい。先日お会いした時に、人員の募集はないのかと聞かれたので、配膳の女性を2人くらい欲しいなぁと、そんな話をしました」
ユリの言葉を聞いたパープル侯爵は、落ち込んだように軽くため息をついてから話し始めた。
「うちのメイドたちが、」
言葉に詰まっているのか、話が続かない。
「メイドさんがどうされました?」
「応募すると言って、かれこれ20人以上が 辞めると言い出して、正直、困っております」
それは至急の案件だし確かに大変だ。
「それは、困りますよね・・・」
しかし、ユリだって、2人の応募枠に20人来られても困るのだ。
「既に人が決まったということにして、全員お断りしましょうか?」
「しかし、それではこちらも困るのではないかと、数人は紹介状を書く用意をしております」
パープル侯爵は根が真面目なので、自分達が困る状況にも関わらず、紹介状を書こうと思っているらしい。少し気の毒になり、ユリは、根本的な疑問を聞いてみることにした。
「えーと、皆さん、何処に住んでいるのでしょうか? うちの募集は、住まいの提供はできない通い限定なのですが」
「全員、我が屋敷に住み込みです!」
パープル侯爵は、とたんに笑顔になった。
ほぼ問題が解決したので、心配事がなくなったようだ。
「アルストロメリア会をまたするので、そのお手伝いをお願いしますとお伝えください」
「ハナノ様、ありがとうございます!」
晴れやかな笑顔になったパープル侯爵に、ソウが近寄ってきた。
「問題はなくなったみたいだね。じゃ、侯爵、帰るよね?」
「ホシミ様ありがとうございます」
ソウがパープル侯爵を連れ、転移していった。
みんなが、離れた場所から心配そうにこちらを見ていたので、ユリは声をかけた。
「イリスさん」
「はい」
「イリスさんのおすすめの人がいたら、お店に紹介してくださいね」
「かしこまりました」
全員が、誰も不幸にならないまとめに安堵した。
「お昼休み休めなかったかもしれないけど、大丈夫ですか?」
全員心配して、店に残っていたのだ。みんな笑顔で、大丈夫らしい。
「今日の限定ものは、マシュマロ3種類と、今期最後の生チョコです。次回は、また寒くなってからの販売になります。今日以降、全ての冷蔵物が、冬箱か真冬箱必須になります」
みんなメモを取りながら真剣に聞いていた。
「特に注意するものはありますか?」
「分かりにくいものだと、ラング・ド・シャサンドが冷蔵です。卵のサンドイッチも冷蔵です」
大きく頷きながらメモを取っていた。
「次回予告イベントが、4月2日とありましたが、聞かれた場合、何と説明すればよろしいでしょうか?」
「4月2日ね。お店は定休日なんだけど、午前中だけ販売しようと思っています。イリスさんが出られそうならお願いしたいですが、無理そうなら私が売ります。イベントは、ユメちゃんの誕生日です」
「なら、その次のイベントは4月8日か」
ソウが笑いながら発言した。
「そうですね。『花祭り』です」
ユリは、花祭りの説明をソウに任せ、厨房に戻った。
今までは、ソウがケーキを買ってきたり、ささやかに祝ってはもらっていたが、今年はどうなるか想像もつかない。
ユリは「花祭り」と言って逃げたが、ユリの誕生日である。




