準備
今日は、カエンの婚約式の当日。
早起きして湯浴みして、今日の用意を整えた。
大分昨日作っておいたが、なるべく迷惑かけないようにしたい。今日の担当はマリーゴールドなので少しだけ心配だが、任せるしかない。
予定されるものは、ほぼ作り終えてある。飲み物と予定外の注文などだけ対応すれば良いようにはしてある。
厨房は、マーレイも手伝うので、特に問題なく営業できるとは思う。
ソウが、冴木奏と伊藤律に、店番を頼もうか?と心配してくれたけど、その他の従業員に迷惑そうなので断った。むしろ頼むなら、会報誌を発行している人が良いかなと呟いたら、一応聞いてみると言っていた。私やソウが一応でも聞いたら、それは強制にならないのか少し心配だ。
過剰ぎみだとは思ったが、リラには頼んでおいた。
営業的にこちらを優先する必要はないけど、マリーゴールドの事は助けてやってほしいと。
リラは二つ返事で了承していたので、迷惑客の対策も大丈夫だろうと思う。
ソウは朝ご飯の後、先に行った。兄なので当然だ。
そろそろユメが起きるので、もう一度ご飯の用意をと、ユリはリビングに戻ってきた。
「ユリ、おはようにゃ」
「ユメちゃん、おはよう。今日は、よろしくね」
「任せるのにゃ!カエンによろしくなのにゃ」
「ユメちゃんでも対処できない人が来たら、呼んでね。って、以心伝心は届くのかしら?」
「私に対処できない人が来たら、キボウにパープルを連れて来てもらうにゃ」
「キボー、てつだうー!キボー、がんばるー!」
「キボウ君、ユメちゃんを助けてね」
「わかったー!」
それでも午前中は、なるべく仕事をしておこう。
キボウは、ユリとソウと同じ時間から起きていたが、ユメを待つと言って、まだ朝ご飯を食べていなかった。今、ユメと一緒に食べている。ユメに気を使ってくれたらしい。
「ユリ、洗い物はしておくにゃ」
「ユメちゃん、お願いします」
ユリは厨房に戻り、各種クッキーの生地を仕込んだ。
黒猫クッキーはユメが作るだろうし、黒猫サンドと普通のラング・ド・シャは、マリーゴールドが仕上げまでするだろうと思う。世界樹様のクッキーだけ作っておけば良いかしら?
まだ大分早いが、リラとシィスルが来た。
「ユリ様、おはようございます。マヨネーズと、リラの華を作りに来ましたー!」
「リラちゃん、シィスルちゃん、今日はよろしくね。13:30~15:30頃、不在の予定よ」
「今日は、お昼ご飯を持ち込んで、こちらで食べようかと思っています。それなら、14:00~15:00辺りはこちらにいることができますので!」
「ちゃんとお休みしてほしいけど、私が頼んでおいてなにもするなとは言えないから、せめてお昼ご飯をご馳走するわ。今日は鶏丼の予定だから、鞄に入れておくわね。多めに入れておくから、ベルフルールの皆さんにも差し上げてね」
「うわ!みんな喜びます!」
「持ち帰りの器にも作るから、何か手伝う人にも提供してね」
「どなたか見えるのですか?」
「分からないのよ。もしかすると、パープル侯爵の所の誰かが来るかもしれないわ」
「誰か・・・エルム様ですか?」
「ソウが頼んだから、分からないわ」
リラたちは、業務用ミキサー2台と、卓上ミキサーを使って、クッキーの生地と、マヨネーズを作っていた。
ユリは世界樹様のクッキーの型抜きをし、焼成まで終わらせた。
「リラの華って、ベルフルールにぴったりよね」
「そういえばそうですね。他にお花のお菓子を考えようかなぁ」
「薔薇マドレーヌでも売る?」
「それ、なんですか?」
「生地はパウンドケーキとほぼ一緒で、形が貝殻のマドレーヌってお菓子があるんだけど、その型に、薔薇の花型があるのよ。今度教えるわ」
話しながらもリラの華を仕上げ、焼成をユリに頼み、ベルフルールに帰っていった。
入れ替わるように、マリーゴールドが出勤してきた。
「今日は、無理させてしまうけど、よろしくね」
「はい! ユリ様が安心して出掛けていられるように、精一杯頑張ります!」
「変な人とか、対処に困る人が来たら、ユメちゃんに言うなり、キボウ君に頼むなりして無理しないでね」
「はい、ありがとう存じます」
今日の残っている仕事と、ユリが居ない間に暇になったら、好きなものを作っていて良いと、話した。
マリーゴールドは、試作したいものがあったらしく、喜んでいた。
マリーゴールドが各種ラング・ド・シャを作っている横で、ユリは鶏丼を器の数に合わせて作った。店内のどんぶり椀に15、持ち帰り用の器に50、軽食用に大きいココットで90用意した。魔道具の鞄に入れてしまえば、出来立てほかほかである。
「あとは、スープね」
11:00頃にはマーレイとイリスも来て、ユリは、居ない間の事をよくお願いした。
あっという間にお昼ご飯の時間になり、今日も世界樹の森と城を行き来してきたらしいキボウと、最近、午前中は出て来ないユメが、一緒に来た。
みんなで鶏丼を食べながら、予定を再確認した。
今日は、キボウも店を手伝うらしく、ユリに、籠とクッキーを用意してほしいという希望を伝えてきた。
食べ終わり、休憩に入った頃、訪問者があった。
「ハナノ様! ご指名くださり、ありがとうございます!」
えっと、誰? もしかして、お菓子を売って欲しいと言い出したあの補佐官さん? 良く見ると面影が有るわね。
ユリには1年前でも、世間的には更に5年経っていて、若さにあまり気を使わない人なら、見た目に変化がある年月の為、とても老けて見えた。
ユリは、色々な意味で相手が誰だかわからなかったのだ。
「エルム様、ご無沙汰しております」
マリーゴールドが挨拶してくれたため、ユリは、やっと相手が、会報誌を発行している補佐官のエルムだと理解した。
ユリとしては、この国に来た当初お菓子を売る店をすすめた補佐官と、会報誌を発行しているエルムが、同一人物だという認識がなかった。エルムの名前は、会報誌で見て把握していたが、会報誌の発行者として会ったことはなかったのだ。ユリの認識が割りと酷い。
「エルムさん、いつもお店の情報を正確に伝えてくれてありがとうございます。今日は、お昼ご飯はもう食べましたか?」
「お役に立てているなら、とても光栄です! あ、昼食は、こちらで軽食をいただくつもりでまだです」
「よろしければ、鶏丼、召し上がりませんか?」
「良いのですか!?」
エルムは、ものすごく喜んで食べていた。
普段は辻馬車で来るが、今日は自ら操縦してきたらしい。
花アイスと今日の日替わりおやつも提供し、満足してくれたようだ。そのまま記事にするのか、色々メモを取っているようだった。
「ハナノ様、人を募集したりはしないのですか?」
「え? 何にですか?」
「募集は無いのかと、たまに質問を受けます」
「基本的に、貴族の方を雇うつもりはないのですが、読み書き計算ができて、信用の置ける方というのは、探すのが難しいと思っています」
「貴族を雇わない理由はございますか?」
「今いるメンバーより身分が上だと、色々めんどくさいのです」
「成る程。では平民で、読み書き計算ができ、信用の置ける人物がいたら、ご検討いただけるのでしょうか?」
「そうですね。お店に、あ、女性に限ります。1人か2人。イリスさんやマーレイさんと、仲良くできる方限定です」
ユリが割りと緩い条件を出してしまったために、応募が殺到するのは、もう少しあとの話。
お店が開店する前に、エルムは店外に行った。馬車に待機する予定らしい。
ユリが外おやつを出しに出ると、馬車の中から部下らしき相手に指示を出しているのが見えた。
お店が開店し、すぐに満席になり、最初の注文を全て出しきったところで、ユリはマリーゴールドとユメに一言告げ、仕事を切り上げた。




