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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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忘却

「部屋なのにゃ!」


どうやらユメは、庭や門の前に転移すると思っていたらしい。


「先日も来たのよ。この部屋は、私専用にってラベンダーさんがね」


ユリが訪ねて来やすいように、ラベンダーは、ユリ用の部屋を用意してくれ、いつでもいらしてくださいと言っていたのだ。

ハンドベルを鳴らすと、メイドが来てすぐに呼びに行ってくれた。少し待つと、ラベンダーは夫のスマックと共に現れた。

ソウが来ているので、スマックも来たらしい。


ユリはラベンダーに、来週のTの日(じゅもくのひ)に、カエンの婚約式に出るので、衣装を着たいと説明した。以前よりハイドランジアから、聖女の衣装を基本にした服をいくつか用意していると聞いていたので、衣装はハイドランジアが用意したものを着ることにしてみたが、着付けはラベンダーに頼もうと思って予定を聞きに来たのだと、正直に話した。


「勿論でございます! 何時頃いらして、何時頃仕上がればよろしいでしょうか?」

「その日、お店の営業日なんだけどね。婚約式自体は、13時から16時で、」


あれ? ユリは自分の言葉に疑問を感じた。


「13時から16時でございますね。ユリ様、どうかされましたか?」

「あ、いえ、少し思い出した事が有ったけど、大丈夫よ。向こうでの滞在は30分程度の予定だけど、こちらでの時間は、どのくらい必要かしら?」

「着替えのみでしたら、それこそ(わたくし)だけでも可能でございますが、御髪(おぐし)と御化粧をされるのでしたら、急いでも30分はいただきたいです」

「ベールをかぶるから、化粧は要らないわ。では、13:30頃来て、14:30頃までに仕上げてもらえるかしら?」

「はい。承りました」

「衣装、預けていくわね。こちらの青紫を着る予定よ」


簡単に話がまとまったので、少しレッド公爵邸のそばの街でも見てから帰ろうと言う話になった。


「ご案内いたしましょうか?」

「目的が有る訳じゃないから、適当に見て帰るわ」

「では、来週のTの日(じゅもくのひ)にお待ちしております」

「よろしくお願いするわね」


ユリは全く地理が頭にないので、ソウに先導してもらうことにした。


「もし、迷子になった場合は、家に帰ることにしましょう」

「・・・」


迷子になるのは、ユリだけじゃないか?とみんなが思ったが、誰も言葉にはしなかった。



屋敷を出て通りを歩くと、早駆けの馬車に、ユメが轢かれかけた。気づいたソウが手を引っ張り、事なきを得た。


「危なかったにゃ。ソウありがとにゃ」

「轢かれたら、又、痛いぞ?」

「どういう意味にゃ?」


ユメは、ソウの言った意味がわからないらしく、素直に聞き返していた。察したソウは、怖々とユメに尋ねた。


「轢かれたこと、覚えてないのか?」

「私は馬車に轢かれたことがあるのにゃ?」


ソウが轢かれた黒猫を助け、懐いたからと家に連れてきて、ユリが名付けたら幼女になって、今のユメになったのだ。ユメの記憶から、4月にあったことが消えている。今まではユリやソウに出会う前の記憶が欠けたとしても、誰にもわからなかった。だが、4月以降の記憶が消えれば、ユリとソウが気づく。


「ユメ、一番古い記憶は何を覚えている?」

「にゃー。マーガレットが、店に来たにゃ!」


ユリが必死に思い出す。ラベンダーが来たのは、お菓子のアユを売った日なので6月1日アユの解禁日だ。マーガレットはその2週間くらい前だったはず。


「えーと、初めて来たのは多分5月の中頃ね」


4月はまるっきり覚えていないらしい。


「ユメ、モリとハヤシとコバヤシが来て『ユリが危ないにゃ!!』って、俺に初めて以心伝心送ってきたのは覚えてないのか?」

「ソウに送ったのにゃ?」


ユメは自分が、以心伝心を送った事実自体を驚いているようだ。


「定時報告があったから覚えてるが、それが5月1日だ」


ソウに言われ、ユメは考えているようだが、全く思い出せないらしい。


「覚えてないにゃ。その頃は、ほとんど猫だったと思うけど、以心伝心、送れたのにゃ?」

「送った後、ぐったりのびてたよ」


少し懐かしそうにソウが話していた。


「ユメちゃん、そんなに大変なのに、私を助けてくれて本当にありがとう」

「にゃ! なんでユリ泣いてるにゃ!? 覚えてないけど、ユリを助けたならよかったにゃ」


泣きながらユリがユメを抱き締め、その2人の肩にソウが手をかけ、呟いた。


「みんなの家に帰ろう」


キボウが皆のそばに来て、ユリとユメに触れながらソウの言葉に返事した。


「わかったー!」


キボウの魔力で、転移して家に戻ってきた。


ユリもソウも、ユメにもう、何も聞かなかった。キボウがユメに何か言ったらしく、ユメは急いで部屋に行ったが、わりとすぐに戻ってきた。


「ユメちゃん、葛切りでも食べましょうか?」

「食べたいにゃ!」

「キボウ君も食べるわよね?」

「たべるー、たべるー」

「ソウの分も、もちろんあるわよ」

「お、おう」


ユリが葛切りを作り、ソウがお茶を用意した。


「おかわりもあるわよ」

「いっぱい食べるにゃー!」

「いっぱーい、いっぱーい」


ユメとキボウは、すごい勢いで葛切りを食べている。


「そういえばユリ、ラベンダーと話しているとき、何か考え事をしていたようだったけど、何かあったのか?」


ソウが聞いてきた。


「あ、あれね。時間をね。・・・どうして時差がないの?」


ユリは、ズバリ聞いてみた。


「あーそれか。俺も昔、疑問に思ってユメに聞いたら、国土的には、時差は日本よりも早いらしいけど、転移してきた元の国の時間と同じ時間軸に来るらしいよ」

「え?」

「仕組みは俺もわからないけど、世界樹様の影響だろうって。だからなのか、海路や空路からは発見出来ないんだよ。この国」

「えー! 実は、本当に異世界だったの?」

「あはは。地球上には有るらしいよ。月に1~2回だけど、電波届くから」


ふとユメの方を見たら、目が合った。


「わからないにゃ。そんな説明をした気もするけど、よく覚えてないにゃ」

「ユメちゃんが何を忘れたとしても、私はユメちゃんが大好きだからね」


ユメが、柔らかく笑った。


「おかあさま、ルレーブだけだいじー。ユリ、ユメだけだいじー。キボー、ユメだいじー!」

「キボウ、ありがとにゃ」


「俺もユメのこと大事だぞ! ユリの次くらいに大事だぞ!」

「にゃはは、ソウは正直すぎるにゃ」


ユリもユメも笑って、みんな笑顔になった。

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