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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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我儘

「ユリ様、(わたくし)、ユリ様のお店を見学させていただきたいです」


レッドの屋敷に到着し、挨拶して下がっていったレッド公爵夫妻が見えなくなると、ラベンダーが主張し始めた。


「あ、うん。ソウが居ないと、厨房へは入れないのよ。それでも良い?」

「はい。お待ちいたします」


どうしても来たいらしいので、ユリが折れ、店まで連れてくることになった。


「ラベンダー」

「スマック様」


転移しようとしたら、ラベンダーが呼ばれた。次期レッド公爵の、ラベンダーの夫、スマック・レッドだ。伯爵としては、ルビーレッド伯爵である。


「これは、ハナノ様、ラベンダーがお世話になっております」

「いえいえ、私がお世話になってるんですよ。ちょっとラベンダーさん借りていきますね」

「かしこまりました」

「ちゃんと今日中に送ってきますので、ご安心くださいね」

「ありがとうございます」


少し驚いた顔をして、スマックは、送り出してくれた。


ラベンダーをつれ、店に戻ってきた。


「ユリ様おかえりなさい」


すぐにリラが駆けつけ、ラベンダーを見て驚いていた。


「ただいま。ちゃんと戻ってきたわよ」

「ラベンダー様!?」

「リラちゃん、見学させてね」


やはりソウたちは未だ戻ってきていないらしい。厨房へは入れないので、お店のテーブルで、少しでも手伝いたいらしい。


リラと厨房に行き、どうしたら良いか相談してみることにした。


「ずっと働く訳じゃないから、何をしてもらったら良いかしら?」

「ユリ様、まずはエプロンを。それと、手を洗う水をお渡ししてきます」

「あ、お願いするわ」


リラは小さめの(たらい)に湯を混ぜ、手を洗う水をエプロンとタオル共に持っていった。


すぐに戻ってきたリラは、ユリに報告してきた。


「ラベンダー様は、割烹着をお持ちでした」

「あ、あの手荷物!」


もう最初から来るつもりで、用意周到に準備してきたらしい。


ユリは諦めて、ソウを以心伝心で呼ぶことにした。


『ユリです。ラベンダーさんが来てて、厨房に入れたいから、申し訳ないけど一度戻って来てください』


ソウは割りとすぐ現れた。2階から来たのでラベンダーには会っていない。


「厨房に入れて良いの?」

「入る気満々で、割烹着まで用意して来てるのよ」

「あー。まあ、ユリが良いなら」


ソウは、ラベンダーに無言の誓いをしてから、ラベンダーの魔力を何かに登録し、厨房に入れるようにしてくれた。


「ホシミ様、ありがとうございます。やっと夢が叶いました!」


ラベンダーは、ニコニコである。


「ラベンダー様、おめでとうございます」

「一番弟子のリラ先輩、よろしくお願いします」

「え、待ってください。私は先輩なのですか!?」


リラが声をかけたら、ラベンダーからの思わぬ返しで、リラが焦っていた。


「俺、リラが焦ってるの初めて見たかも」

「そうねー。ほぼ全員が固まったキボウ君にもまったく驚かなかったものね」

「面白いものも見れたし、向こうに戻るよ。昼ご飯の前にはユメとキボウもつれてくるから」

「はーい」


リラが珍しく困っているので、ユリが助け船を出した。


「アルストロメリア会で指導を始めたのは、リラちゃんがここの従業員になるより前よ。それまでは、リラちゃんはお手伝いをしてくれていたけど、作る方はしていないし、私が呼んだときだけだったからね」

「ラベンダー様の方が、先輩ですね!」

「まあ! では、(わたくし)が、先輩ですわね」


なんだか、丸く収まったようなので、ユリはそれ以上何も言わなかった。リラとしては、ラベンダーとは絶対に揉めたくないのだろう。


「では、明後日雛祭(ひなまつ)りのためのケーキを仕込みます。試作見本があるので、出来上がりのイメージとして、見ておいてください」

「はーい、ユリ様、『ひなまつり』ってなんですか?」

「別名『桃の節句』等と呼ばれ、女の子の成長を祝うお祭りです。桃の花、雛人形(ひなにんぎょう)菱餅(ひしもち)白酒(しろざけ)などを飾り、ひなあられ、(はまぐり)のお吸い物、ちらし寿司などを食べます」

「ひな人形とはどのようなものですか?」

「私が結婚式の時に着ていた民族衣装よりも、更に格上の民族衣装を着た男女の人形と、仕える人たち13人くらいを緋毛氈(ひもうせん)と言う赤い布を敷いた7~8段の階段状の場所に飾り付けます。写真を見せましょう」


ユリは、2階から手芸の本を持ってきた。吊るし雛の作り方の本に、7段飾りの雛人形が載っているのだ。


「こんな感じよ。それで、ちらし寿司は好みがあって難しいから、ひなあられをサービスで出して、桃のケーキと、桃色のラング・ド・シャに桃かバニラのアイスクリームをのせたものを出そうと思います」


ユリは、自分で描いた絵が当てにならず伝わらないことを自覚し、最近は、試作を作るか 以前作った写真を見せることにしている。


「ユリ様も、このお人形はお持ちなのですか?」

「持ってたんだけど、こっちに来るときに処分しちゃったのよね。雛人形は、女児が生まれると買ったりするのよ」


リラは当たり前に、ユリの話を聞きながら質問していたが、ラベンダーは、見たこともないものが多数提示され、驚きで固まっていた。

カラー刷りの本や、ユリの見せた写真や、この厨房内の見たこともない設備だ。


「ん?ラベンダーさん、大丈夫?」

「ラベンダー様?」


ユリとリラには、ラベンダーの顔色が悪いように見えた。


「あ、いえ、少し驚きました。いえ、とても驚いております」

「あー、リラちゃんが割りとなんでも驚かないからいつもの調子で進めちゃったけど、聞きたいことは聞いてね。答えられる範囲で答えるから」


すると、ラベンダーは少し考えてから質問してきた。


「先日、母や、マーガレットがこちらに来たのですか?」

「ちょっと面倒な人の対処に、パープル侯爵に来てもらったのよ。その時に一緒に来ていたわね。でもお店までよ」

「そういった事情があったのですね。私だけ来られなかったので・・・」

「バレンタインと言うイベントの仕込みをしているときでね。そのお菓子と、その日のランチを提供したんだけど、マーガレットちゃんが何か言っていたの?」

「ええ、まあ、とても美味しかったと自慢されたのが悔しかったわけでは・・・」


とても悔しかったらしい。


そんな可愛い理由で、今日無理矢理ついてきたのかと、ユリは少し微笑ましく思い、安堵した。


「では、今日のランチは、あの日と同じ『タコライス』にしましょう。『ラング・ド・シャサンド』も作りましょう」

「ありがとうございます!」

スマック=ウルシ科のヌルデ属の総称

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