強化
「ユリ、キボウは置いて帰って良いにゃ」
「そうなの? わかったわ」
ユメから告げられた。事前に相談済みだったのだろうか? 置いて帰ろうとも、一人で帰ってこられるので、特に確認せず店に帰ることにした。
店に戻ると、人が来ているようだった。
「魔動力機器のトロピカルですー! どなたかいらっしゃいませんかー?」
「はーい。今行きまーす」
急いで階段を下り店の外まで行くと、木箱をたくさん積んだ馬車と共に、トロピカル魔動力機器の店主と店員の3人が待っていた。
「ハナノ様! ついに出来ました! 上部の鉄板を取り替えられる80~240度対応の夏板です!」
「うわ!本当ですか!」
「ハナノ様が、そのうち売れるとおっしゃっていらっしゃりまいたので、あれ?」
「無理に敬語にしなくて良いわよ」
「ありがとうございます。売れると聞きましたので、たくさん作りました! とりあえず、何台必要ですか?」
「そちらの迷惑にならないのなら、30台。無理なら20台でも良いわ」
「現在50台作ったものがあり、今25台お持ちしています」
全部引き取り、残りもすぐに持ってくると言う話になった。
「あ、ちょっと待っててくれる?」
トロピカルの人たちには少し待ってもらい、リラに連絡した。
『ユリです。リラちゃんは、強化夏板要りませんか? 今店に、魔動力機器のトロピカルさんが持って来ています』
『すぐ行きます!!』
ユリが以心伝心を送ると、食い気味の返事があり、リラはすぐに現れた。
「ユリ様がお話しされていた魔力の鉄板ができたんですね!私も欲しいです!」
「何台要るのか、自分で注文してちょうだい」
リラは現物を確認したあと、ユリの予想よりもかなりたくさん注文していた。
「そんなにたくさん使うの?」
「シィスルとマリーゴールドからも、個人的に頼まれていまして、お店でも使う予定です」
ユリのあとから見に来たソウとユメが注文しているリラをみて、ユリに言いに来た。
「ユリ、俺も一台欲しい」
「大丈夫よ。ソウとユメちゃんの分も入ってるわ。なんなら、カエンちゃんの分も数に入ってるわ」
「ありがとにゃ!」「サンキュー」
リラとの交渉が終わったようなので、ユリが話しかけた。
「トロピカルさん、パープル侯爵とか、王宮で売り込んできても大丈夫?」
「はい!ありがとうございます! できる限り早く対応いたします!」
「数が無理そうなら、うちはとりあえず15台で、余裕ができてからでも良いわよ」
ユリの申し出に、どういう意味だろう?と、首をかしげ、おそるおそる尋ねてきた。
「えーと、そんなにたくさん、高魔力の方がいらっしゃるのですか?」
「王家、公爵は確実に。侯爵、伯爵は、人によって、子爵、男爵はこれからだと思うわ。魔力もち平民は、私に関わる人以外は、最後になると思うけどね。真面目に頑張れば、20日程で1万pを越えるわ」
「20日!? どれ程の厳しい特訓を?」
「名前に植物名が入ってさえいれば、誰でもできる繰り返しの訓練よ」
ユリは、少し気になっていたことを確認することにした。
「国民の魔力が上がることによって、商売が不利になる職業はある?」
「忙しくなる人はわかりますが、不利になる人ですか。思い付いたらお知らせするので良いでしょうか?」
「ええ、それで構わないわ」
「あ、魔鉱石の価格は暴落するかもしれません」
「そうね。そういう人で、魔動力回路の扱いができる人がいたら、頼みたいものがあるのよ。あなたのところであぶれる人を取り込むか、私に紹介するか、お願いできるかしら?」
「かしこまりました」
「コニファーさんにも伝えてもらえる?」
「はい!本日中に必ず伝えます!」
トロピカル魔動力機器の3人は、急いで帰っていった。
「ユリ様、職人を募集するのですか?」
「魔動力機器を増産するのよ。うちにある電動ホイッパーや、ミキサーなんかが、魔力で動いたら、欲しいでしょ?」
「え!? 出来るのですか?」
「技術的には可能だわ。私は作れないけどね」
城の隠し部屋にある、タンスのような時を止める魔道具の中から見つけた、ユリの前世と言うリスが書いたと思われる色々な魔道具の設計図の翻訳が終わったと、ソウに渡されたのだ。
考えても分からないことだが、現代にも通ずる、家電のような各種道具の設計図だった。
キボウから見せて貰った「リスの映像」に出てきた家電のようなものは、リスが考えたものらしい。
ソウによると、回路については、現代の電気回路を参考に無駄を省き、少し手直ししたそうだ。カナデ・サエキが、手伝ってくれたらしい。
「他にはどんなものがあるんですか?」
「厨房にある道具だと、オーブンや業務用ミキサーの他、うちにあった、ジューサーミキサーとか、凍ったものを溶かしている電子レンジとかかしら。アイス箱のかき混ぜるのをも魔力で動かせば、材料を入れれば、勝手に出来上がるわ」
驚いた顔をした後、リラは理解したように話し出した。
「ユリ様が『でんき』や『ガス』を使うと言った器具を全て使えるようになると言うことですか?」
「すぐには無理だろうけど、いずれは、ね」
ユリ自身が作れるわけではないので、まずは技術者の育成からになる。リラと話していると、30分もしないうちに、トロピカル魔動力機器の3人が、残りを納品しに来た。
「あの、コニファーさんから聞いたんですが、アイスクリーム製造器が、初期の注文だけで150台越えたって本当ですか?」
ユリは当時の注文を思い出した。
「そうね。うちに30、アルストロメリア会で120だったはずよ。すぐ追加が100台くらいあって、その後やっと一般販売になったと思うわ」
「先行販売分で250台・・・」
一般販売をした頃には、ユリは居なかったのだ。
トロピカルの店主は、聞いてきた数よりも更に増えたことに驚いているようだった。
「あ、それとね、上部の鉄板だけど、銅製のも作ってもらえる?」
「それは、同数ですか?」
「先行販売分で、いくつかは欲しいと言われると思います。付属品でなくても、別売りで良いと思うわ。面倒なら、加工業者にサイズを公開して、丸投げしたら良いわよ。うちの分としては、5台分お願いします」
「ハナノ様の分を作った後、考えたいと思います」
おとなしく聞いていたリラが、帰りそうなトロピカルの店主たちを見て話しかけていた。
「あの、ベルフルールの分に3つ、同じ銅製のものをお願いします」
「はい。リラさんの分も作ってからにします」
トロピカルの3人は、銅を加工する職人を探すと言って帰っていった。
リラも注文台数を受け取り、ベルフルールに帰っていった。




