猫尽
いよいよお店の開店時間になり、猫尽くしの「猫の日」が始まった。
予告通りリラは店に行き、注文を聞いているらしい。勿論、猫耳をつけたままだ。
ユリはイリスに強制する気はなかったのに、イリスも猫耳をつけていた。
「イリスさん、無理して猫耳つけなくて良いですよ?」
「え? 面白いと思いますが、似合いませんか?」
「無理していないなら、良いです。とてもお似合いだと思います」
実際、着られてる感がなく、堂々としているので、あまり違和感がない。こういうものは、恥ずかしがるとむしろ目立って、堂々としていると違和感を感じなくなるものなのかもしれない。
ユリは、猫耳カチューシャを持ち込んだ張本人なので、三角巾の手前につけることにした。
「ユリー、ねこー!」
早速キボウに見つかり、キボウは猫仲間が増えて喜んでいた。
「あ、あの、ユリ様、私も、つけた方がよろしいでしょうか?」
「マリーゴールドちゃん、今日仕事じゃないから、悩むまでもなく自由で良いのよ。そして、仕事だとしても、嫌なことは断って良いのよ?」
「はい。ありがとう存じます」
ユリは、最初の注文をさばいたあと、いつもの世界樹様のクッキー生地を仕込み、猫型で抜き、焼いた。
顔部分に抹茶のアイシングを塗り、耳部分に白いアイシングを塗り、以心伝心でキボウを呼んだ。
『キボウ君、お手伝いお願いしまーす』
すぐに来たキボウは、緑猫のクッキーを見て、喜んで時送りをしてくれた。
「みどりねこー!」
「味は同じよ。スタンプはどうする?」
「いらなーい」
「一枚2000☆で売ってきてね」
「わかったー!」
少し手の空いた頃、ソウから聞かれた。
「ユリ、残ってる猫耳カチューシャは、どうするの?」
「誰か欲しい人いるかしら?」
「全てが付くセットを作って、おまけにでも付けてみれば?」
「そうね。そうしようかしら」
実は、猫耳カチューシャを注文するとき、ユリは3個のつもりで3セット注文し、36個届いたのだ。
尻尾つきセットと、尻尾無しセットがあり、尻尾は要らないわねと思いながら、入り数を見落としてしまった。使用しているのは5個だけなので、31個も余っている。
「マリーゴールドちゃん、つけなくて良いけど、欲しくない?」
「あ、はい、あの、ユメ様の色のを、おひとついただいてもよろしいでしょうか?」
「良いわよ。早めに抜いておいてね」
飲み物を作りに戻ってきたリラに、ソウが提案したセットを作ることを話した。
「うわー!売れそうですね。どうなってるの?などと聞かれ、かなり好評です!」
好評なんだ。良かった。と、ユリはひと安心していた。
「シィスル、お店来てみる?」
「ユリ様、見てきても良いですか?」
「構わないわよ」
シィスルは、リラが作った飲み物を持って、店に顔を出しに行った。
入れ替わりに、ユメが戻ってきた。
「キボウの売ってるクッキーは、時送りのクッキーにゃ?」
「そうよ。一応キボウ君に、2000☆で売ってねって言ったけど、なんかトラブルがあった?」
「リラとイリスの『赤猫』も作ったら良いにゃ」
リラとイリスは、赤みが強い茶色の髪色をしている。
「赤色の何かを作っておくわ」
急いでリラの華用の赤い生地で猫型クッキーを焼き、耳だけ薄茶色のチョコを付けた。見ていたマリーゴールドが、面白がって手伝ってくれた。
飲み物を作りに戻ってきたリラと、注文を運ぶために来たイリスに渡すと、物凄く感激して大喜びだった。
「ユメちゃんの提案よ。300☆くらいで売ってください。イリスさんとリラちゃんの裁量で配っても構わないわ」
「ありがとうございます!!」
「自分の分を残してもよろしいですか?」
「どうぞー」
ユリは、シィスル風と、マリーゴールド風の猫型クッキーも作り、本人に渡した。シィスルは、ユリより濃い茶髪で、マリーゴールドは、落ち着いた金髪だ。耳だけチョコを付けて仕上げた。
「ユリ、俺をイメージしたら、どんなクッキーになるの?」
ソウが、とんでもないことを言い出した。ユリは、味には自信があるが、デザインはからっきしなのだ。
物凄く考えた末、黒猫に白目を作り、黒い瞳の黒猫を作った。ちょっと吊り目ぎみ。
「こんなんで良い?」
「あ、ありがとう」
何で猫なんだろう?猫限定なのか? ソウは思ったけど、言わなかった。
ユリにしてみれば、みんなの猫クッキーを作った流れで聞かれたので、自分風の猫クッキーが欲しいのだろうと考えたのだ。
ユリは気を使って、マーレイ風の、濃いめの茶髪色の猫クッキーも作って、本人に渡した。これはみんなと同じ、目がついていない耳だけチョコつきのクッキーだった。
猫耳カチューシャつきフルセットは、告知と同時に完売した。キボウの猫バージョンクッキーの「緑猫」も売り切れ、リラとイリスの赤猫クッキーも好評だった。ラムネの継続販売も頼まれ、しばらく売ることになったのだった。
猫尽くし「猫の日」は、大好評のうちに終了した。




