多猫
今日は猫の日。
黒猫クッキーは勿論の事、今日までに作り溜めた猫型食パンでのトーストやピザトースト。小型猫型食パンでの黒猫ラスク。ラング・ド・シャの黒猫サンド。王宮にも納品した、イリス考案の猫クッキー各種。猫模様のティラミス。猫模様のヨーグルトゼリー。猫型のショートケーキ、猫型のチョコレートケーキ。そしてサービスで配るのは、猫型製氷皿で作った猫ラムネ。
スタッフ全員猫耳をつけようかと思ったけど、ユメは自前だし、他に人前に出るのがイリスだけだと思いだし、取り止めた。
「ユリ様、これなんですか?」
「猫耳カチューシャよ。使おうかと思ったけど、止めたのよ」
リラは不思議そうに眺めた後、ニヤッと笑った。
「使ってみても良いですか?」
「構わないけど、どこで使うの?」
リラは、厨房にいるときは、ユリにならって三角巾を頭に被っているのだ。猫耳カチューシャを使いようがない。
「今日は予告イベントですよね。シィスルとマリーゴールドもどうせ来るはずなので、私、午後から飲み物作りながらお店で配膳します!」
確かに来るだろう二人は、ベルフルールの定休日に仕事をさせても良いのだろうか? まあ、望まない人に猫耳を強要する訳じゃないから、良いのかな? ユリは、リラの対応について考えるのをやめた。
「あ、うん。好きにして良いわ。・・・あ、そうだ、イーゼルにのせる今日のおすすめ書いてくれる?」
「はーい! 『猫の日』という文字と、猫の絵を描いておきますね!」
「頼んだわよ」
ユリは、大きいメニューをリラに任せ、コーティング用の洋生チョコを溶かし、緩い生クリームを用意した。
猫型に焼いたスポンジで作ったショートケーキに、緩めの生クリームをかけ、コーティングしていった。
プラチョコで作った目をのせ出来上がりだ。
リラにも教えながら作った。
次に、同じ型で焼いたチョコスポンジに、洋生チョコでコーティングをしていった。こちらは、バタークリームをサンドしたケーキだ。同じく目をのせた。
「ユリ様、クリームを塗るよりもきれいに仕上がりますね!」
「ナッペ、慣れないと難しいからね。円形ですらないし」
ナッペとは、ケーキにクリームを塗って仕上げることをいう。
慣れない人がすると、時間ばかりかかってきれいに仕上がらない。
「使った後の洋生チョコ、あ、コーティングチョコは、一番目の細かい裏ごし網を通しておいてね」
「はい! このチョコって、冷えてもカチカチにならないんですね」
「そうね。カチカチになると、食べるときフォークで切れなくなっちゃうからね」
昨日シィスルとは、猫型で、スポンジを大量に焼いた。猫型の大きさは、女性の片手より小さい、ケーキとしては2~3人前サイズだ。人によっては、ペロッと一人で食べてしまえる大きさである。
50個くらいずつ、サンドまでして冷蔵しておいたものを、朝から仕上げている。
「リラちゃん、猫スポンジスライスして」
「白いのが半分で、チョコのが3枚切りですね」
「はい。お願いね」
厚み定規を使い、リラはスポンジをスライスしていった。残り150個ずつの猫型スポンジをスライスし、白猫スポンジに生クリームと、スライス苺を挟んでいく。スポンジが毛羽立たない程度にナッペし、一旦冷蔵する。
「ユリー! ステンレスなのに、鉄臭いにゃー!」
朝から苺を黙々とスライスしていたユメが、叫んだ。
苺の酸で、ステンレス製のペティナイフが、酸化して鉄の臭いがするようだ。
「ユメちゃん、セラミックのペティナイフに変えると良いわ」
「どれにゃ?」
「刃が、白いのと、黒いのは、セラミック製よ」
ユメは探しに行き、刃物置き場から白いセラミック製のペティナイフを持ってきた。
「この、刃が折れやすいナイフにも使いどころがあったのにゃ」
先日、包丁サイズのセラミック製のナイフで、うっかり南瓜を切って、大胆に刃こぼれを起こし「ナイフが負けたのにゃ!」と、驚愕の表情でユメが驚いていたことを思い出した。
「酸味の強いものを切る用に、用意したからね」
ユメが子供の頃にはなかったのかなぁ? とユリは思ったが、ルレーブの時は勿論無かったが、川井翼だった頃は、料理をする環境ではなく、そもそもセラミック包丁自体が出始めで、どの家庭にもあるというものではなかった。
「頼まれた苺、切り終わったにゃ」
「ユメちゃんありがとう! 」
「他にすることあるにゃ?」
「生クリーム塗ってみる?」
「やってみたいにゃ!」
苺のサンドと生クリームの下塗りをユメとリラに任せ、ユリはチョコスポンジに、アンズジャムとバタークリームを塗り、サンドし、バタークリームの下塗りまでして仕上げていった。できたものから冷蔵し、全てサンドを終わらせた。
再び洋生チョコを溶かし、先に冷蔵したものから取りだし、コーティングし、持ち帰り用の箱に詰めていった。
出来上がった箱を積んでいると、リラから聞かれた。
「ユリ様、チョコケーキの方は冷やしておかなくて良いのですか?」
「今冬だから、常温で大丈夫よ。生クリームの方は、こまめに冷蔵してね」
「ただいまー! 納品終わったから手伝うよー!」
ソウが、割りと早く帰ってきた。
「あ!俺もケーキ塗るのやってみたい!」
リラが場所を譲り、ソウはユメと一緒に、スライス苺をサンドし、生クリームを塗り、下塗りまでをしていった。
多少の手直しをユリがして、リラは緩い生クリームをコーティングしていった。
「リラちゃん、こっち側かかってないわ」
「うわ、ほんとだ!」
回り込むように覗き込んだリラが慌てて、クリームをかけ直していた。
「多分少し固いのよ。お砂糖入れて混ぜてある、泡立てていない生クリームを足して、固さ調整してみて」
かけ直したものは、他の物よりクリームが厚くなってしまっていた。
「これどうしましょう」
「おやつに食べたら良いわ。少し休憩しましょう」
ユリは4つに切り、お茶を添えてリラ、ユメ、ソウに出し、キボウを呼んだ。
『キボウ君、ケーキ食べるわよー』
『わかったー』




