会食
特に問題もなく一週間が過ぎ、令嬢達が来る日になった。
数日前にパープル侯爵家の執事が来て、当日は11:00頃来ると話し、お土産をたんまり購入して帰っていった。
それは侯爵のご家族の分なのかと聞いたら、使用人の分も入っていると言っていた。
別の包みを渡そうとしていた事に気がついたらしい。
ミニハンバーグとミニグラタンの仕込みも終わったし、プリンも冷えているし、冷凍のパンも解凍したし、サラダもつくってあるし、隠し球も仕込んであるし、お土産は胡桃餅を用意したし、よし、完璧!
そういえば、各家の馬車で来るのかしら?
外おやつも何か出そうかな。
火を使う厨房はうだるような暑さだ。
暑くなっていくこの時期、外で待たされる従者も大変だろう。
今日は暑そうだし、氷入りのお茶でも出しておきましょ。
ウォータージャグに、冷やした紅茶と氷を入れて、蓋に開封厳禁の紙を貼った。
お菓子は胡桃餅を小皿に6つ用意した。
11:00になり、外に出てみると馬車が見えてきた。
良く見かける御者だったので、おやつの扉を指差すと、嬉しそうにして頭を下げた。
さっと中へ戻ると、最初に到着したのはパールホワイト伯爵夫人と娘だった。
そうか、あの御者はパールホワイト家の御者なのね。
婦人は優雅な態度で挨拶した。
「本日はお招き、本当にありがとうございます」
「気楽にしてくださいね」
すぐに次が来る。スカイブルー伯爵令嬢の姉妹だ。
「本日はお招きありがとうございます。とても楽しみにしておりました」
「好きな場所でゆっくりしてくださいね」
少し遅れてパープル侯爵夫人と姉妹が到着する。
「本日はお招きありがとうございます」
「はい。私も楽しみにしていました」
席をすすめ、待ってもらう。
「作りますので、少々お待ち下さい」
グラタンを窯にいれ、ハンバーグを焼く。
ハンバーグに蓋をして蒸らす間に、トレーにサラダやプリンをのせていく。
グラタンをとりだし、受け皿にのせトレーにのせる。
パンを窯で軽く温める。
ハンバーグを皿に盛り、温めたパンと空のコップをのせできあがり。
カウンターにまわり、トレーをとりだし配膳する。
「ユリ・ハナノ様、全部お一人でなさるのですか?」
「はい、いつもそうです」
「人を雇いませんの?」
「つてがないですし、企業秘密もありまして今のところ考えていません」
話しながら配膳が終わり、デキャンタ3つにオレンジジュースを持ってくる。
「ジュースを注ぎましょう」
「いえ、このくらいは自分達でやってみます」
やったことなど無いだろうに、全員がジュースを注いでくれた。
「お肉料理の方はハンバーグ、白いのはグラタンと言って熱いのでお気をつけくださいね。どうぞ、お召し上がりください」
一斉に食べ始める。
一口含み、動作が止まる。
お互いに顔を見合わせて、ニッと笑ったと思ったら、すごい勢いで食べ出した。
早いのに上品。凄いなぁ。
あっという間にプリンまで食べ終わり、笑顔でため息をついている。
「いかがでしたか?」
「殿方はこんなに美味しいものをお召し上がりだったのですね」
「はじめて食べたのに懐かしいような安心するお味で、とても美味しゅうございました」
好評みたいで良かったわ。
「普段のメニューより量を押さえてあるのですが、お腹いっぱいになりましたか?足りなければ何か出しますけど?」
「お腹はいっぱいですが、何が出てくるかが気になります」
「では、ほんの一口のデザートをお持ちしましょう」
厨房に戻り、昨日作っておいた隠し玉のアイスクリームを持ってくる。
「溶けやすいのですぐにお召し上がりください」
一口すくい
「美味しい雪?」
三口すくい
「もう無くなってしまいました!」
「なんですか?これは?」
「これが、アイスクリームです」
「簡単ですの?私達にも作れますの?」
「こちらもできれば教えていただきたいです」
「来週がゼリーなので、その次にでも。真冬箱って、どのくらいの大きさが入るのですか?」
「大きなものは人が入るくらい大きいです。人が入るのは禁止ですが・・・」
「そうなのですね。先日使ったパウンドケーキの入れ物が2つ入る位の大きさで、温度がなるべく低いものが良いです」
「そのくらいの大きさならどの貴族の家にもあると思います」
「必要なものは、生クリーム、牛乳、卵黄、グラニュー糖です。金属製の容器、鍋、ホイッパー、スパテラ、スプーン(またはフォーク)、漉し網、真冬箱です。あと、できるまでに時間がかかります」
「来週も、再来週も楽しみでしかたありません」
「あ、今日アイスクリームを食べたことは男性陣には内緒でおねがいします」
「私たちが初ですの!?」
「はい。まだ出したことがありません」
「それはなんとも貴重な、ほほほ」
男性陣には内緒にしてくれた。とりあえず、男性陣には。
「えーと、次回もパープル侯爵邸で9:00位でしょうか?」
「はい。そのように予定しております。よろしくお願い致します」
「はい。来週伺いますね」
お土産を渡し、皆は大満足な感じで帰っていった。
この集まりの数日前にソウから聞いたのだ。
冬箱も真冬箱も、高価ではあるが一抱えあるサイズでもどこの貴族邸にも有るらしいと。
ならばアイスクリームをだしても大丈夫と。
そして大成功な食い付きだった。
これで、堂々とアイスクリームが食べられる!!