梣型
すぐにチーズをのせ、細かい紫蘇をのせ、オーブンで焼いて仕上げた。海苔パンチで切り抜いてある黒猫をのせ出来上がりだ。
「ユメスペシャル、できましたー!」
出来上がるとほぼ同時くらいに、リラが来た。まだ14:10くらいだ。
「お昼もう食べたの?」
「片付けしながら食べちゃいました!」
「あまり無理したらダメよ?」
「はーい。それで、どれを使って良いですか?」
「休憩室にある、シート状の、シリコンマットを切って良いわよ。厚紙も使う?」
「あ!ありがとうございます!」
先に渡した厚紙を、フリーハンドで世界樹様のクッキーを小さくした形に切り抜いていた。
「あなた本当に凄いわね」
「え?」
「カッターマットが一緒にあると思うから、使ってね」
「はーい」
リラが休憩室に行ってしまうと、シィスルがそわそわしていた。
「シィスルちゃん、少し見てきたら良いわ。15分くらい一人で店番したんだから、15分くらい見てくると良いわよ」
「ありがとうございます!!」
シィスルは急いで休憩室に入っていった。
すると、マリーゴールドが顔をだし、リラもシィスルも居ないことに静かに驚いていた。
「2人なら、休憩室に居るわよ」
「ありがとう存じます」
ユリはマリーゴールドを見送ると、自分の試作を作りながら、お店の注文に対応した。
持ち帰りのみの場合でも、おまけが付くと知った客は、並ぶのを諦め、買って帰る方に変えた人も多く、外の行列は少しだけ短くなったらしい。
シィスルが戻ってきて、リラが作った世界樹様のクッキーと同じ形の、サイズの小さいラング・ド・シャ用を見せてくれた。
リラとマリーゴールドはそのまま残り、15時ギリギリまで抹茶味のラング・ド・シャを試作するらしい。
「リラちゃん、シィスルちゃん、マリーゴールドちゃん、そのラング・ド・シャの名前は、私がつけて良いかしら?」
「はい。何という名前ですか?」
「大きいクッキーは『世界樹様のクッキー』だけど、『世界樹様サンド』だと、ちょっと違うかなって思ってね。キボウ君の名前にしようと思うのよ」
「何サンドですか?」
「3つの中から選んでもらって『トネリコサンド』よ。キボウ君のセカンドネームよ。キボウ君に聞いたら、これが良いって言っていたわ」
「セカンドネーム!?」
「キボウ君に『キボウ』と名付けたのは、私だけど、フルネームは、長いのよ」
ユリは説明していて気がついた。キボウの名前の「トネリコ」は、日本語じゃないのかと。
いったい誰が名付けたんだろう?
リラとマリーゴールドが帰り、そろそろ外おやつの追加を持っていこうと、洗い物をしていたマーレイに声をかけると、外おやつを持っていってくれるというので、頼んだ。
「お茶も残っているか確認してください」
「かしこまりました」
こちらの昼ご飯前から外おやつを出したし、お茶は誰でも飲んで良いとソウが伝えたので、今日はすでに足りないかもしれない。
すぐに戻ってきたマーレイは、そのまま、お茶を持っていってしまった。やはり足りなかったらしい。
ユリは店内用のお茶を夏板で沸かし、追加した。
「ハナノ様、おやつの方はまだ少し残っていました。お茶は残り少なく、飲むのを躊躇していたようでしたので、急ぎ持っていきました」
「ありがとうございます。助かりました」
明日用のデザートを仕込み、パン生地を作っていると、イリスが聞きに来た。
「ユリ様、生チョコの持ち帰り最大数はございますか?」
「何個ほしいって言われたの?」
「有るだけ欲しいとおっしゃっています」
「現在の在庫は?」
「大体、120~140ずつくらいかと思われます」
「その半分売って良いわ。その人、500個前後も、持って帰れそう?」
「確認して参ります」
少しして、ユメが来た。
「ユリ、あれは、500個は想定してなかったみたいにゃ。でも言った手前、無理してでも買うつもりみたいにゃ」
「必要な数にしてくださいと助言してきてくれる?」
「わかったにゃ」
それでもこの客は、200個ほど買っていったらしい。
どうやって持っていったんだろう?
2~3個買う客と全種類買う客がいて、紙袋の在庫がなくなったらしく、ユメが取りに来た。
「ユリ、紙袋は、内倉庫に有るだけにゃ?」
「ビニールのパッケージを破っていないのが、外倉庫にあるはずよ」
「ユメ様、いくつか運んでおきます」
「お願いするにゃー」
話を聞いていたマーレイが、内倉庫に運んでくれた。ちゃんとビニールは、空き缶などと一緒にまとめてくれたらしい。これはソウが運んでカエンに処分を依頼している。
キボウが来て、世界樹様のクッキーの仕上げも終わり、仕込みの予定が片付いた。
お店の注文は、シィスルが引き受けるというので、ユリは試作の続きを始め、オレンジピール入りの生チョコを作り、ハート型にサンドした。
次に四角い型でラング・ド・シャを作り、ココア生地で模様を描いた。丸く絞って竹串で真ん中に線を引くように引っ張り、連なったハート型を作ったり、簡単な花模様を書いたりした。
乾燥卵白をビーツの煮汁で戻し、濃いピンク色のラング・ド・シャ生地を作り、花形にした。
焼き上がり、四角いラング・ド・シャはそのまま。花形は熱いうちに茶碗くらいの大きさの器に入れ、丸みをつけた。
小さい方のアイス箱でバニラアイスクリームを作る用意だけし、ご飯を作り始めた。
シィスルにも、試作の続きをして構わないと言うと、イチゴ生チョコを仕込み始めた。表面につける粉に使わないので、砕いたフリーズドライイチゴはそのまま加えていた。
お店が終わる間際に、大口の客が来たらしく、ユメとイリスが慌てていた。
ソウが戻り、ちらし寿司と、高級チョコレートを2種類持って帰ってきた。
「ただいまー。ちらし寿司はお袋から。チョコレートはカエンと、母親(月見エリカ)から」
ソウは指を指し、チョコレートを誰から貰ったか説明していた。
身内だけなのね。とユリは少し安心した。
ソウは、ユリの前以外では愛想良くしないので、最近ではあまり渡してくる人は居ないが、それでもチャレンジャーはいて、その場合、大体受け取りを拒否していた。
過去に色々あり、手作りは特に怖いらしい。ソウが素人の手作りを食べるのは、養母とユリの作ったものくらいなのだ。(ユリの場合、仕事にする前の話)
ユメのピザトーストを食べたのは、作るのを見ていたことや、秋波を送ってくる相手ではなく、家族だと思っているからである。
ちなみにカエンと月見エリカは、ソウの養母(星見 遥)から、手作りの菓子は受け取らないと思うわ。と聞かされ、高級チョコレートを用意した。
「みんな手が空いたら、ご飯を食べましょう」
あとにできる仕事はとりあえず残し、揃って夕食を食べた。
「私から皆さんへ、バレンタインのお菓子です」
そう言ってユリが持ってきたのは、オレンジピール入りの生チョコをサンドしたハート型のラング・ド・シャと、模様を描いたラング・ド・シャと、桃色で花形のラング・ド・シャにアイスクリームがのったものだった。
「うわー! ユリ様凄いです!」
「アイスが乗ったお花にゃ!」
「へぇ、模様つきにできるんだ」
「リラちゃんのところって、何人いるの?」
「今日は、8人くらいで、夕食を食べるのは、5人かと思います」
「シィスルちゃん、向こうへ帰るとき、5人分持っていってくれる?」
「はい!」




