提供
「最後に、私から食事と、おやつを提供します。少し食べてみて気に入ったものだけにしても良いですし、そのまま受け取って持って行くのでも良いですよ」
「食事はそのまま受け取り、目先の変わった楽しみとすることにしたいと思います。カンパニュラのために、デザート類を見せていただけますか?」
「では食事は、リュック型の魔道具に入ったまま渡します。デザート類やおやつは、私が持っているので、まずは温度が影響しないものから見せましょう」
リュック型の魔道具をそのまま渡した。メイドが受け取ろうとしたので、慌てて断り、ソウがメイプルのそばまで運んだ。
約50種類が、5食ずつ入っていて、器を合わせると結構な重さになる。1食を500gとして、単純計算でも魔力の少ない人には、125kgくらいにはなるのだ。持ち運べるわけがない。
(1万p以上の魔力があれば、125gにしか感じない)
「あ、料理には名前を書いた紙をつけてあります。あと、こちらは、リラちゃんと弟子たちに作ってもらいましたが、料理の絵と、名前と、入っている具材などの説明と、簡単な作り方です。こちらは、菓子の説明のノートです」
ユリは、ノートを2冊渡した。
受け取ったノートを開き、メイプルはアネモネと一緒に見た。
「これは凄い!」「素晴らしいわ!」
少し眺めていたメイプルが、ふと気がついたように尋ねてきた。
「そう言えば昨日、パープルから契約書の写しと、書状が来て、接近禁止と立ち入り禁止の訴えのようでしたが、ご存じですか?」
「そのノートを書いた一人が巻き込まれたというか、当事者で、あまりにも相手が、なんというか、不勉強で、えーと」
ユリが言葉に詰まると、ユメが答えた。
「貴族を名乗っているのに、メイプルが誰だかすら知らなかったにゃ!」
「は?」
意味がわからないメイプルに、ソウが説明する。
「俺と、ユリの事を知らないだけかと思ったんだが、メイプルの名前を出しても伝わらなくてな。そいつが理解できる一番偉いのが、侯爵位だったんで、パープルに一芝居打って貰って、契約書を書かせた」
「なんというか、学園出てないのか?」
メイプルは、独り言として呟いたみたいだった。
「マリーゴールドちゃんは、その相手の家のせいで、学園に通わせて貰えなかったと言っていたけど、当人のマホニア・ダークイエロー君が学園に行ったかは、聞かなかったわ」
ユリが名前を出したとき、意外な人物が反応した。
「あ」
それは、プラタナスに付いてきていたシッスルだった。
「シッスル、知っているのか?」
「は、はい。名前だけではございますが、優れた容姿でございましたが、えーと、あの、その、」
「構わない。知っていることを教えてくれ」
「かしこまりました。私が学園を辞めるよりもだいぶ前に、成績が振るわず、お辞めになりました」
「あー、クビになったのか」
成る程「バカすぎてクビ」を丁寧に言うと「成績が振るわずお辞めになる」になるのか。
「なんでも、ダークイエロー男爵家は、美人と評判の男爵令嬢が、魔力持ちの元平民の商人だった方を婿にして、商売で家を立て直したらしく、現在はとても羽振りが良いと、友人が話しておりました」
「シッスルありがとう」
「パープルからの書状は、希望通りに即時処理してくれ」
メイプルが近侍している者に声をかけていた。
仕切り直し、菓子類を出して見せる事になった。
「まず、黒猫クッキーのようなお菓子との要望は、色々な猫のクッキーを作ってみました。生チョコの希望は、週明けから売り出す全種類を持ってきました。チョコのお菓子の希望は、チョコチップクッキーと、チョコとナッツのソフトクッキーと、生菓子にあります。その他に、この一月ほどに売り出した生菓子などを持ってきています。あと、これ、ソウが作ったステンドグラスクッキーです。あと、リラちゃんの弟子が作った『黒猫サンド』です」
「黒猫クッキーとはまた違うお菓子なんですね」
「はい。ほかに、黒猫のラスクもあります。ユメちゃんが作ったピザトーストを含め、黒猫シリーズを『シャノワール』といいます。意味は、外国語の『黒猫』です」
メイプルとアネモネは、早速クッキーを味見していた。
子供たちは描くのに夢中で、試食しに来ないらしい。ユメとキボウが、指導しているようだ。
「これもとても美味しいですね!」
「黒猫仕様ではない通常のものは、こちら『ラング・ド・シャ』です」
「これは、王国の形ですね!」
王国の形とは、ハート型のことだ。この国は、長めのハート型のような形なのだ。
「菓子類は6つ以上有ると思いますが、増産が必要なものは、声をかけてください」
「ハナノ様、どうもありがとうございます」
メイプルたちの出発準備の用意が一段落し、ユリは肩の荷が下りた気がした。
希望していた生活魔法も教えたし、変わった食事と豪華なおやつを提供し、あとは当日運ぶ手伝いをするだけになった。




