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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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拒絶

お店のテーブルでは、2人がけに、マーレイとイリス、リラとシィスル、4人がけに、ユリとソウとユメとキボウ、もう一つの4人がけに、マリーゴールド、マリーゴールドの兄、自称婚約者が座った。


自称婚約者は、食べる前は何やらブツブツ言っていたようだが、食べ始めると凄い勢いで食べていた。


「マリーゴールドちゃん、これ、話だけの」


ユリは食後に、ラング・ド・シャにホワイトの生チョコを挟んだものを渡した。


「ユリ様、ありがとう存じます」


すぐに食べたマリーゴールドは、もの凄く喜んでいた。


「ユリ様、販売されるのですか?」

「リラちゃんには伝えたけど、ラング・ド・シャを作ってもらうわ。来週落ち着いてから販売しようかと思ってるわよ」


ユリとマリーゴールドのやり取りを見ていた自称婚約者が言い出した。


「そこの女、私にもそれを持ってこい」


全員が睨んだが、他の視線を気にすること無く、当然と言わんばかりに威張っていた。

ソウの事をユメが止めていた。リラの事をマーレイが止めていた。


「マホニア、何言って、」

「マホニア・ダークイエロー様、どういうつもりでございますか」


兄の言葉を遮るように、マリーゴールドが静かに怒っていた。


「マリーゴールドちゃん。大丈夫よ」


ユリはマリーゴールドを止め、マリーゴールドの兄と自称婚約者にも、1枚ずつ渡した。


「どうぞ。残りはメイプルさんに渡す予定なので、1枚だけですけど」


早速食べると、目を剥いて驚いていた。


「なんだこれは!」

「ラング・ド・シャの生チョコサンドです。来週から売り出す予定ですので、来週の、木曜日(じゅもくのひ)以降にお越しくださいね」

Tの日(じゅもくのひ)だと? 一週間もあるじゃないか! 今言った、メイプルとかいうヤツに渡す分を寄越せ!」

「うふふふふ。本人に交渉するなら良いですよ」


「ユリ・ハナノ様、それは・・・」


マリーゴールドの兄が、絶句していた。


「マリーゴールドちゃん、ちょっとお話があるんだけど、厨房に来てくれる?」

「はい。ユリ様」

「俺も行く」


ソウがついてきた。来なければ、ユリは呼ぶつもりだったので、そのまま厨房へ行った。


「マリーゴールド、あれなんなんだ? 何て言って連れてきたんだ?」


厨房へ来るなり、かなり呆れた様子でソウが言った。


「大変申し訳ございません。リラさんのお師匠様のところに食事に行くと説明致しました」

「マリーゴールドちゃん、何言っても何聞いてもここだけの話にするから、本当の事を教えてもらえる?」

「かしこまりました」

「婚約が嫌でリラちゃんに弟子入りしたの?」


少し悩んだマリーゴールドは、静かに話し始めた。


「幼い頃に、婚約が結ばれました。当時は、周りの女性から羨ましがられましたが、大きくなるにつれ、ダークイエロー男爵家のあまりの身勝手さに、私は嫌になりました。次期男爵の長兄は王宮に騎士として勤めたあと、男爵を次ぐ予定で家に居りませんでしたので、次兄に相談致しましたところ、貴族である限り結んだ婚約は、相当の事が無ければ破棄できないと言われまして、相当の状態にするために、除籍して欲しいと手紙を残し、家を飛び出しました。リラさんには、親元を飛び出してきたことは伝えましたが、最初はマリーと名乗り、貴族であることを隠して居りました。そのうち、私を探していた次兄に見つかり、母と次兄に、飛び出した訳を話し、理解していただきました。長兄は、家に戻ったばかりで私の飛び出した経緯を知らなかったみたいです。そんな理由で弟子入りしましたが、リラさんたちと他の貴族家を回り、やはりダークイエロー男爵家がおかしいと感じました。この婚約騒動がなくても、私はリラさんの弟子でありたいと思っております」


「なんだか、理由を聞かなくてもわかる気がするけど、嫌な理由は言える?」

「学ばないのです。こう言ってはなんでございますが、顔だけは良いのですが、努力や勉学をしないのです。人の話も聞きません」

「あー、そんな感じだな。自国の王子の名を知らないヤツって、初めて見たよ。馬鹿すぎて嫌って事だな」

「王命でも出してもらわないと諦めない感じ?」

「そんなお手を煩わせるようなことは望みませんが、除籍してもらえば済むと考えて居りました」


そんなマリーゴールドの考えに、ソウが現実を突きつけた。


「マリーゴールド、仮に除籍されても、今度は拒否権無く召し上げられるだけだと思うぞ?」


思わぬ現実を知らされ、マリーゴールドは、驚愕していた。


「心の底から結婚したくない相手ということね」

「はい」

「あれ、馬鹿すぎて、上から言われても付きまといそうだな」

「この国に、公務員試験的なものはないの?」

「官僚試験? 高位の役人を選ぶときに実施するみたいだよ」

「それに受かったら考えます。とかで諦めないかしら?」

「あのー、ご本人だけではなく、ダークイエロー男爵家のご姉妹にも問題がございまして」

「どんなこと?」

「私が勉強をしようとすると邪魔しますが、学園すら出ていないと揶揄します。私は、ダークイエロー男爵家の意向で、王立学園に行かせていただけませんでした。ですので、他への嫁入りも難しいのでございます」


ユリは思い出した。「10歳から20歳の間の6~8年間、通える者のみ通います。女性は、ほぼ10歳で入り、婚約が成立すると学園を辞めるかたが多いです。男性は、卒業後、25歳までに3~5年間ほど王国軍に入隊するので、それに合わせるために、12歳から入る方も居ます。女性は、16~22歳くらいの間に婚姻するのが一般的で」と、養育係のシッスルの事を聞いたときに、説明されたのだ。


「えーと、マリーゴールドちゃん、今何歳なの?」

「リラさんとシィスルさんには16歳と伝えてございますが、17歳でございます」

「なんで?」

「シィスルが、平民で兄弟子(あにでし)だからじゃないか?」

「はい。その通りでございます」


貴族であることは、いずれバレるとしても、年齢まで上では、兄弟子に当たるシィスルと、打ち解けられないとマリーゴールドは考えたのだ。

16歳になれば、即結婚させられると思い、15歳のうちに、出奔した。そして、シィスルと同じ14歳と偽り、リラに弟子入りしたのだった。


「なら、魔力勝負でもするか。今いくつくらい有るんだ?」

「おそらく、1万p有ると思います」

「あいつから見て、一番偉いと思われているのは誰だ?」

「この場にはいらっしゃいませんが、パープル侯爵以上を知らないのだと思います。侯爵邸の転移陣を使ってこちらまで来たようでございます」

「よし、呼んでくる」


ソウは階段を上がっていった。

ユリとマリーゴールドは、店に戻った。マリーゴールドを見た自称婚約者が、言い放った。


「マリーゴールド、さっさと帰るぞ」

(わたくし)は帰りません。どうぞ勝手にお帰りくださいませ」


お店がわのドアから、ソウが戻ってきた。ちゃんとパープル侯爵を連れている。いや、後ろに、ローズマリーと、マーガレットまでいる。

パープル侯爵を見た、自称婚約者は、とたんにおべっかを使い始めた。


「これは、閣下。このような店にお越しになられるのですね」

「ここは、私の大切な場所だ。揉め事を起こさないでくれたまえ」


マリーゴールドの兄が、頭を抱えていた。


「それで、君は何をしているのだね?」

「私の婚約者を迎えに参りました。さ、マリーゴールド」

「領主様、ご無沙汰しております。ただ、(わたくし)は、婚約者ではございません」


マリーゴールドは、自身を平民として、挨拶していた。


「よくわかった。双方の意見が食い違うときは、公平に勝負をして決めると良いだろう。君は貴族と平民の違いはわかるかね?」

「魔力量の差です」

「彼女は平民として挨拶した。なら、魔力量の勝負をしてはどうかね?」

「同じだった場合はどちらが勝ちなのですか?」

「同じ量なら、君の勝ちにしたら良い」

「その勝負受けます!」

(わたくし)も、それで構いません」


大分持って行き方が強引だったが、己が勝てそうな条件に、深く考えずに乗ってきた。

50pの空の魔鉱石を240個ほど持参してきたことを、疑いもしなかった。


「不正がないか、君が確認すると良い」

「かしこまりました」


自称婚約者は、魔鉱石を軽く手に持って、空であることを確認した。


「では、この書類に双方サインをしなさい」


そこには、負けた者は勝った者に従う旨が書かれていた。


パープル侯爵が、空の魔鉱石を10個ずつ配った。マーレイとマリーゴールドの兄を除く全員に。


「10個?」


自称婚約者が呟いていたが、パープル侯爵は、構わず説明を始めた。


「私が審判をしよう。ダークイエロー令息、誰と勝負をするかね?」

「え?誰と?」

「今いるメンバーで不満なら、私の妻や娘でも構わないぞ」

「マリーゴールドか、リラで」

「マリーゴールド、リラ、二人とも参加しなさい」

「かしこまりました」「かしこまりました」


魔力の殆ど無いはずの平民と思っている相手を名指しする程度には、脳みそがあったらしい。


「では、始め!」


1,2,3,4,5,6,7,8,9,10

数えながら、約10秒だった。


「終わりました!」「終わりました!」

「は? 何言って?」


マリーゴールドとリラの前には、充填済みの明るい魔鉱石があった。


1分経った時に、ソウが声をかけた。


「もうやめた方が良い。充填は初めてか?おそらく、150p程度しかないのだろう」

「お、お前はどうなんだ!」

「こんな小さな魔鉱石、1秒程度だ」


ソウは机の上の魔鉱石をまとめてポンと触り、一瞬で充填した。それを見て驚きながらも、やっと3個目を握りこみ、充填が終わると気絶した。


「まさか、魔鉱石の充填すらしたことがなかったなんて。お兄様、婚約は破棄ではなく、白紙でお願い致します」

「そうだな。家としての縁も切ろう」


気を失った自称婚約者は、ソウが、ダークイエロー男爵家に適当に置いてきた。


その後王宮から、ダークイエロー男爵家へ、マリーゴールドと、ハニーイエロー男爵家への接近禁止と、パープル侯爵領への立ち入り禁止が言い渡された。


お店開始の時間になり、ドアを開けた客が、パープル侯爵一家がいるのを見て驚いていた。


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