嫡男
来週明けはバレンタイン。
昨日も作ったのだが、今日もこれでもかというほど生チョコを作る予定だ。種類もそうだが、量も凄い。
ラム酒、コーヒー、抹茶、オレンジピール、苺、などの定番の他、赤ワイン、ブランデー、ヒノモト酒などの、完全大人向け生チョコを大量に仕込む予定だ。
どのレシピにも酒は入っているが、意図して多めに酒を入れる物もある。
「リラちゃん、今日も生チョコ大量に仕上げるわよ!」
「はい。でもこんなに売れますか?」
「まあ、残っても魔道具の鞄に保存するから大丈夫よ」
「今日作るものは、いつカットするんですか?」
「月曜日に使うから、月曜日の午前中までには仕上げる予定よ」
「Mの日ですね」
カットしたものを、総出でココットに詰めている。既に冷蔵庫に入りきらなくなっていて、先のものから魔道具の鞄に入れ直している。
作業をしていると、リラが思い出したようにユリに質問した。
「ユリ様、買って帰るのがほぼ男性で、受けとるのは、その奥さまやお嬢様かと思うのですが、お子様用にアルコール無しの物を作らなくてよろしいのですか?」
「え? あー! そうよね。買って帰るのがほぼ男性よね」
ユリの感覚だと、女性が、男性や同姓の友人に渡すイメージが強く、この店で買って帰るのは、数人を除いて男性しかいないと思い出した。
「苺だけで良いかしら?」
「お酒入りと、どうやって見分けますか?」
「うーん、三角にでも切る?」
「それなら見分けやすいですね」
早速、酒無しの苺生チョコを仕込み、一部を冷凍した。
明日土曜日、城に行くときに持っていこうと考えたのだ。
ホワイトチョコの酒無しの生チョコを少量作り、少し泡立てて固くし、以前リラたちが作っていたラング・ド・シャの魔道具の鞄に保存してあったものに絞って挟み、リラに返した。
「口頭で説明しただけだったけど、こんな感じよ」
「わあ! 食べてみて良いですか?」
「どうぞ」
すぐに食べたリラは、食べ終わらない内に騒ぎだした。
「これ! 凄く美味しいです! これ売りましょう!」
「美味しいにゃ! 売れるにゃ!」
「いくらで?」
「1つ350☆で、3つ入り1000☆くらいですかね」
「では、丸型でラング・ド・シャを作ってください」
その場にいた、イリスとマーレイにも好評だった。外から帰ってきたソウや、キボウにも味見を渡したが、もう少し欲しいと言われた。
「こんにちは。あのー、リラさんにお客さんが見えています」
シィスルが、倉庫側の扉から訪ねてきた。
「え? 誰?」
「私はわからない方でしたが、マリーさんがご存じみたいで」
「貴族の方? とりあえず、ユリ様、少し見てきて良いですか?」
「構わないわよ。何かあったら呼ぶのよ?」
「はい。ありがとうございます!」
リラは、ベルフルールに戻って行った。
「ユリ、見てきても良いにゃ?」
「行っても良いけど、気を付けてね?」
「わかったにゃ」
ユメまでついていってしまった。
「ユリ様、リラさんが帰ってくるまで、なにか手伝います」
「ありがとう。では、まず味見どうぞ。帰るとき、マリーゴールドちゃんにも持って帰ってね」
生チョコを挟んだラング・ド・シャを渡した。
すぐに食べ、喜んでいた。
「うわー! 美味しいですね!聞いて想像していたより美味しいです!」
「リラちゃんは、売る気らしいわよ」
「絶対に売れそうです!」
シィスルは、リラが抜けた所をカバーし、しばらく手伝ってくれた。
「ん、ユメが呼んでる! ユリ、俺ちょっと顔出してくるよ」
「よろしくお願いします」
ソウを送り出すと、シィスルが大分不安そうな顔をしていた。
「シィスルちゃん、お客さんって、男性?」
「はい。おそらく貴族の方だと思いますが、とても丁寧な感じでした。それに、マリーさんがご存じの方のようでしたので、私がお知らせに来ました。お一方は、お身内だと思います」
皆で不安に思いながら、リラとユメとソウが帰ってくるのを待っていた。
「そろそろお昼ご飯になっちゃうわね。シィスルちゃん、こっちで食べていく?」
「良いんですか?ありがとうございます!」
「ユメちゃんとソウにも聞いてみましょうか」
ユリは、以心伝心を送ることにした。
『ユメちゃん、お昼ご飯に戻ってこられそう?』
『リラとマリーゴールドと、他2人連れていっても良いにゃ?』
『構わないわよー』
皆が不安そうにユリの方を見ていた。
「マリーゴールドちゃんの他、2人連れてくるらしいわ」
「えーと、11人前ですか? 足りますか?」
「えーと、そうね。15人前有るから大丈夫よ」
今日の予定は、タコライスだ。
蛸が入ったご飯ではなく、タコスの方の、タコライスである。
「ユリ様、どうやって作るのですか?」
「タコスシーズニングで挽き肉に味をつけて、刻んだレタスとナチュラルチーズとサルサソースをご飯の上にかけて食べます」
皿を用意しながら説明していた。
「上に盛り付けるのですね。タコスシーズニングとはなんですか?」
「チリパウダー、ガーリックパウダー、オレガノ、パプリカパウダー、オニオンパウダー、カイエンペッパー、クミンパウダー、ホワイトペッパー、塩なんかを混ぜた粉ね」
「サルサソースとはなんですか?」
「トマト、玉ねぎ、ピーマン、セロリ、を刻んで、黒胡椒、レモン果汁、辛味調味料(タバスコ等)をよく混ぜれば出来上がるわ」
11人前のタコライスが出来上がった頃、ユメたちが知らない男性二人を連れ、店側のドアから帰ってきた。
「戻ったにゃ!」「ただいまー」
すぐにリラとマリーゴールドがユリのそばに来て、謝っていた。
「ユリ様、仕事抜けてしまってすみませんでした」
「ユリ様、ご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ございません」
「あなたたちが無事なら、良いわよ。それで、どなたなの?」
「私の兄、次期ハニーイエロー男爵のビーチでございます。こちら幼馴染みの、男爵家の嫡男、マホニア・ダークイエロー様でございます」
「ビーチ・ハニーイエローです。妹のマリーゴールドが、大変お世話になっております」
「ユリ・ハナノです。マリーゴールドちゃんは、とても優秀で頑張りやさんです。大変助かっています」
「マホニア・ダークイエローです。一つ訂正致します。単なる幼馴染みではなく、婚約者です」
「そのお話は、無かったことに」
「私は了承していない」
「ま、とりあえず、ごはん食べましょう。お腹が空いている話し合いは、良くありませんからね」




