卒倒
「あ!領主様御一行がお見えだ!」
どこかの店の店員が叫ぶと、見渡す限りの店員や客たちが、頭を下げ、手を低く合わせ、中腰のような低い姿勢をとった。
ソウとユメが、慌ててユリのそばに来た。
「ユリ、一応結界張って」
「はーい」
立ったままのユリを心配して、店員の男の子が声をかけてきた。
「お嬢さん、腰をおとして、お貴族様の顔を見たらダメだよ!」
「ありがとう。大丈夫よ」
ぞろぞろ連なっていた一人が近くまで来た。
「そこの女、なぜ立ったままでいる、領主様のお成りであるぞ!」
領主本人らしき人物も、こちらにやって来た。
「何をもめている?」
「この者が、わきまえずに居りますので、」
説明をした供の者を制止し、領主はユリを覗き込んだ。
「不思議な服のお嬢さん、ん? どこかで?」
「私に会ったことがあるなら、2週間くらい前かしらね」
ユリの事が分からなくても、ユリの横のテントの影に立っているソウに、気がついたらしい。
「ソウ・ホシミ様!? ま、さ、か、ユリ・ハナノ様?」
「はい。ユリ・ハナノです」
「お前たち、頭が高い、皆の者、控えなさい!」
慌てて、貴族たちが片ひざを立て、頭を下げて跪いた。
「特に控えなくて構いません。公式訪問ではないので、働く人の妨げになることはしないでください」
「かしこまりました」
「私に構わず、ご自分のお仕事を続けてください」
「かしこまりました。御前、失礼致します」
領主一行が通りすぎると、ユリに助言をした店員が尋ねてきた。
「お嬢さん、いったい何者なんだい?」
「本職は、パープル領で、アルストロメリアという、軽食とおやつのお店を経営しています。それと、たまに女王の仕事もします」
「え? 女王陛下!?」
慌てて回りの者が、領主一行がしたように跪こうとするのを、ユリは止めた。
「かしこまらないでください。女王は、お城にいる時と、女王の服を着ている時だけです」
おずおずと顔を上げ、店主である年配の男性が、遠慮ぎみに質問してきた。
「あの、もしや、陶器の木は、女王陛下御用達でございますか?」
古ぼけた置物ではなく、新しいものに取り替えられないかと店主は質問したのだ。
「あー、さっきの陶器の木の置物は、世界樹様の所に持って行ったと思うわ」
「は? ・・・え?・・・あの汚れた置物を、世界樹様に?」
「ええ、幼木のキボウ君が持って行くと言っていたので」
バタンと、話していた店の店主が白目をむいて倒れてしまった。許容範囲を越えてしまったようだ。
ユリが慌てて起こそうとしたが、ユリは小さいので大柄な男性を起こすのは叶わず、ソウが回りの人を呼んで、数人で、寝かせられる場所まで運んだ。休憩用のテントらしい。
「ユメちゃん、私が魔力を注いだら起きるかしら?」
「気を失っただけだと思うにゃ。起きてどこか痛いと言ったら治すと良いにゃ」
「うん」
ユリは心配で、そのままテントに待っていた。
「あの、オヤジさんは大丈夫だと思いますので、どうかお気になさらないでください」
「もう少しだけ」
店員の男の子が、気を使っ声をかけてきたが、ユリは残っていた。
少しすると、店主の年配の男性は気がついたらしく、目の前の店員の男の子を見て話し始めた。
「イヤー、エライ夢見たよ! 女王様と、世界樹様の御使い様が、うちの店に買い物に来たんだよ!」
「オヤジさん、それ夢じゃなくて」
「え?」
ユリが、反対側から声をかける。
「あのー、どこか痛いところはありませんか?」
「え? ・・・女王陛下!?」
振り返り、唖然としていた。
「ユリ・ハナノです」
「ハナノ様と呼ぶと良いにゃ」
ユメが助言した。
「は、は、はい。ハ、ハ、ハナノ様!」
「驚かせるつもりだったわけではないんですが、倒れたときに、どこか打ちませんでしたか?」
「え? あ、そういえば、頭の後ろが」
後頭部がコブになっていたため、横向きに寝かされていた。そのため、反対側のユリに気がつかなかったのだ。
「少しさわります」
ユリは頭の後ろにそっと触れ、治るように願いながら魔力を流した。
「あれ? 痛みが消えた!」
「怪我が治って良かったです」
「確か、新女王様は聖女様だったって、噂で聞いたけど、本当だったんだ・・・」
店員の男の子が呟いた。
「ワシのために、聖女様の治療を!?」
「ユリ、そろそろ行くよ」
「はーい。痛みが出るようだったら連絡してくださいねー」
テントを出るとき、後ろから声が聞こえた。
「ハナノ様、どうもありがとうございます!!」
「はーい」
「ユリ、お腹すいたにゃ」
「ソウ、どこか食べる場所ある?」
「少し離れた温室に行くか」
ソウにつかまって移動し、花を育てている温室に来た。ソウによると、王家の持ち物らしく、勝手に入っても問題ないらしい。
中にはテーブルと椅子があり、お茶を楽しめるようになっていた。
「こんな所が有ったのにゃ」
南国系の花がたくさん咲いている。
「雨でも花が見たい時に良いわね」
「この奥には池があって、睡蓮が咲いていると思うよ」
「食べたら、見に行きましょ」
ユリがサンドイッチを並べると、ご飯以外のお弁当にユメが驚いていた。
「キボウはどうするにゃ?」
「キボウ君には、2人前を渡してあるわ」
用意したのは、食べやすいようにロール状のサンドイッチだ。種類は、ツナマヨ、玉子、ハムとキュウリ、ハムとチーズ、ブルーベリージャムだ。
「どうぞ、ロールイッチよ」
「パンの海苔巻きみたいにゃ!」
「具がこぼれなくて食べやすいな」
「少し多めに作ったから、好きなだけ食べてね」
ユメにものすごく好評で、ユリは、ユメちゃんの時代にはなかったのかしら? と少し不思議に思っていた。
食べ終わったあとは、温室を見学し、家に帰ってきた。
毎日大量の誤字報告、とてもありがたく思っております。
今後とも、どうぞよろしくお願い致します。




