窯元
2月になった。
窯元から手紙が来て、イリスが作った分が出来上がったから、取りに来てほしいと書いてあった。
「明日、水曜日でお休みだから、明日取りに行きましょう!」
「俺が今日取りに行って来ても良いけど、一緒に行く?」
「明日、みんなで行きましょう」
昨日の昼、手紙をもらってそんな話をしたのだ。ちょっとしたピクニック気分で、窯元まで出掛けることにした。
珍しく、サンドイッチのお弁当を作り、ユリが作ったお揃いのカーデガンを着て、ユメが起きてから出発した。
転移すると、先月来たときよりも賑わっていた。何かあるのかとキョロキョロしてみると、掘り出し物市的なものを開催しているようだ。
「こんにちは!ホシミです」
「これはこれは、ホシミ様! よくお越しくださいました。こちらへどうぞ」
ソウが顔見知りらしい人に声をかけると、工房長が待つエリアに案内してくれた。歩いている間キョロキョロ辺りを見ていたが、色々な工房のより集まりのようで、殆どの店が青空市状態だった。
「帰りに少し見たいにゃ」
「みたーい、みたーい」
「よし、帰りに見て回るか」
ユメとキボウが喜んでいるのがわかった。
「ユメちゃん、何か良さそうなものがあったら、先に見に行った方が良いわよ?」
「なら、みんなは先に見に行ってくると良いよ」
ソウが一人で受け取りに行くと言って、ユメとキボウとは、その場で別れた。
「私はソウについて行くわ」
「ユリ、ありがとう」
更に少し歩き、案内の人が「こちらでお待ちください」と言った場所で待っていると、工房長が、一人で現れた。先ほどの案内人と持ち場を交代してきたらしい。
「ホシミ様、お越しくださりありがとうございます。良い人材が多いのですな。羨ましい限りです」
「絵を描いた二人は、母子なんだよ」
工房長は、リラとイリスをとても誉めていた。
ユリは、身内を誉められたことがとても嬉しくて、後でリラとイリスをきちんと誉めようと考えていた。
焼き物が置いてある場所まで移動し、マグカップ5つと、絵皿を受け取った。マグカップは、野菜、ドングリ、花の多い鈴蘭のような植物、アヤメ、そして、マーレイの似顔絵だった。皿には、リラ、マーレイ、イリス、レギュム、クララ、グラン、シィスル、マリーゴールドの似顔絵が描いてあった。
「へえ、クララって、花の多い鈴蘭みたいな感じなんだな」
「間違って食べると、クラクラするほど苦いからクララって言うらしいわよ。基本は毒草ね」
「日本語なんだ、その名前!」
受け取ったカップや皿をソウの鞄にしまった。
「是非とも、またお越しくださいな」
「また何か作りに来るよ!」
「お待ちしておりますでな」
ユリとソウは、ユメとキボウを探すことにした。
『ユリです、どの辺にいますか?』
『ユメにゃ!さっきの別れたそばにいるにゃ!』
「ソウ、ユメちゃんに聞いたら、さっき別れたそばにいるそうよ」
「以心伝心で聞いたのか。人が多いから離れるなよ?」
「はーい」
ユリは、もしも迷子になったら、そのまま家に帰る気でいた。この人混みで誰かを探すなど、背の低いユリには無理である。
「ユリ、手を繋ごう」
「う、うん」
ソウに手を引かれ、ユメとキボウがいるらしい場所に戻ってきた。
「ユメ、見当たらないな」
「あ!あそこにいるわ! キボウ君の帽子が見えるわ!」
チョロチョロと動き回るキボウを、ユメが疲れたように言い聞かせているようだった。
すぐにそばまで歩き、合流した。
「ユメ、お待たせ」
「ソウ、もう受け取ったのにゃ?」
「キボー、ほしいー!」
「キボウ君、何か欲しいの?」
「ユリー、きー、キボー、ほしいー」
キボウが指した先には、陶器でできた、キボウと変わらぬサイズの木の形のオブジェがあった。
「キボウ君、買っても良いけど、どこに置くの?」
「かみさまー!」
「あー、持って行くのね? なら、私が買ってくるわ」
ユリは店に行き、店員の男の子に声をかけた。
「こちらの『木』は、おいくらですか?」
「あ、それ、売り物じゃないんです」
「そうなのですか。注文したら、作ることができますか?」
「ちょっと聞いてきます」
店員は、臨時の店番だったようで、誰かに聞きに行ってしまった。
店員がいなくなり、キボウは心配らしく、珍しく弱気になってユリに聞いてきた。
「ユリー、かえない?」
「まだ分からないわ。買えると良いわね」
店員が、年配の男性をつれ戻ってきた。この店の店主らしい。
「あー、店の看板を買いたいってのはおまえさんか?」
「はい。欲しがっているのは、このキボウ君ですが、お支払は私がします」
「売るのは構わないんだが、これは、かなり汚れているし、古いから、動かせないんだよ」
「配送はこちらでしますので、売っていただけるだけで構いません」
「それで良いなら、1万☆で良いよ」
「どうもありがとうございます」
キボウが心配そうにユリを見ていた。
「ユリー?」
「買えたわよ。良かったわね」
「ユリ、ありがとー! キボー、ありがとしたー!」
「キボウ君、届けたら、家に直接帰ってきてね」
「わかったー」
ユリがお弁当のサンドイッチをキボウに分けると、受け取ったキボウがニコニコと木のオブジェの周りを回っていた。
「売っといて何だけど、どうやって運ぶつもりなんだい?」
「魔法で。うふふ」
「え?」
キボウが、木のオブジェと共に、転移で消えた。
「たまげたー! 魔法は昔話だけだと思っとったわ!」
「近いうちに、みんなが簡単な魔法を使えるようになりますよ。うふふ」
「そうなのか?」
そんな話をしていると、対面から、伴をぞろぞろ引き連れた貴族らしい男性が歩いてきた。
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