送迎
登場すると、この国ではあまり見たことのない民族衣装に、みんなの感嘆の声が漏れる。画家一同が、一心不乱に絵を描いていく。
気を使って、挨拶の後も少し長く立ったまま留まったが、一番速描きらしいフードの画家が描き上げたようなので、席につくことにした。
再び挨拶が始まった。最初の頃よりだいぶ短い持ち時間らしく、お祝いのみを述べ、離れてから感激して震えている人や、おののいている人が多かった。
ちらっと聞こえた声のいくつかに、「ホシミ様の笑顔を初めて見た」というのがあり、ユリも心配したが、同じく聞こえたらしい、実母の 月見エリカが心配しているようだった。ユリの前では比較的何時も笑顔なので、そんなにも何時も怖いと思われているソウが気の毒になり、大丈夫かしらとソウを見てしまった。
「ユリ、どうしたの?」
「何でもないわ。ソウは幸せ?」
「勿論!!」
更に輝かしい笑顔になったソウに、挨拶に来ていた男性陣はうろたえ、給仕やメイドを含む女性たちは失神しかけていた。
この後、イトウとサエキが販売した写真もあり、非公式のソウのファンクラブが結成されるのだった。
予定されていた挨拶が終了し、パウローニア国王からのお祝いの言葉で、「披露宴ぽいもの」は、終了した。
メイプルから、王族代表として書類を渡された。
なんだろうとパラパラと見ると、献上品の一覧だった。食品や花などの生物は、時を止めるタンスモドキにしまってあるらしい。参加者全員が、地元の名産品を持ってきているそうで、時間があるときに引き取りに来てほしいと頼まれた。
メイプルはソウに話があるらしく、みんなから少し離れて内緒話をしていた。
「ソウ、結局、何て言って射止めたんだ?」
「聞いてないのか。・・・ユリから言われた」
「え!! あんなに相談に乗ったのに!!」
メイプルの驚いた声で、全員が振り返った。
「メイプルうるさい!」
「ハナノ様、ソウをよろしくお願いします」
「はい。もちろんです」
「何でメイプルが言うんだよ!」
「ソウは言えないかと思って」
いつもの仕返しらしく、メイプルとソウがじゃれていた。仕事がらみでなければ、仲良しらしい。
「あーもう、引き上げるよ!」
「ソウ、一度家に寄るのにゃ」
すると、遠くから早足で歩き、ユリを呼ぶ人がいた。
「ユリ様ー!」
「あら、リラちゃん。お迎えに来てくれたの? どうやって来たの?」
「最初からずっといました!」
「え?」
ユリは何となく感じていた違和感を思い出した。
速描きしていた画家が、色々不思議だった事を。
「もしかして、フードの画家さん?」
「正解です! 国を回って料理指導したときの報奨で、参加させていただきました!」
「ハイドランジアさんの手配なのね」
「あれ、リラだったのか! だからフード被ってたのか」
「はい! でも回りの人に、すぐばれてしまいました」
「みんな下描きだけしてるのに、色まで塗ったらばれるのにゃ」
絵の具は色々な臭いがするので、普通食事の場では、色までは塗らないのだ。
リラは、ユリから貰った水彩色鉛筆を使っているので、臭いもせず持ち物も軽く、色まで塗っていたのだった。
「全員連れて家まで行けば良いの?」
「キボウが送迎してくれるにゃ」
「つかまってー、つかまってー、リラだっこー」
リラがキボウを抱き上げ、ユリとソウとユメ以外の10人を連れ、転移して行った。それを見て慌ててユリたちも転移した。
家につくと、マーレイとイリスとレギュムとクララとグランが、食事を用意して待っていてくれた。
「作ったのは、シィスルさんとマリーゴールド様なので、安心してお召し上がりください」
イリスの言葉に、少し笑ってしまった。
軽く食事をしたあと、ソウは、家の中を簡単に案内し、衣装のままだと動きにくいと言いながら戻ってきた。
カエンとユメとキボウは着替えたらしく、ユメとキボウはいつもの服、カエンは最初に着ていた和装に戻していた。ユメとキボウの和装は、カエンが用意したものだった。
「ソウビさん、すぐ帰られますか? 少しイトウさんかサエキさんの所に、泊まったりなさいますか?」
「良いのか!? 出来るなら、明日か、明後日 帰りたい」
「いつでも良いですよ。帰る時ここまでお越し下さい。あと、体調不良などがありましたら、早めにお声がけくださいね」
「恩に着る」
「おじさま、おばさま、いえ、お義父様、お義母様、すぐ帰られますか?少しお泊まりになられますか?」
「ものすごく泊まりたいけど、明日仕事があるから今日は帰るよ」
「私も仕事と報告があるのよ。百合ちゃん、うちにも泊まりに来てね」
「はい」
「月見のお義父様、お義母様、すぐ帰られますか?少しお泊まりになられますか?」
「ユリさん、ありがとう。今日は帰ります。また呼んでください」
「ユリさん、今日は帰ります。是非また呼んでください。色々ありがとう」
「はい。必ず」
「カエンちゃんと葉君はどうする?」
「わたくしは帰りますが、タキビ、いえ、葉は泊まって行っても良いのよ?」
「姉上が来るとき、一緒に来たいと思います」
「では、ソウ、一人送ってください。あとの方は、私につかまってください」
ソウは、タキビ改め 葉に話があるらしく、手を引いていた。
月見家にユリが先に転移し、ソウが来る前に部屋を移動して、着替えを始めた。
「若奥様」
「え! あ、はい。慣れないわぁ」
「ソウ様は、凛々しかったですか?」
「はい。とっても。写真を撮っていた人がいるので、出来たら見せに伺いますね」
「まあ! ありがとうございます。カエン様は着替えられたのですか?」
「カエンちゃんは、あちらに行くと名誉国民だから、巫女さんである必要があるみたいです」
「そういう事情なのですね」
脱いだ振り袖は、洗い張りをしてくれるというので、任せた。もう着る機会はないかもしれないけど、大切な振り袖だ。
来るときに着ていたワンピースに着替え、ソウを待っていると、着替えたソウが迎えに来た。
ユリは、いつものように、パウンドケーキをたくさん取りだし、魔力の無い人もいるだろうと、色々なお菓子も取り出した。
洗い張りと、ユメとキボウに借りた振り袖と子供用の紋付き袴と、4人分の着付けの代金として、物納した。その中では、猫型ラスクが一番人気だった。
よくお礼を言って、ソウと二人で家に帰ってきた。




