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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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挨拶

写真のあと、ユリはもう1つのドレス、ピンク色のクラシックドレスに着替えることになった。

地が上品なピンク色で、サテンのような見た目の生地に、金糸の刺繍や宝石が山ほど縫い付けてあり、とても豪華な作りだ。先程よりは少し首元が出るデザインで、袖は肩口で膨らんでいて、いかにもお姫様的なドレスだ。


「ユリ様、先に、軽食をお召し上がりになりませんか?」

「ありがとう」


着替える前にサンドイッチを少しもらい、食べた。髪型を直してもらい、お花詰みを済ませ、ドレスを手早く着せてもらった。


「これも結界強めかしら?」

「はい!是非!」


ユリが呟いたら、ラベンダーと着替えを担当するメイドたちに是非にと請われた。

ダイヤモンドのような透明ぽい石が飾りについていたが、ユリが魔力を込めると虹色に輝き、更にキラキラになった。


「ユリ様、ティアラは必要ないとも思うのですが、冠はどうされますか?」


ユリが指輪をしていたので、ラベンダーは、ネックレスやイヤリングを揃えながらユリに聞いてきた。


「ユグドラシル冠を顕現させた方が良いならするわよ?」

「え! 見せていただけるのですか!?」


回りの目がキラキラとしている。


「見たことない・・・わよね」


戴冠式に女性は殆ど居なかった。ここに居るメンバーだと、ラベンダー以外は居なかったはず。

結った髪の上に、ユグドラシル王冠を顕現させた。


「お辛くはありませんか?」

「特に辛かったり大変だったりは無いわ」

「では、そのまま参りましょう。大変お似合いでございます」


会場に行く前に部屋に寄り、ひっくり返ったらしい鞄を取って来た。

招待客が集まっているという会場前に、ソウが待っていた。

ソウは、金糸の刺繍のある派手な騎士服で、とても似合っている。ユリは自分の衣装より、ソウが似合っていることが嬉しかった。


「ユリ、可愛い。更に可愛くなった!」

「ソウはとても素敵よ」


会場の扉を開けてもらうと、そこにいる招待客は、ざっと1000人というところだ。たぶん端の人は、前に座るユリたちが見えないと思う。


あ!と気がついた。

ユメとキボウが、和装をしている。カエンも先ほどとは違い、装飾の多い巫女服を着ている。


ユリの感覚だと、身内は一番遠い席に座るが、ユメやキボウの(くらい)が高いので、親族一同は、ユリたちから一番近い席に座っていた。次に王族という並びだ。


ラベンダーが、司会のようなことをやっていた。

会場には、食事をしている招待客以外に、給仕や、コーラス隊や、画家が居るようで、常にだれかが動いていた。

ベレー帽のような帽子の画家や、フードを被ったような服装の画家がいて、何ヵ所からか絵を描いているようだった。


「芸術家って、王宮に来ても、フード被ったままなのがいるんだな」

「フードを被っていないと描けない!とか有るのかもしれないわね」

「さすがに、子供は居ないんだな」

「面倒見る人がいる世界は、子連れにならないのね」


そのうち、「おめでとうございます」だけ言う人が挨拶に来だした。本当は長く話したいが、時間が押しているので、一言だけなのだ。


ユリとソウは、予告されていた通り、全く食べる暇がなくなった。ソウも控え室で、着替えの間にサンドイッチを出されて食べてきたらしい。


サエキとイトウは、写真を撮って回っている。視界の端に、イトウがフードの画家と話しているのが見えた。知り合いだったのだろうか? こちらを見て笑っているのが不思議に思え、印象的だった。


イトウが話していた画家が絵を描き上げたらしく、そばにいる人たちから歓声が上がっていた。フードを被ったままなのに、回りから好印象で見られているように見える。

画家なら貴族の屋敷にも出入りするだろうから知り合いが多いのかしら?

他の画家は静かに描いているのに、その画家だけ回りが盛り上がっているように見えた。


挨拶が少し収まり、コーラス隊による、お祝いの歌が披露されていた。


「何か召し上がるのでしたら、この機会にお召し上がりください」


給仕に来たメイドにタイミングを教えられた。

ユリは、見たこと食べたことがない料理を少しずつ食べてみた。少し濃いめの味付けで、やはり食べたことのない味だった。ソウに聞くと、この国のお祝いの定番料理らしい。


ソウは横で、がっつり食べていた。複数回の転移で、だいぶお腹が空いたらしい。


「ソウ、パウンドケーキ食べる?」

「え! 持ってるの?」

「さっき、鞄、持ってきたわ」


ユリは、魔道具の鞄の指輪を見せた。ユリの指には、先程の結婚指輪と、「夢の瞳」のついた婚約指輪もはまっている。


「目立たないように一切れくれる?」

「うん」


テーブルの下でパウンドケーキを一切れ取りだし、ソウに渡した。


「ユリ、ありがとう」

「役に立ってよかったわ」


二人で見つめあって笑っているのを、参加者は静かに見守っていた。


歌が終わると、再び挨拶が始まった。

一組30秒としたって、500組が挨拶すれば4時間以上はかかるのだ。末端に行くほど、時間は短くなっていく。それでも間近でユリとソウを見ることができ、満足らしい。「ご尊顔を拝顔叶いまして恐悦至極に存じます」そう言って、泣き出すご婦人までいた。


再び休憩が入る。

挨拶を中断し、ラベンダーに言われ、会場から退席した。

部屋には、メイプルの娘のカンパニュラが養育係りのシッスルと一緒に待っていた。ユリを一目見たかったらしい。


「ユリ様、皆さんは一時間休憩でございますが、ユリ様は、民族衣装にお着替えいただきたいのですが、お手伝いは必要でございますか?」

「あー、向こうで着付けてもらう約束だから、ちょっと行ってくるわ」

「では、お待ちしております。えーと、ホシミ様のお部屋に行かれますか?」

「案内お願い」

「かしこまりました」


ラフな服に着替え、ラベンダーに道を案内してもらいソウの部屋までつれてきてもらった。


「ソウ、和装に着替えに行くわよー」

「用意できてるよー」


一緒に月見家に転移した。

ソウが声をかけると、美容部隊が現れ、あれよあれよと言う間に、髪を結い直され、ユリがするよりも豪華な感じの帯が結われ、ピシッと美しい着付けに仕上がった。

ユリの知らない帯結びで、聞くと、月見家オリジナルらしい。


「奥様は、御自分で着付けをされるからか、着付けがとてもしやすいです」

「ん? 誰ですか?」

「ソウ様の奥様でいらっしゃいますよね?」

「あー。初めて呼ばれたので、自分のことだと気がつきませんでした。すみません」

「ま! 初々しい!」


ユリは照れてしまった。そこへソウが来たようだ。


「ユリ、入って良い?」

「大丈夫よ」

「どう? おかしくない?」


ソウは、殆ど白っぽい紋付き袴を着ていた。袴が薄いグレーだ。いや、よく見ると、銀色? それでも今日の衣装の中では、一番地味である。


「ちゃんと似合ってるわ! ソウは何時も何着てもカッコ良いわよ」

「ユリ、ありがとう!」

「皆さんありがとうございます! さあ、戻るわよ!」


一緒に城まで転移した。

移動してきたのか、カンパニュラとシッスルは、今度はソウの部屋に待っていた。時間が押していることをわかっているらしく、話しかけては来ないが、ユリとソウの民族衣装を見て喜んでいた。ソウの部屋には、ラベンダーもいて、ユリの到着を待っていたらしい。


「ユリ様、ホシミ様、ご用意はよろしいでしょうか?」

「ユグドラシル冠は、さすがに和装に合わないけど、キラキラはする?」

「是非!」


ラベンダーが食いぎみに即答していた。


「何? キラキラって?」

「カエンちゃんに教えて貰ったんだけど、一番外の白い結界だけ魔力を強めに込めると、朝日を浴びた水面みたいにキラキラ輝くのよ」

「ユリが光ってたのって、衣装の素材とか目の錯覚とかじゃなかったのか!!」


「カエン様が、ユリ様が目立つようにとおっしゃって、ご指導されていらっしゃいました」

「カエンやるなぁ。あとで誉めておこう!」


ユリは再び結界を強めに張り、キラキラを再現した。


「では、会場まで移動致しましょう」

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