川魚
家に戻ってから冬箱の話をした。
「あの箱があるなら、冷たいもの出して良い?」
「大量は止めておいてもらえるかな?」
「あの箱は高価なのかしら?」
「安くはないだろうな。侯爵邸で使うのにあの大きさだっただろ?パープル侯爵は、わりと金持ちなんだよ。それであのサイズならな」
「なるほど。お金持ちでも小さいサイズなのね」
「ま、調べておくからちょっと待ってな」
「うん、おねがいします」
「そういえば、ゼラチンはどうする?」
「こちらで作った方が良いなら、牛や豚の骨や皮を良く洗って、下茹でした後また洗って、きれいな水で長時間煮込んで、上澄みの油と沈殿物を捨てて、何度も濾して、板にして乾燥させたら出来上がるはず」
「お、おう」
「やったことがある訳じゃないから成功するかわかんないけど、臭いがきついから貴族邸では作れないと思うわ。あと、臭み取りのやり方がわからないのと、あ、骨は科学処理が必要だったかもしれない。皮だけが良いかもね」
「何でそんなこと知ってるの?」
「作ってみようと思ったことがあるからよ。やらなかったけどね」
「なんで?」
「臭いらしいって読んだからよ」
「なるほど」
「今度の休みはこちらに来るんだよね?」
「そのはずよ」
「何作るの?」
「どうしましょう。ソウ、何が良いかしら?」
「今まで出して評判が良かった料理にすれば?」
「ご飯ものより、パンの方が出る、かな?」
「えーユリの料理じゃないじゃん!」
「ハンバーグと、グラタンと、プリンかしら?」
「それなら良いと思うよ」
「そういえば、一度聞こうと思ってたんだけど、海の魚は手に入らないの?」
「ここは、海がないからね」
「陸の真ん中なのね」
「そういう意味じゃなく、海には行けないんだよ」
「???」
「ここは結界で囲まれているから海には出られないんだ」
「そうなの?」
「俺以外はね」
お魚が食べられないなんて、予想外だったわ!とユリは考え込んでいた。
「川魚はあるよ。あまり、いや誰も食べないけど」
「鮭は?イクラは?お魚は遡上しないの?」
「俺が結界を張った訳じゃないから詳しいことはわかんないけど、調べておくよ」
「遡上するにゃ」
「え?」
「お魚のぼってくるにゃ」
「ユメちゃん、鮭知ってる?」
「知ってるにゃ」
「どこに行けば居るの?」
「ソウと会った場所の近くにゃ」
「ああ、そういえば大きな川があったな」
「今はまだ居ないにゃ。秋まで待つにゃ」
「うん、ユメちゃんありがとう!」
ユリは輝くような笑顔でユメにお礼を言った。
クロネコのユメ
第3部分 夢の菓子
掲載日:2021年 07月06日 13時00分
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