要望
城につくと、すぐにキボウがやって来た。
「ユリー、おいしかったー!」
「クレーンシュー?」
「それー」
「それは良かったわ。ユメちゃんは一緒じゃないの?」
慌てた様子で誰か来た。
「失礼します! ユリ様、素敵なお菓子をありがとうございます。ユメ様は、王妃様と歓談されていらっしゃいます」
シッスルだった。走り出したキボウを追って来たらしい。
「シッスルさん、いつもありがとうね。やっと違うお菓子が持ってこられたわ」
「食べるのが勿体ない素敵なお菓子でした! プラタナス様も、カンパニュラ様も、とてもお喜びでございました!」
「それは、良かったわ」
話している間に、誰かが呼びに行ったのか、ユメと王妃と第三王女がやって来た。
「ユリ、プラ板焼いてにゃ」
「あら、プラ板作っていたの?」
「まだ途中なのにゃ」
「なら、出来ているものだけちょっと焼いてくるわ」
キボウとプラタナスとカンパニュラとシッスルが作ったネームプレートと、王妃たちが作った、出来ている花を預かり、一旦家に戻った。
ネームプレートは平らに焼き、花は、焼いてから計量スプーンで丸みを持たせて冷ました。
新しいプラ板、丸カン、キーホルダー金具、根付け金具、ヘアピン金具、バレッタ金具、かんざし金具、接着剤、ワイヤー、ニッパー、ペンチ、各種パンチ、本などを持ち、再び城に戻った。
ネームプレート組にはシッスルを通して金具を選んでもらい、ユリが取り付けた。ペンチなどの器具を見て、さわりたがると危ないので、目の届かない場所で仕上げてから渡すことになったのだ。出来上がりを見ていたアネモネが、子供の作品に感激しているのが印象的だった。
ユメが慣れてきたのか、葉っぱの飾りがとても素敵にできていた。
細工ものを作った王妃たちは、思ったより色が濃いことに驚いたようで、ユメの葉っぱの飾りの色を見て、塗るべき濃さを理解したらしい。
「どの金具を使いますか?」
「もう少し花を作ってもよろしいでしょうか?」
「はいどうぞ。追加のプラ板も、持ってきましたよ」
ユリは下絵用の画像集も持ってきていた。
「こういう、絵をなぞって、黒い油性ペンで、アゲハ蝶を描きます。空いている場所に好きな色を色鉛筆で塗ると、オリジナルな蝶々の飾りが作れます」
ユリが作って見せた蝶々の出来に、感嘆の声が漏れた。
「黄色いペンで線を書いて、出来上がってから、加工すると、金糸のような出来上がりにすることもできます。絵が苦手なら、見本を写せば良いのです」
「ユリ様、揃った小さいお花は、どのようにして作るのですか?」
「ハサミで切り抜いても良いのですが、花型のパンチで作ると量産できます」
一通り説明し、小花を量産した王妃たちは、満足したのか焼いて欲しいと言い出した。
丸みはつけなくて良いというので、店に戻ってきたユリは、天板にクッキングシートを敷いて いっぺんに焼いた。
ユメも手伝いについてきた。
「まるでクッキーみたいにゃ」
「そうね。クッキーそっくりな物も作りましょうか? お土産に売れるかもしれないわね。うふふ」
「リラに言ったら、すぐ作りそうにゃ」
「色の入れ替えができないから、クッキーより大変かもしれないわね」
「リラが作ってるクッキーの大きさに作るには、プラ板はどのくらい大きいのにゃ?」
「プラ板の大きさ? そうね。切らないものを半分~2/3くらい、正方形にしたくらいかしら?」
「結構大きいにゃ」
「本物のサイズにする必要はないわ。キーホルダーとしては大きすぎるものね」
「なるほどにゃー」
オーブンの中の縮んだプラ板が落ち着いてきた。
「あ、そろそろ良さそうね」
「平らになったにゃ」
「冷たい天板に変えて冷やしたあと、持っていきましょう」
オーブンシートごと移動させ、冷やした。
城に戻り仕上げを説明し、ハイドランジア、アネモネ、サンダーソニアは、オリジナルアクセサリーを完成させた。
公務の合間なのか、メイプルが顔を出しに来た。
出来上がったアクセサリーを見て驚いたあと、ユリに願い出た。
「ハナノ様、お願いがございます」
「はい。なんですか?」
「チョコレートの味のクッキーやお菓子をお作りください」
「あ、持って行く分ですね。わかりました。思い付いたものがあったらリクエストしてくださいね。リクエストがあった方が作りやすいです」
すると、キボウに手を引かれた見慣れない女児がユリのそばに来た。緊張しているのか、表情が固い。
「ユリ・ハナノさま、わたしは、カンパニュラでございます。鳥のおかし、とてもおいしかったです。わたしが小さいころに、びょうきをなおしてくれて、ありがとうございました!」
この子がカンパニュラ、あの治療をした赤ちゃんだった子供なのね!と、ユリは時の経過を実感した。
「カンパニュラちゃん、『ユリ』で良いわ。あなたも食べたいお菓子があったらリクエストしてね」
「ユリさま、わたしは せかいじゅさまのおうちにはいきませんが、作ってくださるのですか?」
「勿論よ! お留守番する間、ユメちゃんと一緒にお菓子を持って遊びに来るからね」
「ユリさま、ありがとうございます」
カンパニュラが、子供らしい笑顔で笑った。
「明日からお店の仕事をするので、あまり来なくなると思いますが、又来るときには、なにかお菓子を持ってきますからね。あ、販売や喫茶は、明後日からの予定です」
みんなに挨拶をして、ユメとキボウをつれ、家に戻ってきた。




