縫物
城から戻り、みんなでお昼ご飯を食べたあと、昨日約束した針仕事を教えることになった。
ユメが試しに縫ったと言う袋(?)は、縫い目が荒く、布同士がかなりずれてしまっていた。
「まったくできなかったにゃ」
「そうでもないわ。初めてなんでしょ? 針に糸を通せただけでもすごいわよ。私が初めて縫ったときは、糸は通してもらって、その上で、これよりもっとずっと酷かったわよ」
「練習したらユリみたいに上手になるのにゃ?」
「ユメちゃん、私が手縫いしたものは見たことがないでしょ? エプロンはミシンで作ったし、カーデガンは編み機だし、私も手縫いはそんなに上手ではないわよ?」
「にゃ! そうなのにゃ?」
「母がね、裁縫がプロ級に上手だったのよ。それで、上手過ぎて、絶対敵わないのが悔しくて、小学校に入る前にミシン覚えちゃったから、いまだに手縫いはあまり上手くないのよね。うふふ」
「ユリ、負けず嫌いだったのにゃ?」
「そうかもしれないわね。私の技術レベルは大したことないけど、知っていることは教えるわね」
「頼むのにゃ!」
ユメから話を聞いて、最大の原因は、長糸だとわかった。
「昔から『下手の長糸上手の小糸』とか『下手の長糸上手のまち針』とか言ってね、長すぎる糸は絡まったり引っ掛かったり、上手に出来ないのよ。ほどほどの長さにして、仕付けやまち針を使うのが良いわ」
「しつけってなんにゃ?」
「仕付け糸という、すぐに切れる糸で、仮縫いに使うのよ」
ユリは裁縫道具の中から、糸の束を持ってきた。
「これは、東京糸といって、普通の縫い糸」
白と黒の糸を見せた。
「こちらは、糸の撚りが緩い、仕付け糸」
生成色、桃色、黄色、水色の糸を見せた。
「この仕付け糸で、大まかに縫ってから、普通の糸で綺麗な目で縫うと、出来上がりがきれいになるのよ」
「なんでいっぱい色があるのにゃ?」
「例えば、いずれかで仮縫いして、もう少し大きくとか小さくとか変更するときに、違う色で縫えば、取り除くときに間違えないでしょ?」
「なるほどにゃー」
「普段は、まち針に刺さるのが嫌で仮押さえで適当に縫ってるから、そんな繊細な使い方は実際したことないけどね。主にミシンで縫う前に、仮押さえを仕付け糸で縫っているわ」
「ミシンの方が簡単なのにゃ?」
「まっすぐを大量に縫うならミシンが楽よ。細かいものを縫うなら手縫いの方が良いかな」
ユメはミシンを見つめていた。
「他にはコツはあるにゃ?」
「型紙をしっかり布に写すことかな。チャコや、チャコペンや、消えるマーカーで書くと良いわよ」
「そんなのがあるのにゃ」
「ミシンが使いたいなら教えるわよ」
「良いのにゃ!」
「ミシン出すから、端切れを出しておいてくれる?」
「わかったにゃ!」
ユリがミシンをセットし、糸をかけるだけにした。
「糸かけを覚えてね」
「頑張るにゃ!」
「番号の通りだから、間違いようはないけど、間違えると動きません」
ユリが糸をかけるのをユメはじっと見つめていた。
「大丈夫そう?」
「大丈夫そうにゃ!」
「一度外すから、かけてみてね」
ユリは、さっと糸を引き抜いた。
ユメはしっかり糸をかけられた。
「大丈夫そうね。次は下糸よ。これは、ボビン、これがボビンケース、この中にはめて、ミシンにセットします」
ボビンケースにボビンをはめて、ミシンにセットして見せた。
「そうしたら、ミシンを手で回して、下糸を出します。糸が上下揃ったら、縫い始められます。さあ、やってみて」
ユリは、ボビンケースを外しユメに渡した。
下糸も問題なくユメはセットした。
「ミシンのセットができたので、まずは端切れで糸の調子を見ます」
少し動かし縫って見せた。
「凄いにゃ! 最新にゃ!」
「これでも、かなり旧型なのよ。おばあちゃんのミシンなの。持ってくるつもりはなかったのに、捨てられなくて、間違って送る荷物に紛れちゃってたのよ」
「間違っても紛れてよかったのにゃ」
「本当にそうね。それでね。縫ってみた糸を見て、上糸と下糸の強さが釣り合うように、ここで調整します。ここまで覚えれば、およそ出来ると思うわ。下糸がなくなったら、また教えるわね」
ユリは調整を教えながらユメに席を譲った。
ユメは、ユリがいるうちに試し縫いをして、使えることを確認した。
「まち針で押さえるか、仕付け糸で大まかに縫ってからミシンで縫うと、失敗しないわよ。おすすめは、仕付け糸よ」
「ユリ、ありがとにゃ!」
「布は、どれを使っても良いけど、厚すぎるのと薄いのは扱いにくいからね。頑張ってね」
夕飯まで、ユメの自由にさせることにした。
「ユメは何か作れそうか?」
「ミシン教えたから、何かは作れると思うわよ」
「へぇ」
ソウが心配して聞いてきた。
「ご飯でも作りましょうか」
「そうだな」




