鰹節
「ねぇキボウ君、メイプルさんたちは、どんなものを食べたら良いの?」
「わかんなーい」
「聞き方を変えるわね。世界樹の森でお肉を食べても良いの?」
「おにくなーい。きのみー!」
「卵と牛乳は良いのよね?」
「あたりー!」
「今、キボウ君が食べているような食事にすれば良いの?」
「あたりー!」
「ソウ、大豆ミートと七輪用意できる?」
「大豆ミートは、どのくらい要るんだ?」
「一度に持ち込むのが無理なら、毎月届けたら良いと思うのよ」
「おかあさま、つくるー。ほんあるー」
「ん? 私の前世らしいリスさんが書いたレシピがあるの?」
「あたりー!」
「材料を持ち込まなくても何かあって、レシピもあって、調理する場所もあるのね?」
「あるよー」
「嗜好品だけ持ち込めば良いのよね?」
「パウンドケーキー!」
教えるのは、大豆ミートの加工のしかただけかしら?
「油を使って揚げ物作れそう?」
「おかあさま、つくったー!」
「揚げ物作っていたことがあったの?」
「あたりー!」
「卵と牛乳は、持っていくのよね?」
「あるよー」
「えーと。リスさんが生きていたのって、300年以上前よね?」
「たまごのきー! ぎゅうにゅうのきー!」
「卵と牛乳は木に生るの!?」
「あたりー!」
ユリは、どうしようと焦った。
「えーと、キボウ君、私が今作っているお菓子の卵や牛乳は、鶏が産んだ卵と、牛から搾った牛乳なんだけど、食べて大丈夫だった?」
「だいじょーぶー」
「もしかして、魚の出汁も使って平気?」
「いーよー!」
「お肉とお魚を食べないだけで、お肉の皮や骨から抽出した成分は? ゼラチンっていう、お菓子を固める成分なんだけど」
「だいじょーぶー」
ユリは心の中で崩れ落ちた。必死の苦労はなんだったんだろう。
「キボウ君が食べられるものは、持ち込んで食べても大丈夫よね?」
「あたりー!」
「パンとかは有るの?」
「パンのきー!」
「それって、クワ科パンノキ属のパンノキではなく、パンが生る木って意味よね?」
「わかんなーい」
とりあえず、食材の調達はどうにかなるようだ。
地形の都合で魚を食べないらしい民族なので、肉だけなんとかすれば大丈夫そうである。
指導の方向性が見えて、ユリは安堵した。
「疲れたにゃ」
ユメが部屋から出てきた。
「お疲れ様ー」
「ユメ、何かできたか?」
「全然形にならないにゃ。ユリ、縫い方教えてにゃ」
「はーい。明日にする?」
「お願いするにゃ」
ソウに頼んで持ってきて貰ったホットプレートをセットした。
「お好み焼きを作ります。自分で焼いてみたい人ー!」
「焼きたいにゃ!」
「キボー、やくー、キボー、やくー、」
「焼いてもらいたい人ー」
「俺の分は頼む」
ユメとキボウに、生地を小分けしたボールと返しベラを渡し、ソウには、もんじゃベラを渡した。
「混ぜちゃうタイプを作るなら、ここで生地を混ぜます。生地とキャベツを別々にするなら、混ぜずに生地から焼きます」
「両方作ってみたいにゃ」
「なら、先に生地を半分使って、二回作ればいかが?」
「そうするにゃ!」
ユリは、刻みキャベツ、豚バラ薄切り肉、烏賊、餅、チーズ、茹でジャガイモ、キムチ、生卵、揚げ玉(天かす)、明太子などを並べた。
「中に入れたいものを決めてね」
「キボーは? キボーは?」
「キボウ君は、餅、チーズ、ポテトがおすすめよ。辛いの平気なら、キムチもあるわよ」
「俺ー、豚玉ー!」
「ソウのは何にゃ?」
「豚ばら肉と玉子が入ったタイプね」
「ユリのは何作るにゃ?」
「私は、烏賊と玉子と豚肉を入れるわ」
「俺も烏賊入れるー!」
「ユメちゃんは、生地の4割り程度を鉄板に流します。丸く広げて、上にキャベツと、乗せたい具をのせていきます。具の上から1割りの生地をかけてほどよく焼けたら、ヘラ2枚を使ってひっくり返します」
キボウはユメを真似て半分作っていた。
ユリは、自分の分の予定で、すでに一枚分をフライパンで焼いている。
「ユメ、もうひっくり返せるぞ」
「キボーは? キボーは?」
「キボウのももう良いぞ」
小さく作っていたので、二人ともひっくり返せたようだ。
「ソウ、できたわよ」
「早いな。ありがとう」
「ユメちゃん、焼けたらお皿にとって、ソースとマヨネーズと鰹節と青のりを好きなだけ使って、食べてください」
「キボーは? キボーは?」
「鰹節はお魚だけど、どうする? ソースとマヨネーズと青のりは大丈夫よ」
キボウは、鰹節を少しだけかけていた。
「美味しいにゃ!」
「ユメの美味しそうだな。初めて作ったんだろ? 上手だったな」
「ユメちゃん、本当、きれいにできているわね。残りはキャベツを混ぜて、焼いておいたら良いわよ。キボウ君も頑張ったわね」
「キボー、がんばったー!」
ユメとキボウは、具を混ぜて残りを焼きながら、今焼いた分を食べ始めた。自分で作ったお好み焼きはとても美味しいらしく、二人ともニコニコしながら食べていた。
ユリは自分の分をフライパンで焼きながら、飲み物を用意していた。
ソウが食べながらホットプレートを見てくれるので、ユリは自分の分に集中して作ることができた。
ユリの分が焼き上がる頃にはソウは食べ終わり、おかわり分を自分で焼いていた。明太餅チーズらしい。
ユメとキボウは、半分だけおかわりすると言い、ソウの真似をして、ユメは明太餅チーズを、キボウは、キムチ餅チーズを作っていた。
食べ終わると、食べすぎたー!と、ソウとユメとキボウが言っていた。
ユリはデザートに、ドラゴンフルーツとパイナップルを切り、みんなに提供した。
食事のあとは、簡単な料理や、夏板だけで作ることが出来る料理をまとめたノートを作った。




