牡蛎
「ユメちゃん寝ちゃったから、どうしようかしら」
「キボー、ユメみるー、キボー、ユメみるー」
「キボウ君、ユメちゃん見ていてくれるの?」
「あたりー!」
「まだ19時くらいだな。なにか予定有る?」
「お稲荷さんを作るのと、保存している牡蛎をフライにしたいなぁと思ってるわ」
「それ手伝うよ。キボウ、ユメを頼んだぞ」
「わかったー」
ユリはソウと一緒に、寝るユメにうるさくならないようにと、2階のキッチンではなく店の厨房で、稲荷寿司とカキフライの準備をし、雑煮を作りながら、ユメの事を話した。
「カエンちゃんによると、ユメちゃんの記憶は、一気になくなる訳じゃなく、だんだん失われるそうよ。私たち二人の事は最後まで覚えているけど、最後の頃には、カエンちゃんの事はわからなくなるって言っていたわ」
「付き合いの長さか?」
「そうみたい」
「すると、マーレイの事はわかるけど、イリスやリラの事はわからなくなるかもしれないのか」
「そうかもしれないわね」
ユメが一番認識するリラは、13歳の頃のリラではないかと思われる。
雑煮が煮るだけになり、カキフライに衣がついた頃、炊飯器のご飯が炊けた。
「ユリ、ご飯炊けたぞ」
「ボールにあけるわ」
「どうやって揚げに詰めるんだ?」
「ご飯の方を長細いおにぎりにしてから、入れるのよ」
油揚げを煮た出汁をご飯に合え、いりごまを加えてから、ちょうど良い大きさにまとめた。
「俺が詰めておくよ」
「ありがとう。お願いするわ」
稲荷寿司をソウに頼み、フライを揚げ始めた。
先に味をつけた大豆ミートのフライを作り、次にカキフライを揚げる。
ある程度揚がったら、皿に乗せ鞄にしまっていき、全て揚げ終わる頃、ソウの稲荷寿司も出来上がった。
「ソウ、カキフライ少し食べてみる?」
「食べる食べる!」
ソウにカキフライを提供し、ユリは片付けを始めた。
「カキフライ旨いな!」
「それは、良かったわ」
「他で食べるカキフライと何が違うんだ?」
「衣の厚みじゃないかしら?」
「衣の厚み?」
「商業的に作るフライって、小麦粉、卵、パン粉、じゃなくて、小麦粉を溶いたもの、パン粉、の衣で作るから衣が分厚いのよね」
「手間の問題なのか」
「私は衣が薄い方が好きだから、好みの問題じゃない?」
「俺もこっちが良いな!」
「好みが一緒で良かったわ」
雑煮以外を鞄にしまい、稲荷寿司は、半分をソウの鞄にしまった。
「カキフライも貰ったらダメ?」
「構わないけど、みんなで食べる頃に飽きちゃうわよ?」
「なら、少しで良いよ!」
ソウは、諦めないらしい。
ユリは仕方なく、ソウにカキフライも少し渡した。
「なら、5個ね」
「ありがとう!」
「あとは、屋根に上がるなら、温かい服装が良いわよね。ユメちゃんが羽織るものを用意しておくわ」
「そうだな。俺は屋根を見てくるよ。ソーラーシステムも乗ってるから、上がりやすい場所を見繕っておくよ」
「あ、そうよね。上がれないかもしれない?」
「三角の屋根じゃないから、大丈夫だよ」
ユリは何となく、三角屋根の天辺に、みんなで跨いで並んでいる絵を思い描いていた。
そういえば、屋根がどうなっているかなんて、考えたことがなかったと思い至った。どうやら屋根は平ららしいと聞き、一人で安堵した。
転移前サーチをすれば、見えるのだが、ユリは思い付かなかった。
部屋に戻り、綿入り半纏を用意した。
そういえば、キボウの服はどうしようとキボウを探すと、リビングでコロコロと転がっていた。
「キボウ君、何してるの?」
「あそんでるー!」
「そ、そう。キボウ君、屋根に上ると寒いと思うんだけど、どんなものなら着る?」
「さむい? キボー、さむい?」
「寒いの平気だったりする?」
「あたりー!」
もしかして帽子とカーデガンは余計だったのかしら?とユリは心配したのだが、キボウは、ユリに貰った帽子とカーデガンがあるから大丈夫と言いたかったようだ。
「ユリ、屋根見てきたよ。東側にちょうど良い空間があるからそこで見よう」
「キボウ君が落ちたりしない?」
「ソーラーシステムが外から見えないように、70cmくらいの壁に囲まれているから、大丈夫だよ」
東側は店の入り口があるため、少し空間を開けてソーラーシステムを設置したのだ。
「寺がないから除夜の鐘もないし、明日のためにそろそろ寝るか」
「あ! そうね。除夜の鐘、無いのよね」
「明日は、6時半までに起きてくれ」
「はーい。おやすみなさーい」
「おやすみ」




