蕎麦
「ただいまー」
「お帰りなさい」
「届けてきたよー」
「ありがとう」
「どうぞしたー!」
キボウはユリに木の実を渡してきた。
ユリの魔力を回復させた、あの木の実だ。
「お返しらしいよ。それ」
「私がもらって良いの?」
「ユリのー」
「どうもありがとう」
その木の実を受けとると、又、木の実を出してきた。
ありがとうと受けとると更にもう一つ。そしてキボウは合計10個出してきた。
ソウもおどろいていたが、全てユリのだとキボウが言った。
「ユリの全回復の手段がないんだから、ありがたく受け取っておきなよ」
「うん。ありがとう」
ソウは、キボウと一緒に、世界樹様のところに、おせち料理を届けに行ってきたのだ。
本来、明日行くべきかもしれないけれど、明日行けば、又、一月帰ることができない可能性もあることを考慮し、キボウに相談した結果、31日のうちにキボウに届けてもらったのだ。
キボウは、すぐいく!と、新年にこだわらなかった。ソウがついていったのは、おせち料理を運ぶためだ。
「マシュマロできた?」
「できたわよ。普通のと、フレーバータイプと。でも、ゼラチン抜きはまだ考え中よ」
「難しそう?」
「そのまま食べるだけのものなら、アガーか葛粉かペクチンで作れそうだけど、ココアに入れるとなると、どれも溶けないと思うのよね」
「溶けるかどうかが焦点なら、そのまま食べるお菓子と、ホットココア用を別に考えたらどうだ?」
「!? その発想はなかったわ。ありがとう。ココア用には、メレンゲ菓子で良いわね!」
ユリは早速、メレンゲ菓子を仕込み、丸口金で丸く絞りだし、低温のオーブンで焼いて仕上げた。
焼成には時間がかかるので、その間にアガーを使って、そのまま食べる用のマシュマロも作った。
「さあ、あとはお蕎麦を。ソウは、お蕎麦に何があれば良い?」
「天ぷらか、お揚げが欲しいかな」
「油揚げ買いに行ってこようかしら」
「買い物なら行ってくるよ?」
「そう? なら、油揚げと、天ぷらにしてほしいものを買ってきてもらえる?」
「了解」
ソウが買い物に行ったので、ユリは、鰹出汁と昆布出汁の二種類を作って冷まし、日本蕎麦を茹で、鞄にしまった。
天ぷら鍋に油を張り、ボールに水と卵を溶き、小麦粉とベーキングパウダーを用意して、ソウの帰りを待った。
小麦粉にベーキングパウダーを混ぜ振るっていると、ソウが帰ってきた。
「お待たせー」
「お帰りなさーい」
ソウは、油揚げの他、鶏笹身と竹輪と大豆ミートを買ってきた。
ユリは、家に有るカボチャと蓮根と椎茸も用意し、先にお揚げを煮てから、天ぷらを始めた。
卵と水を溶いたものの中に氷を加え、ベーキングパウダーを混ぜた小麦粉を軽く溶き混ぜた。
「粉混ざりきらなくて良いの?」
「混ぜすぎない感じが、天ぷらが軽くできるのよ。ここで混ぜすぎると、衣が重くなるのよ」
「へぇー」
覗き込んだソウが、不思議そうに聞いてきた。
お店で天ぷらを出さないので、ユリが作るのをソウは見たことがなかったらしい。
以前、にんじんの葉を天ぷらにしたものを作ったとき、ソウは揚げる所は見なかったのだ。
かき揚げは混ぜてしまうので、少し作り方が違う。
先に野菜類を揚げ、次に大豆ミートの味付けしたものを揚げ、最後にとり天と竹輪を揚げた。
一度鞄にしまい、ユメとキボウを呼んできた。
まだ大分時間は早いが、ユメが早く寝る予定なので、夕飯を早めにしたのだ。
「年越し蕎麦を食べようと思います。温かい蕎麦か、天ざるか選べます」
「俺、天ざるが良い!」
「天ざる食べるにゃ」
「わかんなーい」
「全員天ざるにしましょう」
ユリは、竹製のミニザルに蕎麦を盛り付け、蕎麦用の冷たい汁と、天ぷら用の温かいだし汁を用意した。
「井桁というか、蒸籠というか、蕎麦用の簾の台がないので、竹のザルにいれました」
天ぷらは別盛りで皿に盛り付け、品数を同じにしたキボウ用も作った。
「さあ、食べましょう」
「キボー同じ?」
「キボウ君が食べられるように作ったわよ」
「キボーたべる!」
食べても良いのかキボウが確認してきた。ソウが、大豆ミートを買ってきてくれたので、鶏天と竹輪に似た形になるように、ユリが揚げたのだ。
「天ぷら、凄いにゃ!」
「あら? ユメちゃん、天ぷら食べたことなかった?」
「かき揚げだけにゃ」
「うわ、ユリの天ぷら、凄く旨い!」
「おいしー、おいしー」
「みんな、ありがと」
年越し蕎麦だから、メインは蕎麦のはずだけど、みんな天ぷらばかり食べていた。
「ユリ、キボウのは何なのにゃ?」
「大豆ミートといって、大豆の加工食品よ」
「見た目、お肉みたいにゃ」
「味や食感も、お肉みたいなのよ。食べてみたいなら有るわよ」
「食べてみるにゃ!」
ユリは全員に、少し小さめの大豆ミートの味つき天ぷらを追加した。
「知らなかったら、何かのお肉みたいにゃ」
「そうね。形状によって色々使えるのよ」
「ユリ、油揚げ使わなかったな」
「あとで、お稲荷さんにして置くから、夜、小腹が空いた時にでも食べたら良いわ」
「お稲荷さんか! ありがとう」
蕎麦が食べ終わると、ユメが寝ると言うまで、みんなでトランプで遊んだ。




