陶芸
「動きやすい服装に着替えたかー!」
「はーい」「きがえたー、きがえたー」
「汚れても良い服は持ったかー!」
「はーい」「もったー、もったー」
リビングで騒いでいたらユメが起きてきた。
「二人ともなにやってるのにゃ? キボウまで加わって、漫才の練習にゃ?」
「ユメ、起きたか! 出掛けるぞ!」
「わかったにゃ。動きやすい服に変えてくるにゃ」
「着替えは用意してあるわよー」
「ありがとにゃー」
ユメが着替えに行ったので、もう一度、持ち物チェックをした。
昨日、ユメが寝てしまったあとで、プラバンが楽しかったとキボウが言い、ユメも楽しそうだったという話になった。
ならば、なにか作る体験をしに行こうと相談し、ソウが以前から誘われていた陶芸をしに行こうと決まったのだ。
朝から餅を届けに行き、するべき用事は全て終わらせ、ユメが起きるのを待っていたのだ。
作ったものを焼くのは、正月明けてからにはなるが、どうせ乾かす期間があるので、今作っても問題がないらしい。仕事はほとんど片付いていて、今ならむしろ職人さんの邪魔にならずに、ゆっくり作れるそうだ。
絵付けだけのものと、土から形を作るものと、どちらもできるらしい。
「お待たせなのにゃー。どこに行くのにゃ?」
「陶芸教室よ」
「お皿作るのにゃ?」
「好きなものつくって良いわよ」
「リラは呼ばないのにゃ?」
「呼んでも良いわよ」
ユメは、少し立ち止まって片手で頭を押さえていた。
「すぐ来るにゃ」
「以心伝心送ったのか!」
「お店の外に行くのにゃ」
「ユリ、リラを頼んだ」
「はーい」
体重的にはソウ(約65kg)が、リラ(約55kg)を担当したほうが良いのだが、ソウは女性と二人きりになりたくないらしい。13歳だった以前のリラならともかく、今のリラは立派な大人の女性だ。
ちなみにユリは45kgくらいで、ユメは22kgくらいで、キボウは10kg以下だ。
普通の「転移」は、30kmを越える場合、術者と同等の重さまで。という重量制限があるが、ユリには制限がない。世界樹様が、ユリの魔力を倍にしたときに、色々特典をつけたのだ。
ユリの転移は、城に有る転移陣と同じ方式で、1kg増えると10p余計に魔力がかかるだけで距離の制限はない。
ユリ以外が自身の体重より重いものを持って転移すると、約30kmごとに落ちるのだ。
外に行くと、息を切らしたリラが、慌てて走ってくるのが見えた。
「そんなに急がなくて大丈夫よー!」
「お誘いくださりありがとうございます!!」
「忙しかったんじゃないの? 大丈夫?」
「大丈夫です! 年末の掃除もとっくに終わらせたし、今日は、やることなくて何か新しいメニューでも考えようかと思っていました」
「忘れ物無い? 汚れても良い服持ってきた?」
「完璧です!」
「じゃあ、行くわよ」
ユリはリラの肩に手を置き、転移した。
先に来ていたソウとユメとキボウに合流した。
「ユメちゃん、ありがとうございます!」
「私もついてきたのにゃ。お礼はユリとソウに言うのにゃ」
「ホシミ様、ありがとうございます」
「あはは、むしろリラが指導するようかもな」
「キボーは?、キボーは?」
「キボウ様、ありがとうございます」
「よかったねー」
「はい!」
あまり人がいないので、目的地のすぐそばに転移しているため、歩いてすぐだった。
「ホシミです」
ソウが呼び掛けると、数人が出てきて歓迎してくれた。
「やっと来てくださいましたか!」
「どのかたが奥方様ですか?」
「絵を描かれますか? 器を作られますか?」
「いらっしゃいませ!」
ほとんど一度にしゃべっていた。
「絵付けも器も希望するよ。えーと完全な初心者は、 みんな何か作ったことはあるか?」
「学校の授業で土鈴を作ったくらいだわ」
「ないにゃ」
「なーい、なーい」
「ないです!」
「この三人に誰かついてくれ、俺とユリは勝手に作るよ」
汚れても良い服を上からかぶり、準備完了だ。
ユメとキボウとリラに教える人がついてくれた。
ユリとソウは簡単な説明を聞き、ろくろで好きな器を作ることになった。
ソウは蕎麦チョコのような、バケツ型の器を作っていた。
ユリは、壺型の器を作り、余った粘土を紐にして、器の壁面に何か細工を施していた。
「ユリ、なにやってるの?」
「うふふ」
ユリが見せた壺の壁面に、平仮名の「る」のような飾りがついていた。
「なに?」
「るつぼ。うふふふふ」
「あ、うん。わからないけど、何か面白いものだということはわかった」
「ユリがギャグに走ったにゃ」
「あー、これギャグなのか」
坩堝とは、金属を溶かす容器で、熱狂的な様子を表すのに使うことばでもある。
キボウは土鈴を作り、ユメは置物のペンギンと小さな魚を作っていた。
リラはろくろに挑戦し、薄く作りすぎて崩壊させていた。
土鈴は、先に丸めた中の玉を作っておき、それに要らない紙を巻き、しっかり紙を丸めて、その上に粘土を張り付けて持ち手と口を作り乾かすのだ。
焼けば紙は燃えるので、陶器の鈴が出来上がる。
ユメの置物は、紙でできた張り子の上から粘土を乗せ、好きな形に仕上げるものだ。
ユメはペンギンを作りたかったようだが、この国の人には伝わらず、太った鳥らしきものと認識されたらしい。結構上手だったのに気の毒だ。
リラはユリの真似をしてろくろを回したが、薄くしすぎて ぐにゃんと崩れてしまい、作り直している最中だ。
「絵付けは何にしますか? 皿、カップ、花瓶が選べます」
「俺はカップで」
「私もカップにしようかしら」
「カップが良いにゃ」
「カップ、カップ」
「皆さんカップなんですか!?」
「リラ、両方作っても良いぞ。絵付けは得意だろ?」
「私も両方作ろうかしら」
「両方作るにゃ」
「りょうほう、りょうほう」
ソウ以外、両方作ることになった。花瓶の希望者はいないらしい。
リラがソウのところにいって、何か交渉していた。
「悪いけど、もう一つ頼むよ」
ソウの言葉だけが聞こえた。
何故かリラは、皿を5枚受け取っていた。
そして、一人で離れた机に行って描いていた。
「むずかしいなぁ。思ったように描けないもんだな」
「筆だから難しいわよね」
「焼いたら何色になるにゃ?」
「青だと思うわ」
「青猫にゃ」
「あおねこー、あおねこー」
「キボウの絵も青にゃ」
「あおキボー、あおキボー」
リラはこちらに持ってこずに、描き上がりをそのまま工房の人に渡していた。
「リラ、自分用のカップは作らないのか?」
「シィスルとマリーゴールドに羨ましがられるので、お皿だけにしておきます」
「なら、リラちゃんが、シィスルちゃんとマリーゴールドちゃんのカップも作れば、お店に来たときに使えるわ。たくさんで大変だと思うけど、どう?」
「ありがとうございます!作ります!」
リラは、カップの取っ手を右手で持ったときに、向こう側に花の絵、こちら側に名前が見えるように描いていた。
リラの何が凄いかって、絵の上手さは然る事乍ら、描くのがもの凄く早い。
3つ作っているのに、あっという間に作り終わった。
「みんな作ったわね。手を洗ってお昼ご飯を食べましょう」




