草花
「ユリ、あれって」
「え? あ!本当だわ!」
「何があるのにゃ? 見えないにゃ」
「なにー? なにー?」
ソウが示した方向には、細い木の幹に絡まる蔦のような緑に青い花が見えた。
そばまで行くと、野生で咲いているらしいバタフライピーだった。
「さすが暑い地方だとまだ咲いているのね」
「日本列島よりも南だからな」
「あ、プルメリアかしら」
「白くて、中心が黄色いのにゃ?」
「それよ。あ、極楽鳥花!」
「ユリ、色々知ってるのにゃ」
色とりどりのアオイ科の花が見えた。
「これは知ってるにゃ。ハイビスカスにゃ!」
「凄くいっぱい咲いているわね」
「ユリ、赤くて酸っぱかったお茶は、この花にゃ?」
「名前は一緒だけど、お茶のハイビスカスは、ローゼルという別の種類よ。それに、花ではなく、苞と萼なのよ」
「何でお茶は、ハイビスカスって呼ぶのにゃ?」
「ローゼルの学名に、ハイビスカス って入っているのよ」
「Hibiscus sabdariffaだな」
「ソウも凄いにゃ」
花を見ていると、農園の人が探しに来た。
「ホシミ様ー! ここにいらっしゃいましたか!」
「どうした?何かあった?」
「お茶になる花などはいかがかと思いまして」
ユリが食いついた。
「お茶になる花って、ローゼルですか?アンチャンですか?カモミールですか?」
「よく、ご存じですね。全てございます」
「ユリ、アンチャンってなんにゃ?」
「アンチャンは、バタフライピーよ」
以前、ラベンダーが購入したときに、アンチャンと言われたと話していたので、ユリもそれに習って現地の呼び方で尋ねたのだ。
「ローゼルは、乾物と、生がございます」
「生ローゼルください!!」
「は、はい!」
ユリの食いつきに、農園の人は少したじたじになっていたが、急いで戻るために歩きながら話した。
「乾燥してなくてもお茶になるのにゃ?」
「生ローゼルは、ジャムのほか、塩漬けにすると梅干しみたいになるのよ」
「塩漬けでございますか?」
「ちょっと説明が難しいけど、調味料に近い使い方で、漬け物の一種です」
「作り方は教えていただけますか?」
「洗って、種を抜いて、重量の10~15%の塩と混ぜるだけです。塩が馴染むまで置けば出来上がりです」
「ありがとうございます。今度作ってみます」
農園につくと作業小屋に案内され、出荷前の乾燥したものや、生ローゼルがたくさん置いてあった。
「蕾みたいにゃ」
「でも、これは花が終わったあとの萼なのよ。中に種が入っているわ」
「ユリ、これは何にゃ?」
「たぶん、レモングラスだと思うわ」
「さすがでございますね。殆どの方は、乾燥したレモングラスをご覧になって、藁や雑草とおっしゃいます」
「知らなければそうよね」
料理やハーブティーにでも使ったことがない限り、レモングラスを見てハーブだとは思わないのだろう。イネ科の草なので、枯れた薄の葉のように見えるのだ。
「何をいかほどご用意いたしますか?」
「ローゼルの生が10kg、乾燥が2kg、バタフライピーの乾燥が2kg、レモングラスの乾燥が3kg、レモングラスは可能なら根に近い部分が良いです。無理なら葉で良いです」
「ありがとうございます!! すぐにご用意いたします!!」
大慌てで数人がバタバタと用意を始めた。
見学に来る普通の人は、こんなに買わないらしい。ユリは、バタフライピーをリラにも分けようと思い、多めに頼んだのだ。
ローゼルが、予想より多かった。軽いのでかさばるようだ。
渡されるものを、ユリが片っ端からしまっていき、全て受け取った。
「ユリ、バタフライピーの苗は買わないのにゃ?」
「家の方では、もう時期的に育たないのよ。種があれば良いんだけどね」
「あの、種ございます。お持ちになられますか?」
「ありがとにゃ! 育ててみるにゃ!」
ユメがバタフライピーの種等を譲って貰った。たくさん買ったので、サービスで分けてくれたのだ。
バタフライピーの種は、黒い豆だった。
「なくなったらまた来ますね」
「はい。お待ちしております」
ユリはキョロキョロした。
「あれ?ソウとキボウ君は?」
「さっき、キボウが外に行くのをソウがついていったにゃ」
ユメと一緒に外に行くと、ソウがキボウの通訳をしながら農園の人に感謝されていた。
どうやら、調子の悪い植物に、キボウが直接意見(?)を聞いて伝えたらしい。
「あ、ユリ、もう買い終わったの?」
「ええ。良い物がいっぱいだったわ」
「種貰ったにゃ!」
「ユメー、たねー?」
「バタフライピーの種にゃ」
「ユメ、うえるー?」
「おうちに帰ってから植えるにゃ」
「あ、ユメちゃん、春になってから植えてね」
「わかったにゃー!」
「今日は帰るか」
みんなが転移して家に戻ってきた。




