果物
今日は花見の予定だ。
足湯に行ったとき、ソウがユメに提案した選択肢に有ったらしい、南国の花を見に行くことにしたのだ。
予備知識として、25~30度くらいあるらしく、夏物を着て、薄い上着を羽織る服装が良いらしい。
早朝から向こう(元の国)へ出掛け、無人の24時間営業の店で色々買ってきた。
ユリは昨日のうちに、お弁当箱に、お弁当を作った。
今までのものは、お弁当として食べてはいるが、普通の食事である。わざわざお弁当箱にいれ、持っていくときに冷まして持っていく予定なのだ。
ユリは、アロハシャツを用意した。
ユメの分も準備し、麦わら帽子とサンダルも揃えた。
キボウにも聞いてみたが、今着ている服のままで、着替えないらしい。でも、帽子だけほしいと言われ、キボウの分も麦わら帽子を用意した。
ソウは、帽子と、サングラスと黒い開襟シャツを着て、少し怪しい人風だった。
傍目からは、ユリも子供に見えるため、怪しいおじさんに連れられた子供3人に見えることだろう。
ユメが起きたら出掛けようと思っている。
場所の確認のため、先に、ソウに一度つれてきて貰った。夏のように暖かく、いや、むしろ暑く、寒暖差に服をどうしようかと悩んだのだった。
家の中で夏の服を着て、そのまま出掛けようと言うことになり、ユリたちは、帽子までかぶって用意済みなのだ。
「おはようにゃぁー」
少し眠そうなユメが起きてきた。
「おはようユメちゃん。すぐ出掛けて大丈夫?」
「わかったにゃ。服、変えてくるにゃ」
「私とお揃いを用意したけど、どう?」
ユリがアロハシャツを渡すと、喜んで受け取っていた。
「ありがとにゃ! すぐに着てくるにゃ!」
ユメはすぐに着替えて出てきた。
「ぴったりにゃ! 似合うにゃ?」
「ユリとユメ、姉妹みたいだな」
「にあうー、にあうー」
「ちょうど良くて良かったわ」
「さ、出掛けるぞ、忘れ物無いか?」
「はーい」「ないにゃ!」「なーい、なーい」
ユリがユメをつれ、ソウがキボウをつれ転移した。
「う、朝より暑いわね。上着要らないわ」
ユリはみんなから要らないものを回収し、指輪の鞄に詰め込んだ。
「喉が乾いたらすぐに飲むのよ」
ユメとキボウに水筒を渡した。
ユメは、持ってきたリュックにしまい、キボウは、肩から斜めに下げていた。
「少しだけ歩くぞ」
植物園のような所に行くらしく、ソウが歩くと言った。
どこかへ行かなくても、周りは花が咲き乱れ、美しい蝶も飛んでいる。
「どこに行く予定なの?」
「農園」
「農園にゃ?」
「フルーツ農園を見学に行く予定」
フルーツ農園? 南国フルーツの農園なのかしら?
「見学の許可は取ってあるけど、案内は居ないと思う。ほらついたぞ」
「これなんにゃ?」
「パイナップルだわ!」
「本当にゃ!あそこに生ってるにゃ!」
「ユメ、ほしいー?」
「これは採っちゃダメにゃ」
一面のパイナップル畑だった。
「ホシミ様ー! お待ちしておりました!」
ずらっと人が並んで、頭を下げていた。
「待っててくれたの? 待たせて悪かったね」
「お越しいただくのを楽しみにしておりました。味見などいかがですか?」
「なら、買うから、一つ採って良い?」
「構いませんが、収穫は大変でございます」
「キボウ、一つもらって良いって」
「いーのー? パイナーッポー!」
キボウがパイナップルに呼び掛けると、パイナップルが一つ飛んできた。
「うわ!キボウ、凄いな」
「キボウ君、凄いわね」
「もしかして、どんな植物でも呼び掛けると来るのにゃ?」
ユリたちは少し驚いただけだが、農園の人たちは、腰を抜かすほど驚いた。
一番早く復活した人が、ナイフとカットボードを持ってきてくれた。
切ってくれようとしたみたいだったが、ユリが手を出したので、条件反射でナイフとカットボードを渡してくれた。
ユリが切り分け、ユリは小皿と姫フォークをだし、ソウとユメとキボウに渡した。
「うわ!これ、めちゃくちゃ旨いな!」
「本当にゃ、もの凄く美味しいにゃ」
「あら、本当。今まで食べたどのパイナップルよりも美味しいわね」
「キボー、えらい? キボー、えらい?」
「キボウ凄いにゃ」
「味が違うのですか?」
「どうぞと言うのも変だけど、どうぞ」
ユリが小皿と姫フォークを渡すと、農園の人も食べてみた。
「うわ!これは、大当たりだ!」
「うちのパイナップルって、こんなに旨いのか」
「あのー、どうやって選んだのですか?」
「聞いても良いけど、答えがわかるかは期待しないでくれ。キボウ、どうやって選ぶんだ?」
「パイナーッポー!」
もう一つパイナップルが飛んできた。
「この通りだ、キボウにしかできないので、理由とか、技の伝授は無理だと思う」
「そ、そうでしたか」
「ユリ、いくつ欲しい?」
「10個くらいかしら」
「10個買っていっても良い?」
「は、はい!いくつでも構いません。あの、できれば、一ついただけませんでしょうか?」
「あ、じゃあ、これを」
今キボウが採ったものを渡した。
「キボウ、あと10個頼めるか?」
「いーよー。パイナーッポー!」
パイナップルが10個飛んできて、受けとる大人が、慌てた。
ユリが代金を払い指輪の鞄にしまうと、違うフルーツが植わっている場所を案内すると言われた。
巨大な月下美人のような、ゲームに出てくる敵キャラの木のような、サボテンぽい木がある場所に案内された。
「ピタヤはご存じですか?」
「あ!ピタヤ!ドラゴンフルーツ!」
「え、これがドラゴンフルーツなのか?」
「ドラゴンフルーツって、なんにゃ? カニバサボテンみたいにゃ」
「ユメー、ほしいー?」
「キボウ君に採ってもらって良いですか?」
「はいどうぞ、そして一つ分けてくださると」
「ユリー、なんこー?」
「うふふ、私これ好きなのよ。赤肉なら20個くらい、白か黄色なら10個くらいかしら」
「ピターヤ!」
キボウが叫んだ。
ユリの手元に20個、ソウの手元に10個、ユメの手元に10個飛んできた。キボウは一つだけ自分で受け取り、農園の人に渡しに行った。
「あかー」
「ありがとうございます!赤肉なのですね」
「ユリあかー、ユメーしろー、ソウきいろー」
「別けてくれたのね。キボウ君、どうもありがとう!」
「ご存じかもしれませんが、キボウ様がお採りになったものは完熟でございます。お早くお召し上がりくださるようお願い致します」
「はーい。おいくらですか?」
ユリが支払うと、次を紹介された。
「あの、バナナはご存じですか?」
「はい。あるんですか?」
「少し歩きますが、何種類かございます」
「生食用で、お願いします」
「かしこまりました」
「ユリ、これは食べないのにゃ?」
「食べてみる? ちょっと切りましょう」
ユリは自前のナイフとカットボードを取りだし、ドラゴンフルーツを半分に切った。
「にゃ!真っ赤にゃ!」
更に半分に切り、食べやすく切り目をいれ、皿に乗せフォークをつけて渡した。
「酸味の無いキウイフルーツみたいにゃ」
「うわ、なんだこれ、甘いな。俺が知ってるドラゴンフルーツは、あっさりして味がない感じだ」
「完熟ドラゴンフルーツは、甘いのよ。服につくと落ちにくいから気を付けて食べてねー」
「ユリ、よかった? ユリ、よかった?」
「キボウ君に感謝でいっぱいよ」
なにか協議したらしく、馬車をすすめられた。
馬車は激しく揺れ、はじめてユリは、ソウの馬車の飛び抜けた優秀さに気づいたのだった。
20分くらい乗り、もう限界と思ったところで、馬車が停車し、到着したようだった。
「帰りの馬車は要らないよ。ありがとう」
ソウは、御者にチップを払っていた。
バナナは、高い木に生っていた。植物学的には草らしいが、便宜上、木と呼んでいる。
「木に登り、お取りしますか?」
「キボウ、バナナも採れるか?」
「ユリー、なんこー?」
「どのくらいいただいて良いのかしら?」
「10個でも100個でも、お好きなだけ構いません」
「キボウ君、100個くらいでも大丈夫?」
「いーよー。バニャーナー!」
20本くらいついた房が5房、飛んできた。
今度は、静かにゆっくりと手前の草の上に落ちてきた。
キボウは一本だけ取り、案内人に渡していた。
頼むのを忘れていた案内人は、受け取り喜んでいた。
「パイナップル農園に戻るぞー」
「はーい」「わかったにゃ」「わかったー」
ソウが案内人をつれ、各自戻ってきた。
案内人は少しくらくらしていたが、転移を経験できて嬉しそうだった。
「お弁当食べられる場所はありますか?」
「東屋ですが、テーブルと椅子がございます」
案内してもらうと、庇もあるし、花も見えるし良い場所だった。
「少しの間お借りしますね」
「ごゆっくりどうぞ」
ブーゲンビリアとハイビスカスが見えた。
「さあ、お弁当を食べましょう」
ユリが、いかにもお弁当というお弁当を取り出した。
「お弁当にゃ!」
「ユメ、良かったな」
「ユメー、よかったねー」
「ユメちゃんが喜んでくれて良かったわ」
みんなで出掛けてお弁当を食べたかったと言っていたユメは、大満足だったらしい。
デザートには、完熟バナナを食べた。
「バナナも旨いな! 今まで食べていたのってなんだったんだろうな」
「流通するのは、完熟ではないからでしょうね」
「キボウ、ありがとにゃ」
「食べ終わったら、その辺見学しよう。知らない花も咲いていると思うよ」




