実践
7人とも退室したのでメイドさんに話しかけたら、おののくように下がられてしまった。
初期のマーレイと同じ反応だった。
うーん、困った。
すると少し制服の違うメイドさんが前に出た。
「大変申し訳ございません。今後このようなことの無いようにいたします」
「あ、ちょっと待って、私は怒ったり気分を害したわけじゃ無いのよ? さっきの人を叱ったりしないでね? ローズマリーさんにも言ったけど、私はこの国の常識がわからないの。だから、話しかけてはいけなかったのなら私の落ち度だからね。普通がわからなくてごめんなさい」
なんと言って良いのかわからないという顔をされた。
困らせたい訳じゃなかったんだけどな。とユリが考えていると皆が戻ってきた。
「お待たせいたしました」
全員がスッキリした服に着替えてきた。
飾りが少ないワンピースのような感じである。
ユリはコックコートではなく平服なので割烹着と三角巾を取り出した。
ユリの服装を見て興味を持ったローズマリーがたずねてきた。
「ユリ・ハナノ様、そちらはなんでしょうか?」
「着ている服が汚れないようにという意味と、服の埃等の汚れが食品に入らないように使います。割烹着といいます」
「なるほど、服の埃を」
「誰か来たときはこれを脱げばすぐ普通の服なので、いちいち着替えなくてすみます」
「そ、それは魅力的ですね!」
その後ユリの知らないところで割烹着が流行るのである。
「では、バターと砂糖を混ぜる方法と、卵と砂糖を混ぜる方法等、作り方が何種類かありますが、まずはお店と同じ方法で教えますね」
「はい」
「まずは全て計ってからはじめます。が、すでに計ってあるので先にいきます」
「計るのもするべきですか?」
「そこは、各人にまかせます。私は自分で計りたいです」
「・・・」
「ベーキングパウダーは入れなくても作れますが、フルーツなどを加える配合の場合、入れたほうが失敗せず膨らみます。
まず、常温においたバターに、上白糖をいれ白っぽくなるまでホイッパーで混ぜます。
最初は砂糖が飛び散らないようにバターに混ぜてくださいね。砂糖は上白糖でもグラニュー糖でも構いませんが、上白糖の方が少ししっとり出来上がります。
配合によっては、黒糖を使ったりもします」
話をすると皆の手が止まる。
「できれば聞きながら作業をしてください。
バターをよく混ぜながら溶きほぐした卵を少しずつ加えていきます」
卵を加える量に性格が出ている。
ものすごく慎重に加える人、割りと一気に加える人、まあ、混ざれば良いことなのでと思い、ユリは指摘しないでいた。
「卵が全部入りきる前に分離しそうだったら、少し分量中の小麦粉をいれると良いですよ」
バターが、バラバラな感じになって焦っていた人が、救われた!って顔をしていた。
「ベーキングパウダーと一緒によくふるった小麦粉を加え、少し艶が出るまで混ぜます」
「こ、このくらいで良いでしょうか?・・・はぁはぁ」
完全に息切れした声だった。
「はい。大丈夫です。良い感じです。
ここに、酒漬けのドライフルーツや、ナッツなどを加えて混ぜ、多めにバターを塗って粉をはたいた型に入れます。
敷き紙があれば紙を敷いても良いのですが、今日は紙を使わない方法です」
追い付かない人を少し待つ。
「このように表面を平らにし、型を低いところから2~3度落とすようにして大きすぎる気泡を抜きます」
皆は、若干手が震えているようだった。
「中心に濡らしたナイフで線を引くか、バターなどを細くパイピングします。
これをすると、割れ目がきれいにできやすくなります」
「ぱいぴんぐ?」
呟くような声が聞こえる。
「三角に切った紙をコロネ状に丸めて、細く絞り出すことをパイピングと言います。このコロネで、粉糖を卵白で練ったもので出来上がったクッキーに模様を書いたりもします」
皆は、ぐったりした感じで頷いていた。
「これを中温の窯で焼きます。
竹串などを刺してみて、ベトつかなかったら出来上がりです」
皆本当にへとへとのようだった。
確かに、初心者がハンドミキサーも無く手で混ぜるのはきついよね。
「体力が要るのですね・・・」
「他の作り方も説明しておきましょうか?」
「違いますか?疲れかた・・・」
「好みです」
「とりあえずお願いします」
「卵に砂糖を加えよく混ぜます。
少し温めながらもったりして角が立つくらいまで混ぜます。
ベーキングパウダーと一緒に良くふるった小麦粉を加え、サックり混ぜます。
溶かしバターを加え、混ぜます。
フルーツや、ナッツなど加え、あとは同じです」
私はとんとんと型を台に落としながら2個目を作った。
「・・・」
みんなは、まだのびているようだった。
もう無理と顔にかいてある。
「柔らかくしたバターに、小麦粉をいれて良く混ぜ、卵と砂糖を泡立てたものを加えていく作り方もあります」
「・・・」
まだやるの?と顔にかいてあるので説明にとどめた。
「更にもうひとつは、最初の作り方で、卵も泡立てて混ぜるやり方です。砂糖は、半分ずつ加えます」
「ユリ・ハナノ様、体力がありますのね・・・」
「毎日作ってますしね」
私が2個作ったので全部で9個になった。
焼こうと思ったら、窯は危ないと言って、メイドさんたちが見るらしい。
窯を見ないクッキーしか経験がないのなら、パウンドケーキは超ハードだっただろう。
焼けるまでお茶にするそうで、部屋を移動した。
ユリは割烹着を脱いだが、平服が合わない豪華な部屋だった。
三段のケーキスタンドに、一口サンドイッチや、クッキーや、フルーツが並んでいる。
うわー、いかにもって感じで、ユリはちょっと楽しくなった。
紅茶にいれるクリームを箱の中から出していた。
触るとクリームの容器が冷たい。
まるで冷蔵庫の温度だ。
「あの、この箱はなんですか?」
「この箱ですの?冬箱ですわ」
「冷たく保存できるのですか?」
「はい。真冬箱なら氷も保存できますのよ」
冷蔵庫と冷凍庫があったなんて。
「お茶なら混ぜてもらおうかな?」
パープル侯爵が、ユメちゃんのクーファンを持ったソウと一緒にこちらへ来た。
「あ、ソウ!これ知ってた?」
「これは?」
ソウはパープル侯爵を見た。
「冬箱かと。冷たく保存ができます」
「へえ。あるんだ」
魔力で動く家電があるらしい。
魔力を貯めた魔鉱石というのを電池のようにして使うのだとか。
燃費はどうなのかしら?
そもそもお高いのかしら?
チラッとソウを見るとニヤっとした。
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