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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
5章

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名札

家に戻り少しすると、ソウは大量の円の現金を数え始めた。


「どうしたの? それ」

「明日の一時帰宅者の、両替に使う分だよ」

「なんか、お(さつ)って久しぶりに見た気がするわ」

「あはは、そうだね。ここはコインだからね」


あちらにいたときも、キャッシュレスで買い物をしていたから、札束を見る機会なんてなかった。


「ユリ、紙袋貰っても良い?」

「良いけど、何に使うの?」

「これ、入れるのに」


ソウは現金を指差していた。


「・・・ドラマの身代金みたいにゃ」

「紙袋に札束は止めましょうよ。何人分必要だったかしら?」

「カナデを入れて7人だな」

「袋縫ってくるわ」


ユリは寒色のキルティング素材で、スナップボタンつきのミニトートバッグを7つ作った。


「はい。これなら破れる心配もないし、コインを入れても大丈夫よ」

「ユリ、ありがとう。あとは名前でも紙の荷札(にふだ)に書くかな」

「ソウはどこまでも紙なのにゃ」

「うふふ。プラバンで名前(ふだ)でも作る?」

「あいつらにそこまでする必要ないよ。ユリの袋だけでも贅沢なのに」

「ソウ、狭量(きょうりょう)にゃ」

「プラバンは、ユメとキボウと一緒に楽しみなよ」


「よんだー?、キボーよんだー?」

「キボウ君、工作する?」

「コウサクなにー?」

「ユメちゃんもプラバン作る?」

「懐かしいにゃ。作ったことあるにゃ」

「みんなで何か作りましょう」


ユリはプラバンを持ってきて、定規を当ててカッターで傷をつけ折って四等分にした。

18色の油性マジックと、色鉛筆と紙ヤスリと、除光液と綿棒を持ってきた。


「ユメちゃんは知っているなら説明は要らないかしら?」

「大丈夫にゃ」

「キボウ君、この透明な板に絵や字を書いて、オーブンで焼くと、縮んで固くなるの。好きなことを書いてみてね。ハサミで好きな形に切っても良いわよ」

「わかったー」


ユメは、油性マジックで瞳の青い黒猫を描いて、回りを切り抜いていた。


「ユメちゃん、パンチ使う?」

「ありがとにゃ!」


ユリは紙ヤスリで全体を擦ったあと、色鉛筆で色をつけていった。


「ユリ、絵は描かないのにゃ?」

「私、絵は苦手なのよね」

「ユリのは、何をやってるのにゃ?」

「え?プラバンの色付けって、こうするんじゃないの?」

「色鉛筆の色がつくのにゃ?」

「ほんのり透明っぽい色が着くわよ。色鉛筆よりもパステルがあるともっと良いんだけどね」

「知らなかったにゃ。油性マジック以外で絵や字を書く発想はなかったにゃ」

「私が考え出したって訳じゃないわよ? 教わったときに、すでにこういうものだったわ」


ユリは小さめの花型に切り出し、色違いの同じものを3つ作った。名札本体は名前を書き、うっすら青く塗ってある。


キボウの描いた絵の回りを尖った角がないように切り、パンチで上部に穴を開け、オーブントースターにオーブンシートを敷いて、全員の分を順番に焼いた。


ユリは出来上がったプラバンを平らなテーブルにだし、底が平らな鍋で押し付けてまっすぐにした。

花型の分は丸みの深いスプーンに乗せ、丸みをつけながら冷やした。

接着剤を持ってきて、花型の飾りを自分の名札に取り付けた。


「ちぢんだー!キボーかいたー、ちぢんだー!」

「これに紐をつけると、下げられるわよ」


出来上がったプラバンが不思議らしく、キボウは騒いでいた。


「ユリ、凄いにゃ。花凄いにゃ」

「もう一枚あるから、作ってみる?」

「作るにゃ!」


ソウは作らないらしいので、ユメに残りの1/4を渡した。


「向こうに行ったら、買ってこようかしら?」

「買ってきてにゃ! きっとリラも作りたいと思うにゃ!」

「あー、リラちゃんに作らせたら、売り物ができそうね。私たちと別次元のものを作りそうよね」


ユリは、プラバンとパステルを買ってこようと予定に入れた。


「あ、ソウ、私も両替頼める?」

「ユリの分は俺が払うよ?」

「いつもそう言って出してくれるけど、向こうからの仕入れ分すら請求しないのはやっぱりおかしいわ。そうだ、パープル侯爵に預かってもらっていたチョコレートの代金、全額ソウのものよ」

「マーレイやリラに払う分があるだろ?」

「お店の売り上げの方から払うから問題ないわ」

「ソウ、ちゃんと貰った方が良いにゃ」


珍しく、ユメがお金の助言をした。


「チョコレート30kgずつ売ったそうだから、当時の価格で75万☆、あとは、ガス代とかソウが払っているお店のものはちゃんと請求してください」

「ユリは食事作ってるじゃないか」

「ソウは、この住まいごと用意したわ。お店の代金すら私は払っていないのよ?」

「わかった。仕事関係のものは請求するよ」

「うん。一緒に頑張ろうね」

「そうだな、一緒だな」


ソウは、希望者には一人2000万円まで両替すると通達していた。案内人のカナデ・サエキは退職金があるので、円を必要としない。実質6人だ。

がしかし、持ちきれるだけと言う条件があるため、こちらの資金はあっても2000万円両替を希望する者はいなかった。


「ユリ、いくら両替希望?」

「あちらに残した口座のお金は、前回の買い物で使いきったから全くないのよ。手持ちに500万円くらいはあるけど、1500万☆を円に変えられる?」

「変えられるし、俺は助かるけど、何に使うの?」

「え、助かるの?」

「うん。ちょっと、(スター)に両替したい事情があって」

「1500万☆は剰余金なのよ。ほぼ最初に渡された額ね。お店の売り上げも合わせれば、もっとあるわよ?」

「そこまでしなくて良いよ」

「買いたいのは、業務用ミキサーをもう一台、デスクタイプを1台、オーブンの代金も払うわ。パウンドケーキ型や、天板を倍に増やして、時間があるときに仕込もうと思うの。あとは細々したものね」

「わかった」


「ソウ、何か月かに1度、買い出しを請け負ってはいかが?」

「え?」

「この国は、一番偉いのは私らしいから、あちらに入国で揉めなければ、買い出しに出る分には、私は構わないわよ? そうすれば、両替希望者も増えるんじゃないかしら?」

「ユリのパウンドケーキがあるかぎり、入国で揉めることはないよ。損するのは向こうだし」


「あとは、チョコレートの購入希望者とか、わらび餅はないらしいから、わらび餅の粉とか、材料で販売しても良いのよ? 明日って、みんな転移ポイントに集合なの?」

「明日はそう決まってる」

「帰りは?」

「王都組は、転移ポイントからパープル邸に行って、そこから城に転移で帰るはず」

「手荷物限定なのよね。向こうの転移ポイントまで運んでこられるなら1トンまでokにしたら良いわ。私が運ぶわよ」

「条件は?」

「生き物、生物(なまもの)、薬物、劇物、危険物不可。持ち込み品の無加工販売不可、ソーラー設備は設置できる人のみ許可、家電の譲渡は不可かしら」

「ガスはどうする?」

「あれ、鞄に入れられるかわからないわ」


聞こうと思ったらユメがいなかった。

よく考えたら、ユメに聞いたってわからないのである。


「あと、緊急連絡用に、みんなに以心伝心教えておく? 明日は、リツ・イトウさん来ないんでしょ?」

「どうかな? カナデが来るから来るんじゃないかな?」

「そうだ、私、服どうしたら良い?」

「あー、派手に魔法使うからな。衣装にするか?」

「向こうへ行ったら、ソウの家で着替えるわ。ソウは、冴木さんを送るでしょ? ソウの家で待ってるわ」

「了解」


明日に備え、ご飯のあとは、早く寝ることにした。

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