褒章
ユリが戻ると、全員厨房にいた。
お店の片付けも殆ど終わったらしく、後はご飯だけらしい。
「これ、カエンちゃんから預かりました」
ソウとユメとリラに、預かってきたプレゼントを渡した。
「え! 私の分迄有るんですか!?」
「カエンちゃんより年下だからかな?」
「あれ?そういえば、キボウ君はどこ行ったの?」
「外の販売手伝ってたぞ、歌いながら。クッキーが少なくなって、こっちに戻ってきたはずだけど」
「キボウ様なら、休憩室にいると思います」
ユリが覗きに行くと、ユリを見て寄ってきた。
「やすんだー! キボー、クッキー、てつだう?」
「どうもありがとう。もうお店終わりで、ご飯の時間よ」
キボウをつれてくると、今度はユメに頼まれた。
「ユリ、カエンにありがとうって伝えてにゃ」
「カエンちゃんなら、来週も来ると思うから又会えるわよ」
「来週は、来月にゃ」
「うん。わかったわ」
カエンが来るのは来週の水曜日木曜日で、29日30日だけど、今日の一週間後は31日だから、夜来たらユメには会わない可能性もある。
「ユリ、カエンって又来るの?」
「魔力を増やしたいそうよ。あ、名前聞くの忘れてた!」
「明日変えるのにゃ?」
「来週でも良いけど、城に行くのはEの日なのよね」
「とりあえず、夕飯食べるのにゃ」
「リラちゃん、任せちゃったけど、どうもありがとう」
「ちゃんとキボウ様のお肉なしも作りました」
「リラ、ありがとう、キボー、ありがとうした」
「さあ、飲みたいものはなんですか?」
無理矢理。無いものを考えて頼むメンバーであった。
その中でもマーレイは、ジンジャーエールをニコニコして自分で作っていた。
みんなに冷たい飲み物を作った後、熱い紅茶にたっぷりジャムをいれて自分用をつくったら、恨みがましい目で見られて、ユリだけが訳がわからなかった。
「飲みたいならみんなの分も作るわよ?」
リラが作ってくれたご飯は、鶏肉の煮込み料理だった。キボウの分は、芋の煮込みらしい。
トーストと一緒に食べた。
「唐揚げ、余ってるけど、食べたい人いるかしら?」
「食べまーす」
リラが最初に手をあげた。
「食べるにゃ!」
「俺も食べるー」
「マーレイさんとイリスさんも食べるわよね?」
「ありがとうございます」「はい!」
「キボウ君には、ブロッコリーの唐揚げね」
「ユリ、ありがとう、キボー、ありがとうした」
ユリは、普通の唐揚げと、チューリップ唐揚げを出した。
「カエンちゃんにも、チューリップ唐揚げ、いくつかあげてきたのよ 」
「カエンに? そういえば本家に行くと、いつもこれ有ったな。俺、それだけ食ってた気がする」
「へぇ。カエンちゃん、あげたい人がいるって言ってたわ」
「食べやすくて美味しいにゃ」
「そうね。これ、食べやすいわよね」
「今度お店で出します!」
「ユリ様、どうやって、お肉を骨にくっつけるのですか?」
イリスが質問してきた。
「これはくっつけたんじゃなく、剥がさなかったのよ。鳥の手羽先部分の肉を、骨を残したままひっくり返すのよ」
「想像もつきませんが、とりあえず、難しそうです」
「今度教えましょうか?」
「ありがとうございます。リラに聞いてもわからなかったら、お願いいたします」
「はーい」
リラは詳細な作り方を書いていたので、きっと大丈夫であろう。
「では、年明けは、10日Fの日からです。又よろしくお願いします」
ユリは紙袋をリラとマーレイとイリスに渡し、リラにはレギュムとクララとグランの分も頼み、解散をした。途端にお店が静かになった。
「ソウ、パープル侯爵の所に行きたいんだけど、何持っていけば良いかしら?」
「あー、俺、シャンパン持ってるからそれ持っていって、むこうで開けようか?」
「良いの?」
「ユリあんまり飲まないし、ユメも、あれ? ユメって、酒飲むの?」
「飲めるけど、あまり飲まないにゃ」
「キボー、のめなーい」
「ほら、俺しか飲まないのに開けると残るしさ」
「わかったわ。生チョコでも持っていきましょう」
「え?まだあるの?」
「私の鞄に少しね。足湯に行ったときのおやつの残りよ」
「キボウはどうするにゃ」
「キボウ君、パープル侯爵の所に行くけど、一緒に行く?」
「キボー、いっしょー、ユリいっしょー」
「一緒に行きましょう」
パープル邸に転移した。
ソウの部屋でベルを鳴らすと、すぐにメイドが来て、執事を呼んできた。
執事の案内で大広間に来ると、すでに席が用意されていて、なんと、ラベンダー迄来ていた。
一通り挨拶され、全員が着席すると、ソウがシャンパンを取り出した。
メイドがグラスを揃えて持ってきて、乾杯することになり、ユリが前に出て軽く挨拶することになった。
ソウとユメに習って、みんなもその場で立ち上がった。
ユリの挨拶は、正式な場ではないので、無礼講で、昔のように話しかけてくださいと最後に付け加えた。
「皆さんの健康と幸せを願って、かんぱーい」
ユリがグラスを手に持って少しあげると、ソウとユメが反応し、回りも真似をするようにグラスを持ち上げた。
ユリ以外に、ソウとユメも口をつけたことから、回りもみんなシャンパンを飲んだ。
ユリが席に戻り、全員が着席した。
「ハナノ様、これはなんでしょうか?」
「これ? シャンパン? 簡単に言うと、白ワインの発泡酒ね。詳しくは、ソウに聞いてください」
パープル侯爵は、相当気に入ったのか、ソウのもとまで来て、シャンパンについて話を聞いていた。
「あ、ユリ、生チョコちょうだい」
「はい」
ユリが取り出すと、メイドが取りに来てくれた。
「ユリ様、今何処から出したんですの?」
「魔道具の鞄を変形させたものなんです」
「色々入っているのですか?」
「他に、ケーキとか、唐揚げとか、お弁当とか入っています」
「えーと、食品をいれる鞄なのでございますか?」
「そういうわけではないけど、結果的に、そうですね。うふふふふ」
「ユリ、唐揚げまだあるのにゃ?」
「ユメちゃん食べるならあるわよ」
「食べるにゃ!」
ユリは皿をだし、その上に、鞄に有ったチューリップ唐揚げを全部取り出した。
「唐揚げは食べたことがございますが、これはなぜ骨がついているのですか?」
「チューリップ唐揚げと言う、わざと骨を残した唐揚げです。手に持って食べられるので、お弁当や、子供や、お酒のあてに好評なのです」
どうやって食べるのだろうと悩んでいるらしい回りに先だって、ユメが食べて見せた。
「持って食べるのにゃ」
ユリがすすめて、ユメが食べて見せたら、マナーで咎める人も出ない。面白がって、みんな食べた。
「熱々ですのね!」
「リラちゃんと、少し味付けが違いますのね」
「あ、リラちゃんが作った唐揚げを食べたことがあるのですね」
「一年近く、ここに居ましたからね。懐かしゅうございます」
「調味料の産地の違いかしら」
ユリは持っていたケーキ類も全て提供し、リラが預けていた売り上げを引き取った。
「ラベンダーさん、ユメちゃん、いえ、ルレーブ元陛下がなさったように、私も貴女に名を与えようと思います。希望の名はありますか?」
「ありがとうございます。母と同じ、『グラス』を頂きとうございます」
「マーガレットさん、貴女には、カエンの代わりに私から名を与えます。希望の名はありますか?」
「ありがとうございます。私も、母と姉と同じ、『グラス』を頂きとうございます」
「では、明日、書き換えますので、できるだけ静かに過ごしてください」
「かしこまりました」「かしこまりました」
「パープル侯爵、貴方にはとても世話になっています。名を与えても良いのですが、息子さんだけ名目がなく、どうしたら良いかと思案しています」
「恐れながら申し上げます。今の土地に居てくださる事が、何よりの褒美でございます」
「わかりました。土地を捨てることはありません。これからもよろしく頼みます」
「かしこまりました」
こうしてパープル邸での ささやかな集まりは、お開きになった。




