改作
「あと残ってるのは、パウンドケーキとなにかしら?」
「お店の注文は落ち着いていますし、夕飯とパウンドケーキだけだと思います」
「意外とパウンドケーキが進まなかったわよね」
「人が来たりしましたしね」
「パウンドケーキ、作ってしまいましょう」
「はい」
リラと話していると、カエンが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。カエンちゃん、何時まで大丈夫なの?」
「ユリ御姉様、お店は18時までと伺っておりましたので、それまで大丈夫でございます」
「ソウに用事がなければ私が送るけど、それで良い?」
「はい。ありがとうございます」
リラはパウンドケーキの準備だけ終わらせると、ユリに言った。
「ユリ様、夕飯の準備はまだですよね? 私が作っても良いですか?」
「構わないけど、頼んで良いの?」
「はい!」
「では、お願いします」
そのままリラは何やら材料を揃え始めたので、ユリはカエンとパウンドケーキを作り始めた。
お店の方も売り切れが出始めた。
「ユリ様、ポテロンと、黒ごまムースが売り切れました」
「イリスさん、ありがとう。残りぎみなのは何?」
「ヨーグルトゼリーのプレーンが、ほぼ残っています」
「わかったわ、対処します」
プレーンのヨーグルトゼリーを下げてきてもらった。朝、50個有った物が、47個残っている。
リラが心配して覗きに来た。
「ユリ様、どうされるのですか?」
「ユメちゃんが、クロ猫ッカン作ってたときの猫のクッキー型、どこにあるかわかる?」
「懐かしいですね。わかりますので、持ってきます」
リラにクッキー型を持ってきてもらい、ユリはヨーグルトゼリーの表面に、浅く型を押し付けた。
「あまり良く見えませんね」
「ここに、メイプルシロップを」
表面に、メイプルシロップを流し入れると、押し付けたクッキー型の模様が浮かび上がった。
「うわー!面白いですね! メッセージも書けそうですね!」
「簡単な文字なら可能ね。これで売れるんじゃないかしら」
「この後、一番になくなりそうですね」
プレーンを7個ほど残し、40個はメイプルシロップをかけた。
出来上がったものをカエンが店に持っていくと、リラの予想通り、その場で全部売れたらしい。
「ユリ、今のは何にゃ!」
「ヨーグルトゼリーのプレーンが売れないって言うから、メイプルシロップをかけただけよ。猫の模様は、クッキー型でつけたのよ」
「もう無いのにゃ?」
「え、食べたかったの? なら、残したプレーン下げてくれば、取っておくわよ」
「ありがとにゃ!」
ユメは、プレーンを7つ全部下げてきた。
「ユリ様、作りますか?」
「食べるときに、ユメちゃんにつくってもらった方が良いと思うのよね」
「たしかにそうですね!」
するとイリスが、相談に来た。
「ユリ様、他に黒猫仕様のお菓子はないのかと、何人かのお客様から」
「えー、何が残ってる?」
「ティラミスが30くらい、他は、20以下です」
「ティラミス下げてきてもらえる?」
「かしこまりました」
ユリは少し厚い紙と、ハサミとセロハンテープを持ってきた。
「リラちゃん、これ、猫型に切ってもらえる?」
「クッキー型と、同じような感じで良いですか?」
「お任せします」
リラがフリーハンドで、ささっと切ってくれた。
「ありがとう!流石ねぇ」
ユリは、持ち手を猫型の少し厚い紙に張り付け、ティラミスの上に置き、回りに粉糖をかけた。
「うわー!猫が浮かび上がった!」
再びカエンが店に持っていくと、やはりその場で売り切れたらしい。ティラミスは、32個有ったので、2個は出さずに先ほどのヨーグルトゼリーと一緒にしまっておいた。
残りは、イチゴムース、桃のババロア、抹茶ムースだけになった。
「もっと残るかもしれないと思っていたんだけと、何も残らなそうね」
「クリスマスケーキと唐揚げは、残っていないんですか?」
「唐揚げは32個(15皿分)残ってるわ。作った数は同じくらいのはずだから、15個くらいあるんじゃないかしら?」
ユリは唐揚げの残りはわかるので、ケーキも同じくらいだろうと思っていた。
リラが確認に行くと、クリスマスケーキは残り4個だった。
「あれ?何でそんなにずれたのかしら?」
「あ! ユリ様、私たちはチューリップ唐揚げを食べたので、」
「あー!それよ! 引くのを忘れていたわ」
「夕飯に唐揚げも食べましょう」
閉店ギリギリに食べに来た客が、残っていたケーキを全て買っていき、生菓子は売り切れた。
最後にクリスマスケーキが2個残ったのは、ユリが鞄にしまった。
外の販売も、生菓子は早い段階で売り切れ、残りは、女神の慈愛・パウンドケーキと、時送り・世界樹様のクッキーだけになったらしく、レモンパウンドケーキは売り切れた。
「無事閉店したわ。カエンちゃん、送っていくから準備してもらえる?」
「はい」
「リラちゃん、夕飯任せたわね。ちょっと行ってくるわ」
「はーい。すぐ戻られますよね?」
「5分か10分ってところだと思うわ」
「ユリ御姉様、準備できました」
ユリはカエンの肩に手を置き、カエンの屋敷に転移した。
「カエンちゃん、チューリップ唐揚げいくついる?」
「え、良いのですか?」
「欲しかったんじゃないの?」
「休憩しましたので」
「それは構わないわ。それで、いくつ欲しい?」
「3つほどいただけますでしょうか?」
「え、3つで良いの? まだ30個以上あるから20個くらいあげるわよ?」
「では、12個お願いいたします」
ユリは皿をだし、その上にチューリップ唐揚げを12個出した。
「それと、今日のお手伝い分ね」
パウンドケーキと世界樹様のクッキーをいくつかとりだし、渡した。
「ありがとうございます」
コンコンコン。
「姉上、お帰りでしょうか?」
「タキビ、今帰ったわ」
「弟さん?」
「はい。入れても良いでしょうか?」
「どうぞ」
「タキビ、入って良いわよ」
「失礼します。あねう、え、えーと?」
「こちらは、ユリ御姉様です」
「はじめまして。タキビと申します」
「はじめまして。ユリ・ハナノです」
「ユリ御姉様、お時間大丈夫でございますか? もし可能でしたら、少しだけお待ちいただきたいのですが」
「10分くらいなら待ってます。時間がかかるなら、又後で来るわ」
「すぐですので、少しお待ちくださいませ」
カエンが退室してしまい、タキビと二人残された。
「タキビ君も、魔力あるの?」
「結界がなんとか張れますが、殆ど魔力がありません」
「結界が張れるなら立派だわ。よかったら今度カエンちゃんと一緒に遊びに来てね」
「良いのですか?」
「まったく魔力がないと酩酊してダメらしいけど、少しでもあれば来ても大丈夫よ?」
「あ、いえ、ソウ様が」
「ソウに何か言われたの?」
「僕は、嫌われていると」
「えー、なんで? 何かしたの?」
「特に覚えはありません」
「んー、大丈夫だと思うわよ?」
「兄上と呼ばせていただけませんでした」
「あー、義理の兄になるのよね」
「ぎりの兄?」
「法的な続柄ね。もしカエンちゃんがいなければ、ソウとは従兄弟になるでしょ?」
「はい」
「そういう意味だと思うわよ。ソウは初め、カエンちゃんのことも、妹とは認めないって言っていたくらいだからね」
「嫌われた訳じゃなかった・・・」
「ソウはソウで、この家と確執があったみたいだからね、今は大丈夫だと思うわよ」
カエンが戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「はい」
「ユリ御姉様、こちら、クリスマスプレゼントでございます。朝、間に合いませんで、お手数ではございますが、お兄様の分と、ユメちゃんの分と、リラちゃんの分もお持ちいただけますでしょうか?」
「あら、ありがとう! 私は用意していなくてごめんなさい。パウンドケーキくらいしか持っていないわ」
「先ほどいただいたパウンドケーキで充分でございます」
「うふふ、なら、パウンドケーキを差し上げるわ」
ユリはパウンドケーキと、クッキーを2種類取り出した。
「ハッピークリスマス! では、またね」
「ありがとうございます」
ユリは転移で戻ってきた。




