底上
「ユリ、メイプルからの簡単な謝罪があったにゃ」
「謝罪ってなあに?」
「部下が持ってきたにゃ」
ユメからメモを渡された。
◇ーーーーー◇
ユメ様
夏板の件でご迷惑をお掛けしたこと、大変申し訳ございません。明後日、ハナノ様がお見えになる前に、一言お詫びをと思い至りました。
M.C.
◇ーーーーー◇
「えー。こんなことでいちいち謝ってたら大変じゃない」
「そうだにゃ。ユリ、例えば結果的に恩師に迷惑かけたらどうするにゃ?」
「謝るわ」
「そういうことにゃ」
「特に迷惑とは感じていなくても?」
「そこは恩師側の度量や力量によるにゃ」
「一番穏便なのは、このまま受け入れたら良いのかしら?」
「そうだにゃ」
ユリは、ふと思った。
「ところでメイプルさんが、なにがしかの迷惑をかけたと思っていると言うことは、夏板がもう納品されたのかしら?」
「そうかもしれないにゃ」
「トロピカルさんは、相変わらず対応が早いのね。午前中に来たのは、最終確認だったのね」
「既存商品の高性能版は、案外作ってあったのかもしれないにゃ」
「成る程、あり得るわね」
「ユリ様! サンタイチゴ終わりました!」
「あ、ごめん、ほとんどリラちゃんが作ったわね」
「えへへ、これ、面白かったです。他にも何か作れないですか?」
「この国って、確かハート型なのよね?」
「長めのハート型にゃ」
ユリは苺を半分に切り、ヘタの辺りを三角に切り込んだ。
「はい。ハートイチゴよ」
「あ!お城に有った旗の形!」
「この国はこんな感じの形らしいわ」
「国の形!? 旗には名前はないんですか?」
「calla lilyね」
「あれ?王族の方のお名前のカラーって、お花の名前ですか?」
「そうよ。リラちゃんすごいわね」
「リラ優秀なのにゃ」
割りと最近まで気がつかなかった王族が何人もいる。
そんなことを話していると、又訪問者があった。
トロピカル魔動力機器の店主だった。
「ハナノ様、お陰さまで、夏板を無事納品することができました。本当にありがとうございます」
「良かったわね。そうそう、昼頃来たコニファーさんにも言ったんだけど、そのうち国民の魔力値を底上げします。近い未来には、魔力をたくさん使うものも売れるようになると思いますよ」
「私が聞いてもよろしかったのですか?」
「もちろんです。同業者に噂として流しても良いですよ」
「はい。ありがとうございます。あと、午前中に伺ったものは、暖炉の代わりと考えてよろしいでしょうか?」
「その通りです。可能なら、安全対策も考えてみてください」
「はい。あの、昔考えたもので、木か竹の網で囲う熱くなる板を作りました。魔力値が大きすぎて製品化しなかったのですが、この考えでよろしいでしょうか?」
「はい。そのものですね! どのくらいの厚みで、いつできますか?」
「本体は、2cmくらいで、囲いの厚みを含めると5cmといったところです。試作品でしたら多少のサイズ違いで15個くらいございます。椅子の下に納めるサイズはこれからお作りします。35~60度くらいに温まり、火事にはなりません」
「使うのは早くても正月明けからなので、無理に急がなくて大丈夫です。試作品を出して良いならそれをください。お店の壁側に置きます。あと、製品としての正当額を請求してください」
「どうもありがとうございます。明日朝にお持ちいたします」
トロピカルの店主は、闘志を燃やした目をして帰っていった。
ユリが欲しかったパネルヒーターがすぐにできそうだ。
椅子の下に置くタイプができたら、馬車にも乗せれば馬車の足元も温かい。操縦席にも置くことにしようとユリは考えていた。
ユリがトロピカルの店主と話している間に、リラが食事の用意をしてくれた。
カエンを送って戻ってきたソウと、別の仕事が終わって顔を出したマーレイが揃ったので、皆で食事をし、解散した。
ユリは、鶏肉を漬け込み、明日の唐揚げの用意をしてから自分の部屋に戻った。




