菜食
「ユメと話し込んでるのかなぁ?」
「あー、名前の件で来たのね」
用意するランチを一人前増やすことにし、リラと準備していると、ユメとカエンが階段を降りてきた。
「ユリ御姉様、お邪魔しております」
カエンは挨拶したあと、視線が泳いでいた。
誰? と呟く。
気づいたらしいリラが自己紹介する。
「カエン様、私はリラです」
「リラちゃんが、大人になってる・・・」
あー、驚くわよね。5年前も大人だった人たちはともかく、子供の成長に5年って未知だわね。
ユリはそう考えていたが、どうやらカエンの思いは違うらしい。
「年齢を抜かれてしまいました・・・」
「カエン、戸籍の年齢は抜けないから」
ソウが、割りと無駄な慰めを言っていたが、年齢が近かった場合、微妙に感じるものがあるのであろう。
各人を比べてみると、
ソウ 32(27) 外見は20代後半(肉体年齢年相応)
ユリ 30(25) 外見は14~15歳(元の国でも中高生)
カエン21(16) 外見は高校生(肉体年齢年相応)
リラ 18 外見は20代前半
ユリの見た目は、いつになっても成人として扱われないほどの童顔なのだが、本人はあまり気にしていない。
13歳だった頃のリラは、すでに15~16歳に見えていたうえ、社会に揉まれて自分の店を持ち、弟子まで持つようになったのだ。仕方ないと言えば、仕方ないのだ。
「カエン、タキビだって大きくなっていたんだろ?」
「弟は、大きくなってはおりましたが、まだ小学生でございます」
「まあ、大事なのは、心持ちだからね」
ユリが声をかけた。
一番年齢と解離した見た目なのはユリなので、カエンは少し持ち直したらしい。
「カエンちゃん、ご飯食べていくでしょ?」
「はい。ありがとうございます」
みんなのランチは、リラが作ってくれると言うので任せた。ユリは午後の仕込みの用意だけして、リラの作っているものを見に行くと、トマトで野菜を煮込んだラタトゥイユのようなパスタだった。
「美味しそうね」
「茄子がもう少しきれいに残ると良いんですが、色が抜けて潰れちゃうんですよね」
「切ったあと油で揚げて、あとで混ぜたら良いわよ」
「え、あー! ユリ様がカレーに入れてた!」
「煮込んで味が染みていなくても、揚げて火が通って柔らかいから一緒に食べるとちゃんと美味しいのよ」
「今度、それで作ってみます!」
リラが自分のお店で出している料理らしい。
ユリは皿などを用意し、少し休んでいたイリスも加わり、食べられるように用意が整った。
ちょうど注文したものを持ってきたマーレイが、早いお昼ご飯に驚いていた。
「あ、マーレイさん。キリが良いんで早いけどご飯にしたのよ。大丈夫?」
「はい。この後の予定は決まっておりません」
リラが急いで一人前麺を茹で始めた。
半調理してあるので、軽い湯通しですぐに出来上がる。
アルデンテよりも手前まで茹で、一人前ずつまとめておき、注文を受けてから湯通しして使うのだ。
全員分が揃い、キボウも来たので、みんなで食べ始めた。
「リラ、美味しいにゃ!」
「美味しいわ。良くできているわ」
「旨いな。ラタトゥイユみたいだな」
「ありがとうございます!」
「キボー、たべるー、トマト、たべるー」
「もしかして、リラちゃんの作ったパスタ食べるの?」
「あたりー」
全員が驚いたが、リラがすぐに半人前作ってくれた。
「キボウ様、フォーク使えますか?」
「ちがうー」
キボウは自分でなにか取りに行った。みんながじっと見ていると、なんと、箸を持ってきた。
そして箸で上手に食べ始めた。
「マジか」
「うっそぉー!」
「キボウ、お菓子以外も食べられたのにゃ・・・」
今までお菓子しか食べなかったのに、突然食事をしたこと、箸が使えること、みんな驚いていたが、ユリが一番驚いた。
驚いた素振りを見せないのは、リラだけだった。
さすがリラ、度量が大きい。
「キボウは、ベジタリアンなのにゃ?」
「ラクト・オボ・ベジタリアンだな」
「あー、鶏卵、乳製品はokなのね。んー、うちで作るお菓子だと、中華のお菓子はダメなのかもしれないわね」
中華のお菓子は、ラードが入るものが結構ある。
次からキボウが食べられるものを用意しなきゃと、ユリは密かに決意したのだった。




