白衣
「ユリ様、そういえば、冬箱の魔動力機器コニファーさんの人がうちに来て、ユリ様に話したいことがあるけど、どうしたら良いかと聞いていたので、12時くらいなら時間とれると思いますと伝えておいたんですが」
「リラちゃんの店に行ったの?」
「はい。今朝です」
「ありがとう。私も用事があったから助かるわ」
「頼まれていた件って言ってました」
仕込みが一段落して、リラと話していると、外から声が聞こえた。
「恐れ入りますー。どなたかいらっしゃいませんかー」
「あら、誰か来たみたい。コニファーさんにしては、大分早いわね」
リラが見に行くと、トロピカル魔動力機器の店主だった。
「ユリ様、トロピカルさんでした。なんでも、王家に紹介したと言うのが本当か確認したいと言っています」
「あー、メイプル夫妻に夏板を紹介したわよ」
「第一王子のメイプル殿下ですね。私が伝えてきますか? 何か他に伝えることはありますか?」
「頼みたいものがあるから、店に入ってもらって」
「はい」
リラが伝えに行くと、ものすごく驚いたあげく、入るのをためらっているようだった。
ユリがお茶を持って立っているのを見たコニファーの店主は、入り口から一歩も入らずその場で平伏すので、ユリはお茶をテーブルにトレーのまま置き、入り口まで行った。
「白衣を着ているときは、この店の店主なので、平伏さないでください。仕事の用があるので、中に入ってテーブルについてくれた方が、ありがたいです」
「は、はい!」
顔をあげ、おずおずとお茶があるテーブルまでユリについて来て、促されて座った。
「まず、お尋ねの王家の話は、私が第一王子にすすめました。第一王子夫妻が個人的に使用すると思います。できれば、メンテナンスなしで5年壊れないことが重要です」
「は、はい」
「私の注文は、置き型の低温の夏板と、220度まで出せる鉄板付き夏板と油の鍋対応タイプです。置き型タイプは、まあまあ急ぎですが、220度の物は、急ぎません。第一王子、メイプル夫妻の注文が先で、次に置き型を優先してください。置き型タイプのサイズは、立てて置き、椅子の下に収まるサイズです。火事の心配の無い熱源として、外の待ち合いの倉庫に置きます。店内の壁側にも配置したいと思っています」
「か、かしこまりました」
硬い態度のまま返事だけをしている。
「質問があったらきちんと質問してください。王家の注文は質問ができなくて、こちらに聞きに来たのでしょう?」
ユリの指摘に驚いた顔をしたあと、つまりながらも、話し始めた。
「は、はい、あの、はい、こ、細かい仕様などを確認すると、ハナノ様と同じものだとおっしゃるので、何に使われるのか伺いましたが、ご注文をされているかたは、ご存じ無いご様子でして・・・」
「貴族の男性が、森などで泊まり込みの訓練をするのは知ってる?」
「はい。お見かけしたことがございます」
「その時に簡単な調理をするから、それに使えるように調整してもらえる?」
「はい! ありがとうございます!」
「魔力値を、以前の私くらいまで上げてから使う予定だから、その辺はあまり心配しなくて大丈夫よ」
「どうもありがとうございました!」
トロピカルの店主は、軽い足取りで帰っていった。
「おはようございます」
イリスが厨房側から出てきた。店に客が見えたので、倉庫側から入ったらしい。
「おはよう」
「何からいたしますか?」
疲れているのか、イリスは少し顔色が悪い。
「イリスさん、魔力どのくらい有りそう?」
「私の魔力でしたら、600~700pの間くらいだと思います」
「お!優秀ね。魔鉱石に魔力を貯める時の流す感覚はわかるわよね?」
「はい」
「それを全身めぐるような感じで意識しながら、体調の悪い場所が治るようにイメージしてみて」
「はい」
イリスは目を瞑って、イメージしてみているようだった。
「あ!」
「なにか変わった?」
「何となく体が重く感じていたのと、軽い頭痛がなくなりました!」
「それは、自己治癒です。怪我などの重いものは無理ですが、軽い体調不良は治ると思います。でも、落ちた体力は回復する訳じゃないので、きちんと体を休めてください」
「はい!どうもありがとうございます!」
「今、かなり使ったはずなので、パウンドケーキか、黒猫クッキーでも食べておいてください」
「ありがとうございます」
リラが興味深そうに聞いてきた。
「ユリ様、今の、私でもできますか?」
「不可能ではないけど、500p以上になってから試した方が良いかな。慣れれば100pでできるらしいけど、慣れないうちは、300~400p使っちゃうのよ。自己治癒使って倒れたんじゃ、本末転倒でしょ?」
「確かに・・・」
「それに、どこか具合の悪いところあるの?」
「ないです。あはは」
体調が悪くないのなら、試しようもない。
「イリスさん、家事との調整が大変なら、12時から来るので構わないわよ」
イリスは以前の通り、10:30頃から店に来ている。以前は11時に開けていたが、今は13時に開けるので、12時頃に来れば充分間に合うのだ。
「それにね、来月からユメちゃんが手伝うか、わからないのよ。イリスさん一人になる可能性が高いから無理しないでもらいたいのよ」
イリスは悩んでいるようだった。
「来られる時だけ早く来て、大変な時やゆっくりしたい時は12時に来たら良いわ」
「そんな曖昧で良いのですか?」
「大丈夫よ。急がない仕事はわりとあるからね」
「ありがとうございます。そのようにさせていただきます」
「あ、リラちゃんも、もう少し遅く来たら良いわ。今日も8時前から居たでしょ?」
ユリは8時少し過ぎた頃には戻ってきたのに、すでにリラがいたのだ。
「ユリ様が仕事を開始する時からいなかったら、勉強になりません!」
「以前は9:30からだったじゃない」
「自分で経営してみて、とても間に合わないと実感しました!」
「ランチ出していないんだから、そんなに早くから仕事しないわよ」
「何時からの予定だったんですか?」
「一人で作るなら8時前からだけど、リラちゃんや、リラちゃんの弟子が手伝ってくれるのでしょ? なら、特に何か無ければ9時に来てくれれば充分よ」
ソウが外から戻ってきた。
「ただいま。ってあれ? カエンは?」
「ソウおかえりなさい。カエンちゃん来てるの?」




