全種
ユリの想像する足湯は、木製の繋がった椅子に座ってみんな並んで入るのだが、そこに有るのは、自然石を加工した温泉と、小屋に積まれた座布団の山だった。
少し離れた広場には、テーブルと椅子もあり、持ち込んだお弁当などを食べる場所もあった。
「足湯というより、浅い岩風呂温泉だな」
「石の高さがいっぱい有るから選べるにゃ」
「何ヵ所か有るのは、温度でも違うのかしら?」
温泉と温泉は、木製のすのこで繋がっている。
ユリは全員にタオルを配り始めた。
受け取った方は驚き、ユリが「足を拭くのに使ってください」と言ったが、勿体無くて使えないのだった。
すのこの上で素足になって、下駄箱に履き物をしまい、座布団をお借りして、みんな好きな温泉に足をつけ、足だけの湯浴みが面白い!や、足しかつけていないのに身体中が温かい!など、楽しげな感想が漏れている。
少し疲れた人は、座布団があった小屋に腰掛けたり、軽く寝転んだりして休んだりした。
「キボウは、お風呂に入って、ふやけたりしないのにゃ?」
「ユメちゃんが寝たあとに、いつもお風呂に入っているわよ」
「知らなかったのにゃ」
なんだかユメがショックを受けていた。ユメは殆ど21時には寝てしまうので、キボウの入浴は知らなかったらしい。
ソウが20分程外すのでよろしくと言って、どこかへ転移していった。
ユリは、喉が乾いた人用に冷茶を用意し、汗をかきすぎた人ように塩分の入ったものも用意していた。
「なんですか、これ?」
「汗をかきすぎたときは、甘味と塩っ気のある水分を飲んだ方が良いのよ。風邪をひいて熱が高いときにも良いのよ」
まずはリラが飲んでみるらしい。
「なんか不思議な味ですが、なんか美味しいかも」
「飲みすぎないでね。コップ1杯が適量よ」
「どうやって作るんですか?」
「レモン果汁と低精製糖と荒塩を入れた水よ」
「それなら誰でも作れますね!」
「水に砂糖と塩が入ることが重要だけど、入れすぎも良くないからね。レモン果汁は好きなものに変えて良いわ」
「本当に不思議な味がします。甘い飲み物に塩を入れるとこんな味になるのかぁ」
「ユリ様、訓練の後の騎士様にも有効でしょうか?」
シィスルとマリーゴールドも飲みに来た。
「汗をかいた人なら、誰でも向いていると思うわ」
「私もいただいてもよろしいですか?」
「どなたでもどうぞ」
レギュムとクララとグランが飲みに来た。
「不思議な味がするが、何故か飲みやすい!」
「冷たいお茶が一番旨いと思っていたのに、こっちの方が飲みやすい・・・?」
レギュムとグランが感想を言うと、リラがマーレイとイリスにも渡していた。
ユリがリラに分量を説明していると、レギュムが売って良いか聞きにきた。希釈して使えるようにしたものを売る方が良いわよ?とユリが言い出し、その結果、リラが作ってレギュムが売ることになった。
シィスルとマリーゴールドも配合を持ち帰り、多少の調整をして売ったり使ったりするらしい。
「リラちゃん、家のレモン使って良いわよ。あれまだ沢山生っているでしょ」
「ありがとうございます!」
「ただいま!」
「ソウ、お帰りなさい」
「なにやってるの?」
「スポーツドリンクを売る算段。うふふ」
「ご飯はこれから?」
「ソウが帰ってきたからご飯にするわ」
ユリがテーブル3箇所に、紙製のランチョンマットを敷き、カトラリー、半鳥丼、皿に、ツナマヨおにぎり、肉巻きおにぎり、だし巻き玉子、焼売、紫蘇巻きロールカツを人数分置いていった。もちろん杖の鞄から出すので、見た目もいかにも魔法使いだ。
「ユリ様、格好良いー!」
リラが誉める(?)ので、ユリは尚いっそう楽しかった。
「ユリ、使いこなしてるのにゃ」
「うん、凄いな、ユリ」
ユメとソウが、少し唖然として見ていた。
「ユリ様、私達も1品だけ持ってきました」
リラが南瓜の煮物、シィスルがニンジンとゴボウのきんぴら、マリーゴールドがきのこの佃煮風だった。
「あ、私が作ると野菜が足りないのバレてるのね。あはは」
「ユリ様が残してくださったノートに書いてある料理を再現しました」
「あ、成る程」
リラたちには、少しずつ皿に乗せて貰い、みんなで食べ始めた。
「お弁当食べる夢が叶ったにゃ」
「え、そんな夢があったの?」
「うわー!出来立ての味! 温かい!美味しぃ!」
リラが騒いでいる声が聞こえた。
「ユリ、お肉の塊みたいなのは何にゃ?」
「肉巻きおにぎりね。お稲荷さんの皮が、焼き肉になった感じかしら?」
「なるほどにゃー」
「ツナマヨーー!!」
「これがリラさん大絶賛の、ツナマヨですの!?」
「うわ、本当だ、マヨネーズ味、美味しぃ!」
リラたちには、肉巻きおにぎりよりも、ツナマヨおにぎりの方が騒がれていた。
「リラちゃん、オイルサーディンの作り方もノートにあったでしょ?」
「生のお魚が手に入りませんでした。こちら(グンジョー)に来たときに作ってみたものは、焦げたフライのような感じで、なんか違うというか・・・」
「あー、ごめんなさい。温度書いてなかった?」
「温度ですか?」
「オイルサーディンは、低温の油で煮るのよ」
「え゛」
「今日、魚が売ってたら買って帰りましょう」
「はい」
大騒ぎ気味のお昼ご飯は、楽しく食べ終わった。
「デザート、ヨーグルトゼリーか、ポテロンか、イチゴムースか、黒ごまムースか、桃のババロアがあるわ」
「何でもあるのにゃ。ポテロンが良いにゃ」
「俺、イチゴムースで」
素早く決めたユメとソウ以外は悩んでいるようだった。するとリラが言い出した。
「黒ごまムースと桃のババロアは、明日出すデザートですか?」
「そうよ」
「シィスルとマリーゴールドには、二つでも良いですか?」
「どうぞ。他の人も、なんなら全種類食べても構わないわよ?」
ほぼ食べたことのないグランが全種類挑戦していたが、4つくらいで限界だったようだ。
帰りの馬車で、ソウの客車の乗員は同じだが、御者がレギュムとマーレイに変わった。
レギュムが、こちらの馬車を操縦してみたかったらしい。
向こうの馬車は、客車に、イリス、リラ、シィスル、マリーゴールドで、御者は、クララらしく、グランは操縦の予定だったのに、あきらめて横に座るようだ。




