密室
蓙を出し、折り畳み式テーブルを組み立て、みんなにおやつを渡していると、ユメとキボウが起きてきた。
「クッキー、クッキー、キボーのクッキー」
「ユリおはようにゃ。パウンドケーキ有るにゃ?」
「ユメちゃん、キボウ君おはよう。パウンドケーキもクッキーもあるわよ。あ、ミルクは持ってきていないけれど、冷茶はあるわ」
「冷茶も欲しいにゃ」
「クッキー、おちゃー、キボー、クッキー、おちゃー」
「はいはい。どうぞ」
ユメとキボウにお茶を渡し、ユリも蓙の方に座り、ミニテーブルも出してそこに飲みかけのお茶をおいた。
「ユリ様、魔法の道具ですか?」
「え? どれ?」
「あの、椅子つきのテーブル」
「あれは普通に売っている、お出かけ用の折り畳み式テーブルね」
「え、なら、誰でも使えるのですか?」
「簡単な組み立てを覚えれば、誰でも使えるわよ。使いたいなら貸すからいつでも声かけて。欲しいなら買ってくるけど?」
「え!良いのですか!? 私はたまにで良いのですけど、おじいちゃんとクララさんは、有ったらきっと便利だと思うんです」
「あー、出先で販売するのに使ったりするの?」
「持ち物が減ると、それだけ多くの品物を運べるので、絶対に便利だと思うんです!」
「じゃあ、聞いてみましょうか?」
「おじいちゃんと、クララさんと、お父さんと、お兄ちゃんを呼んでくれば良いですか?」
「欲しそうな人みんな呼んできたら良いわよ」
結局リラは、全員に声をかけたようで、全員集まった。
「組み立てるとき見ていたと思いますが、この組み立てテーブル、欲しい人に買ってきますが、何個用意すれば良いですか?」
「お願い致します」
まず始めに、レギュムが反応した。
「僕、いや、私もお願い致します」
次はグランだった。
「あのー、ユリ様、おいくらくらいなのでしょうか?」
「転売しない約束なら、1万☆はしないと思うわ」
「転売はしません!どうか、私にもお願い致します!」
シィスルだった。
「シィスルちゃん、何個要るの?」
「え! 何個でも良いのですか?」
「転売しないなら何個でも良いわよ?」
お父様と、お兄様と、・・・。
シィスルはブツブツ呟きながら数えているようだった。
「マーレイさんは要らない?」
「ハナノ様、転売する気はございませんが、私が持っていたら、必ず、断れない相手から売ってくれと言われてしまいます」
「成る程。じゃあ、マーレイさんの分は、私から借りていることにしてください」
「かしこまりました」
「ユリ様! 3つ、3つよろしいでしょうか?」
「はい。良いですよ」
「あと、私もお借りしていることにさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「構わないわよ」
見回しても特に発言する人がいなかった。
「では、とりあえず6つ、買ってきますね」
再び馬車に乗り込み、出発した。
「ユリ、いつ買いにいけば良い?」
「ソウが行ってくれるの?」
「ユリ自分で行くつもりだったの?」
「引き受けちゃったしね」
「どうやって6つ持ってくるつもりだったの?」
「ホームセンターで買って、台車に乗せて、さも車で来たかのように駐車場まで行って、人気のないところで鞄に詰めて、台車を返せば完璧かと」
ソウとユメが若干呆れているように見えた。
「完全犯罪の小説みたいにゃ」
「魔法使ったら、トリックも何もないわよね。大概の密室に入れるわ」
「密室に入るって何?」
「ソウが捕まったとき、部屋には鍵がかかっていてね。ドアごとゲートで抜けたのよ」
「え、物理的な障壁も抜けたの!?」
「抜けたわね」
「桁違いだ」
「ソウも家の壁は抜けてくるじゃない?」
「俺の部屋には結界張ってないしな。そうじゃなくて、俺が捕まっていたのって転移システム研究所だと思うんだけど、あの建物は、あの国の最高峰の防犯システムで守られてて、誰も、いや、ユリ以外は破れないんだよ」
「カエンちゃんが、部屋の前まで案内してくれたからね」
「あいつも規格外なんだな」
「何度見ても部屋が見通せないから、ここだって感じで話してくれたわよ。それで、中に転移しようとしたらできなかったのよ。だからゲートで強制侵入したのよ」
「改めて、カエンにお礼しないとな」
「ユリ、カエンの名前登録、頼んだにゃ」
「それ、思ったんだけど、ユメちゃんはローズマリーさんの名前変えたじゃない? 私はラベンダーさんやマーガレットさんの名前変えた方が良いの?」
「本人に希望を聞いたら良いにゃ。変更は、ユリしかできないにゃ」
「方法を教えてね」
「方法なら俺も教えられるぞ!」
「え、ソウ凄いわね!」
「カエンは一度改名しているからな」
そんな話をしているうちに、目的地についたようだ。
グンジョーの買い物をした辺りまでは、マーレイが先行していたが、そこを過ぎてからは、レギュムが方向を指示してグランが先行して走ったらしい。
マーレイに馬車の戸を開けてもらい、外に出ると、驚くほど寒かった。




