予定
割りとすぐに戻ってきたソウは、ユリに予定を話した。
「ユリ、帰宅希望者の帰宅が、明日か、一週間後なんだけど、どっちが都合良い?」
「送るだけならどっちでも良いわよ」
「なら、来週26日に送って、迎えが来年の2週間後の9日で」
「どこに送って、どこに迎えに行くの?」
「こちらの転移陣から、あちらの転移陣。持ち出しは不許可で、持ち込みは、一人で持ってこられるだけokとしたから。引き続き、みんなには詳しい場所は教えていないよ。混乱するからね」
そうね。混乱するわね。
皆さんには、手土産でも用意した方が良いかしら?
「みんな、お金はあるの?」
「向こうの現金や口座がない人には、俺が両替するよ。あと、明確な敵ではないけど俺とは対立していた組織からさ、どうしてもパウンドケーキを売ってくれって言われているんだけど、売っても良い?」
「ソウが良いなら構わないわよ。どうせ元上司さんが困ってるとかでしょ?」
「なんか制限とかある?」
「使用者の年収の、1/100でお譲りします。偽ると効果が出ません。女王からの伝言です。とでも言ったら良いわ」
「絶妙な数字だな。本気で欲しい人は払えるが、楽するためだとか収入に結び付かないと払えない額だな」
「値段はソウに任せるから、嫌な相手からはふんだくったら良いと思うわよ」
「そうするよ。ははは」
ソウの話によると、カエンはパウンドケーキを1本10万円で買い取っているらしい。カットしてから真空包装をして、一回分にして冷凍保存しているそうだ。
みんなで夕飯を食べ終わった頃、リラとイリスとマーレイが訪ねてきた。
店の明かりがついているのを見かけたらしい。
「ユリ様ー! お店の営業が終わったので遊びに参りました!」
「お疲れ様ー。いらっしゃい。クッキーの材料揃ったわよ」
「うわー! 嬉しい! どうもありがとうございます!」
「ユリ様、又雇ってくださると伺いました。ありがとうございます」
イリスが挨拶してきた。
「イリスさんが来てくれるなら百人力ね」
「ヒャクニンリキネ?」
意味がわからなかったのか、リラが繰り返していた。
「ものすごく頼りになるという意味の言い回しよ」
「そうなんですね! お母さんがユリ様のお役に立てるみたいで良かったです」
マーレイが質問してきた。
「ハナノ様、いつからお店を始められるのでしょうか?」
「予定では、明後日のMの日から、販売を始めたいと思っています。営業日は以前と同じく、Mの日、Fの日、Tの日、Gの日です。
Wの日、Eの日、Sの日はお休みの予定です。
Mの日、Tの日はお菓子の販売のみで、13時頃から営業しようと思います。午前中は、仕込みをします。
Fの日、Gの日は、ランチもしようかどうしようかと思っています。
とりあえず、今年いっぱいは、お菓子の販売だけします。喫茶は、イリスさんがやりたければ再開しますし、大変そうなら販売だけにします」
「明日から仕込みをするのですか?」
「明日の午後から仕込みをする予定です」
「明日の午後から参ります」「明日の午後から参ります!」
「おねがいしますね」
マーレイとイリスが明日の午後から来てくれるらしい。とてもありがたい。
その後は、せっかく材料が揃っているのだからとリラが言い出し、久しぶりらしいリラの華を作ることになった。
3週間ぶりに見るリラの華は、ユリの見たことのないデザインもあって、イリスも一緒に作っているのが、少し不思議な光景だった。
4人がかりで作っているので、出来上がるのがとても早かった。
「オーブンは便利ですねー」
「何日かは使えたの?」
「クッキーの材料の方が先になくなりましたが、2か月くらいは使っておりました」
「チョコレートは作ったの?」
「チョコレートは、ほとんどをローズマリー様にお譲りいたしました。アルストロメリア会は、臨時の会を2度ほど行いまして、ラベンダー様のお手伝いをさせていただきました」
居ない間、本当に苦労かけたなぁとユリが考えていると、気になってきたことをリラが話し始めた。
「ユリ様、チョコレートの代金は高額なのでローズマリー様に預かっていただいております。その他の販売したものの代金も一緒に預かっていただいております」
「え! 渡せなかった給料としてリラちゃんたちで受け取って良かったのよ?」
「ローズマリー様も同じようにおっしゃっていらっしゃいましたが、いくらなんでも多すぎます」
「私がいない間に販売したものは、原材料費以外あなたたちが受けとるべきよ! 今度ローズマリーさんに会ったときに、計算するわね」
「えーと、光熱費でしたか? オーブンのガス代を引かないとユリ様が損をされます」
「それは、家の管理費をこちらから払う分もあるので、必要ありません」
払いたいユリと、受けとるには多すぎて受けとりたくないリラで平行線になっているのを、イリスが遮った。
「ユリ様、黒猫クッキーは作らないのですか?」
「あ、そうね。ユメちゃんのクッキーも作らないとね」
「黒猫クッキーは、ハロウィンの日に作って配りましたところ、皆さんに泣かれてしまいまして、王国の騎士様がいらして残りを全部引き取っていかれました。翌年からは、ブラックココアなどの材料がなかったので、カボチャプリンと赤いシチューのみ作りました」
「あれ? ポテロンじゃないの?」
「真冬箱の維持は難しく・・・」
「あ、そうだったわね。ごめんなさい。ドリアは作らなかったの?」
「チーズが揃えられませんでした」
「あー、持ってくる間に痛んじゃうのね」
「はい」
「リラちゃん、魔力、上げましょうか。魔力さえあれば、冬箱にも真冬箱にも苦労しなくてすむのでしょう?」
「魔力って、増えるのですか?」
「思うんだけどね、イリスさんの方が多いんじゃない?」
「そういえば、そうかもしれません」
「イリスさん、リラちゃんに以心伝心を送ってみてもらえる?」
「はい」
イリスはリラに、以心伝心を送った。
『リラ、ユリ様と仲良くしてちょうだい』
「うわ! お母さんの声がそばに聞こえる!」
「これをできるようになれば、少しずつだけど、魔力が増えます」
「お母さんだけ、どうしてできるのですか?」
「イリスさんは、死の縁を覗いたからね。普通は、呪文を唱えて覚えてから使います」
ユリは呪文と使い方の説明をし、家族以外には絶対に送らないことを約束させた。
「あ、私やユメちゃんになら送っても良いわよ。マーレイさんは、ソウに送ると仕事の連絡が便利になると思うわ」
「え、私も使えるのですか?」
「リラちゃんの使い方とは違うけど、マーレイさんは使う前に、毎回呪文を唱えて送ってください。それなら魔力をほとんど使わないので、魔力が少ない人でも使えます」
マーレイに説明していると、リラが倒れ込んだ。
ユリは急いでパウンドケーキを取りだし、リラの口に無理矢理突っ込んだ。
「リラちゃん、無理はいけないわ。あなたの魔力値は300pだから、安全に送れるのは、最初は27文字までよ。毎日1回くらい練習して、地道に増やしてください。仕事に差し障るので、パウンドケーキを食べて回復してね」
モグモグしながら起き上がり、リラは謝っていた。
「ユリ様、ごめんなさい。これって、もしかして魔法ですか?」
「そうよ。あなたが使いたがっていた魔法よ」
「うわー! 凄ーい! 私、魔法使いになれるんだー!」
「1000pくらいまで増やせたら、なにか違うものを教えるわ。恐らく1万pくらいまでは伸ばせるはずだから」
出来上がったリラの華は、全てリラが引き取り、黒猫クッキーは全て置いていった。




