見学
「おはようございます!」
「おはようございます!!」
「え!?」
ユリが厨房で用意をしていると、リラが来た。
なんとイリスもいる。
「おはよう。えーと、まだ8:30だけど?」
「お母さんが早く行きたいって、掃除も片付けも早くから起きて終わらせたみたいで、ごはん食べ終わったら連れてこられました」
「イリスさんって方向音痴?」
「違います」
「なら、なぜリラちゃんと一緒に、というか、リラちゃんの出勤時間としても早すぎるわ」
「絶対に邪魔しませんので、見学させてください!」
「来てしまったものはしょうがないわね。適当に見学してください」
「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」
「あ、リラちゃん、イリスさんにノート1冊渡して、好きに使ってもらってちょうだい」
「はい!」
ユリが準備等している間、リラはイリスに、各所を回り説明をしていた。
ユリが今日のメニューを書き、イーゼルにのせると早速リラに質問しているようだった。
あれ?これって、新人研修?リラちゃんに割り増し料金出した方が良いかしら?
ユリは少し悩みながら、とりあえず、シートスポンジで作ったショートケーキをカットするのだった。
前回のティラミスで、足りなくて慌てて切ったことを踏まえ、とりあえず全てカットし、切った面が乾かないように、オーブンシートを細く切って巻いた。
ココットに切った耳をいれ、少しフルーツを足した。
缶詰の桃と、キウイフルーツだ。
冬箱を充填し、32個詰め込み、入らなかった分は冷蔵庫に入れた。
「リラちゃん、イリスさん、仕事の前にお茶しましょう」
「はい!」
「え!」
「今切ったケーキ食べませんか?」
「はい!食べたいです!!」
「お母さん、温かいお茶がよかったら自分で入れてね」
「あ!これ、うちにもあったお湯を作る魔法の道具!」
魔法の道具・・・。確かに魔法の道具ね。ふふふ。
「いえいえ、昨日いただいた冷たいお茶が良いです!不思議な味で美味しかったです」
「あの冷たいお茶は、麦茶です。ちなみに熱いお茶は、ほうじ茶です。メニューに紅茶もありますが、特に言われなければ、そのヤカンのほうじ茶を出します」
「実家にもなかった不思議道具が家に有って、昨日は驚きました。お湯があんなに簡単に作れるなんて、凄いですね」
「イリスさんも使えますよ?」
「えっ!リラだけじゃないんですか?」
「私は詳しくはないですが、イリスさんの病気は、簡単に言えば、魔力が詰まっていたらしいです。なので、魔力があるはずですよ。えーと、たしか菖蒲の外国語がイリスだったはず」
「私の名前も、リラの名前も、息子の名前も、先祖代々の名付けからつけたんです。なら、お父様や息子も魔力があるのでしょうか?」
「レギュムさん?調べておきます。息子さんの名前はなんというのですか?」
「グランです」
「グランはドングリなので魔力があると思います。外国語はソウの方が詳しいので、レギュムさんの名前は聞いておきますね」
「お父さん以外みんな魔力持ちだった!」
リラが驚いて声をあげていた。
ショートケーキは色味が残念だが、味は好評で、「本当はイチゴを使うのよ」とユリが言うと、リラが「イチゴなら赤が映えますね!」と、納得していた。
「おはようにゃ。何でイリスが居るにゃ!」
「ユメちゃん、おはようございます。見学です」
「ユメちゃん、おはようございます。お母さんついてきちゃいました」
「おはよう。ユメちゃん、ケーキ食べる?」
「ユリ、ありがとにゃ」
ユメは複雑そうな顔をしたあと、ユリが差し出したケーキを受け取った。
「リラちゃん、シーザーサラダドレッシング240人前お願いします。9:30からで大丈夫よ」
「はい!」
「あと、イリスさんに、エプロンの生地選んでもらって」
「はい!」
「何すれば良いにゃ?」
「ユメちゃん、もう始めるの?」
「起きてるから仕事するのにゃ」
「ユメちゃんって、ワーカーホリック?」
「仕事中毒にゃ? ユリよりは仕事してないにゃ!」
「ワーカーホリックって、仕事中毒って意味なんですか?」
「まあ、そうね」
「Sの日にイクラを食べに来た人が、『ハナノさんって、ワーカーホリック?』って言っていたんですけど、意味がわからなくて」
「そうにゃ、仕事中毒は、ユリのほうにゃ」
「私は常日頃休みたいと思ってるけど、仕事が多すぎて終わらないから、責任をもって仕事しているだけよー」
「多すぎる仕事に困ったとき、仕事を減らさず、仕事をする人を増やす辺りが、歴としたワーカーホリックにゃ!」
「ガーン・・・」
「ユリは、私やリラにしっかり休めといつも言うけど、本当に休んでほしかったら、まずユリがしっかり休むべきにゃ!」
「だから、休めるように給仕の人を雇いたいって・・・今ですら、食べに来た人全員には提供できていないのに、仕事を減らすのは無理があると言うか・・・」
「ユリの理想は何人で仕事するのにゃ?」
「厨房で3人、店に2~3人」
「もしその人数が揃ったらどうなるにゃ?」
「もう少し早く開店して・・・あ!」
「ワーカーホリックは、ユリにゃ」
「うー・・・」
「ユリ様って、素晴らしい経営者なんですね。使用人より働く主人なんて、滅多にいませんし、こんなにも素晴らしい職場は他にありませんね」
「こんにちはー・・・イリス!何でこんな時間から居るんだ?」
「あ、お父さん。お母さん早く来たいって、ついてきちゃったの」
「イリス、ユリ・ハナノ様にご迷惑をお掛けしないでくれ」
「はい。ごめんなさい」
「あ、マーレイさん、イリスさんは迷惑かけたりしていませんよ。あと、今言うのもなんですけど、フルネームだとめんどくさいと思うので、ハナノで結構ですよ」
「かしこまりました。それではハナノ様、今日の仕入れの確認お願い致します」
マーレイが持ってきたものを確認し、急遽必要になったものや、週明けの変更などを伝えると、マーレイが言い出した。
「ハナノ様、もし可能でしたら、何かお手伝いはございませんでしょうか?」
「はい。でしたら、適当に厨房で補助などお願いします」
イリスの事が心配らしく、マーレイが仕事を申し出た。
「ユリ、何したら良いにゃ?」
「クロ猫ッカンと黒猫クッキー作れる?」
「無理だったら言うにゃ」
「お願いしまーす」
ユリはパイ類を焼きながら、折りパイの仕上げを折っていた。
マーレイはとりあえず、ユメの補助をしてくれるらしい。
リラの方を見ると、ミキサーを覗き込んだイリスをリラが注意していた。
「お母さん、じっとしてて」
「はい。これも魔力で動くの?」
「これはユリ様が、デンキって言ってたけど、デンキが何かはわかんない」
「今作っているのはなあに?」
「これはとりあえずマヨネーズ16倍だよ」
「ユリ様がおっしゃっていた、シーザーサラダドレッシングというのはいつ作るの?」
「今作ってるよ?」
「え?・・・これはマヨネーズよね?」
「そうだよ」
その後リラが笑いながらドレッシングの説明をしていた。
「マヨネーズ、凄いのね!」
「違うよ、ユリ様が凄いの。他のドレッシングもマヨネーズ使うよ」
パイ類が焼き上がったユリは、さつま芋を大量に釜に入れていた。
栗の渋皮煮が無くなったので、スイートポテトを復活させるためだ。
「さて、朝の準備は終わったので、ランチの仕込みをしますか。リラちゃん、ドレッシング終わったらサラダ用の野菜お願いします」
「はい!」
「ユメちゃん、どこまで終わった?」
「クロッカンと、黒猫クッキーが途中にゃ」
「黒猫クッキー終わらせたら、こちら手伝ってください」
「わかったにゃ」
終わったクロ猫ッカンを、マーレイが冷蔵庫にしまっていた。天板に乗った黒猫クッキーをどうしたら良いかわからないらしく、悩んでいた。
「マーレイさん、黒猫クッキーもそのまま冷蔵庫にお願いします」
ユリは鳥モモ肉を細かく切り、ミックスベジタブルと一緒に炒めた。
ユメが黒猫クッキーを終わったと来たので、鳥モモ肉23枚を細かく切ってもらい、マーレイには玉ねぎ23個を薄切りにしてもらった。
ユリはミックスベジタブルにケチャップを入れ、水分を飛ばすように炒めた。
「ユメちゃん、おわん6個に、卵3個ずつ割り入れてください。
リラちゃん、手が空いたらリラの華おねがいします。
マーレイさん、トマト缶12缶開けてもらえますか?」
ユリはユメとマーレイに切ってもらった材料と、トマト缶を使って、バターチキンカレーを仕込んだ。
「マーレイさんは、これを食べて少し休憩してください」
ユリはマーレイにショートケーキを渡した。
場所を覚えたのか、イリスが冷茶を持ってきた。
「他のケーキもあるから今食べちゃった方が良いわよ」
「はい。ありがとうございます」
「ユメちゃんも少し休憩してね」
ユリは炊き上がったごはんの1/3に先ほど作ったミックスベジタブルの1/4を混ぜた。
次の米をもうひとつの炊飯器にセットし、炊飯を開始した。
「ランチ、始まるわよ! リラちゃん、ユメちゃん、イリスさんの補助をしてね」
「はい!」「任せるのにゃ!」




