塩蔵
朝ご飯を食べていると、申し訳なさそうにソウに言われた。
「ユリ、悪いんだけどイクラ作ってもらえる?」
「え?今日食べるの以外で?」
「転移組の医療班に話がバレちゃって、イクラ食べたいってうるさいんだよね」
「調理という意味で作るのは構わないけど、生筋子はどうするの?」
「又捕まえてくるよ」
「あ、うん。わかった」
そのままソウは出掛けていった。
あれ?出掛けた先って、鮭の捕獲?
悩んでも仕方ないので、冷凍したイクラを自然解凍し、予定通り休みの日にしかできない掃除や片付けをするのだった。
しばらくして、ユリがリビングに掃除機をかけているとユメが起きてきた。
「おはようにゃ、終わったら掃除機貸してにゃ」
「おはようユメちゃん。何か食べる?今日のお昼ご飯はイクラ丼よ」
「イクラ丼まで要らないにゃ」
「そういえばね、ソウが又、鮭を捕まえに行ったかもしれないわ」
「熊にゃ。又、背負って帰ってくるにゃ」
二人で笑いながら掃除をしていると、まだ10時前だが、ソウが戻ってきた。
今日は、保冷バッグらしきケースを両肩からかけていた。
「熊卒業にゃ」
「ん?なに?なんか言った?」
「なんでもないにゃ」
「ユリ、手伝うから魚さばいてもらえる?」
「何匹捕ってきたの?」
「今回は、7匹」
「お店で使うのはせいぜい5匹くらいよ。冷凍する?」
「今日来るやつにやっても良いよ」
「コバヤシさんと、ハヤシさん? わかったわ」
あ、ご飯炊かなきゃ。
厨房の一升炊きの炊飯器で、目一杯炊飯するのだった。
ユリは厨房の流しに鮭を入れてもらい、作業台の上で、さばきかたをソウに説明した。
「おはようございます!」
リラが元気に挨拶しながら来た。
「リラちゃん、おはよう。早いわねー」
「あ!これが鮭ですか?又フライにするんですか?よかったらさばきかた教えてください!」
「教えるのは良いけど、触るの平気なの?」
「美味しかったので平気です!」
「リラ、すごい理論だな。ははは」
「にゃ!リラがいるにゃ!」
「ユメちゃん、おはようございます!」
「おはようにゃ!なにするのにゃ?」
「鮭をさばくのを教えるのよ。やってみたいんですって」
「リラ、チャレンジャーにゃ」
ユリが全て内蔵を出してから、ソウとリラは下ろしていった。
二人が半身をおろし終わった辺りからユリはおろし始めたのに、あっという間にユリが3匹下ろした。
3人がかりでさばいたので、すぐに全て半身になった。そして7匹とも卵だった。
「すごいわ!全部卵だった!」
「そりゃそうだよ。メスしか持ってきてないし」
「えー、ソウ、鮭の雄雌が判るの?」
「色々見分けるポイントはあるけど、顔が優しいのが雌だよ」
「やさしい・・・」
リラが鮭を見て呟いていた。
鮭って、雌でも充分怖い顔だよね。
「すみませーん!ハナノさん居ませんかー?」
「行ってくるにゃ。お店に待たせておくにゃ」
「ユメちゃん、ありがとう。お願いします」
ユリは手が汚れていたので、ユメがいってくれるらしい。
ステンレスソープを使って手を洗い、ユリも店に行った。
「いらっしゃいませー」
「お招きありがとうございます」
「お召しに従い参上いたしました!」
「ふふふふふ。あ、お二人とも、鮭は要ります?」
「え!身も有るんですか?」
「今朝、ソウが捕まえてきました。今日呼んでいないメンバーに、イクラ丼がバレたそうです」
「え、突っ込みどころが多すぎて、ははは」
「ホシミさんって、どこで鮭捕まえてるんですか?」
「ソウー、鮭どこにいるのー?」
ユリが声をかけると、ソウが手を拭きながら現れた。
「パープル領の端に有る川の河口付近。誰も食わないから好きに捕って良いって」
「本当に捕まえてきたんですねぇ」
「それで、半身要ります?」
「半身!の半分くらいで良いかなぁ」
「ハナノさん、鮭何にするんですか?」
「前回は、お店でランチに使いました」
「えー!鮭出したの!?」
「マジか、チャレンジャーだなぁ」
「フライ、好評でしたよ」
「鮭フライ、食べたいなぁ。でもタルタルソースが作れないから」
「お店で出したとき、タルタルソースも出しましたよ?」
「え?マヨネーズ持ち込みまだ残ってるんですか?」
「マヨネーズは、業務的には持ち込んでいません。家内分だけなので、店の分は作りました」
「はあ?」「え?」
「フライ作ったら食べます? 明日も出しますけど」
「食べますし、マヨネーズ教えてください!」
「私も、マヨネーズ作り方知りたいです」
「リラちゃーん、マヨネーズ教えてあげてくれるー?」
「はーい!」
「じゃあ、私はフライ作ってきますね」
マヨネーズとタルタルソースはリラに任せ、イクラ丼の人数分のフライを作ることにした。
「何か手伝うにゃ?」
「茹で玉子、玉ねぎのみじん切り、ピクルスのみじん切り、どれが良い?」
「茹で玉子と、ピクルス切るにゃ!」
「じゃあ、俺が玉ねぎ切るよ」
ソウも手伝ってくれるらしい。
ユリは切った鮭にフライの衣をつけ、玉ねぎのクシ切りフライも用意した。
リラがタルタルソースの材料を取りに来たので渡し、ソウには、預かっているどんぶりを用意してもらった。
ご飯が炊ける頃に合わせフライを揚げ、ユメに、預かったどんぶり4個に、ご飯をよそってもらった。
大きいココット4つにタルタルソースをいれ、フライを突っ込み、どんぶりご飯と、瓶に入ったイクラをセットにして、ソウとユメに配達してもらった。
「酢飯にする人ー!」
「はい!」「俺も!」
「するにゃ!」「お願いします」
「すめしってなんですか?」
「イクラ食べるなら酢飯の方が良いけど、フライだけなら普通のご飯の方が良いかな」
「両方食べてみたいです!」
「リラちゃん、フライの用意をお願い、ユメちゃん、どんぶり5個、茶碗2個でお願い」
「わかったにゃ」
ユメが椀を揃える間、ユリは、ボールにいれたご飯を酢飯にした。
「酢飯にイクラをのせまーす」
「おおー!」「たっぷりだ!」
「うわー綺麗ー!」
全員でいただきますをして食べ始めた。
「うまーい!イクラもフライもタルタルもさいこー!」
「久しぶりすぎて涙でますー。美味しすぎる!」
「美味しいにゃ!」
「旨いな!」
リラはイクラ丼を睨んでいた。
スプーンにイクラとご飯をのせ、パクッと食べてみた。
「ん?んん?なんだろう?濃厚で、知らない味なのに、懐かしく感じる。なんか凄く美味しい!」
「あら、食べられそうなの? 今日はもうないから次回作る分をできたらあげるわね」
「ありがとうございます!!」
「そういえば、リラちゃんがここでご飯食べて、マーレイさんはどうしてるの?」
「組合に出ているので、ご飯食べてくるそうです」
「それならよかったわ」
「そうそう、コバヤシさん、聞いてみたかったんだけど、竹の子ってどうやって入手してるんですか?」
「今使っているのは、塩蔵です。無くなったらこちらで探したいと思ってます」
「あ!塩蔵、成る程・・・個人的に焼売を作りたかったんですけど、とりあえず、市場では見たことがないと言われまして」
「え!無いんですか?」
「竹の子が美味しいかは知らんけど、竹林はあるぞ?」
「え?どこに?」
「鮭捕ったそばに」
「太い竹もあった?」
「このくらいの竹も生えてた」
ソウは両手の親指と人差し指を使って大きな輪を作って見せた。
「タケノコ掘りに是非参加させてください!!」
コバヤシが懇願し、来年の竹の子が生える頃、竹の子を掘る要員として、ここにいる全員が参加することになった。
シャケの半身を半分に分けた物を渡し、二人は大満足で帰っていった。
◇◇◇◇◇
(おまけ・マヨネーズを作りながら)
「リラちゃんは、この辺に住んでいるの?」
「はい。歩いてすぐです」
「ハナノさんは、優しい?」
「ものすごく優しくて親切で私には休むようにいつも言うけど、でもユリ様は仕事ばかりしてます」
「ハナノさんって、ワーカーホリックなんだ」
「今日も、この後来る人とお芋を加工するみたいです。先週は、栗を持参した人に、モンブランと栗ご飯を作っていました」
「え、持ち込み対応してるの?」
「ユリ様は栗を買うつもりだったそうです。でも栗は売っていないので、拾って持ってくる人から買っていました」
「あ、持ち込む人が、ケーキとかご飯と変えてくれって言ったのか」
「そうです!」
◇◇◇◇◇




